牽制

「柏原くんにちょっかいかけるの、やめてもらえますか!」


 入学式から1週間の時が過ぎ。


 突然、昇降口で呼び止められた。




 可愛い……。


 背は160センチくらい。


 肩の辺りでゆったりおさげに結んだ、わずかに茶色がかった、フワフワの髪。


 色白な肌に、ぱっちりした瞳。


 オマケに、細いくせに、出るとこ出てる。




 絶対なれない、理想の女の子が、そこにいた。




「……えっ?」


 見とれちゃってて、何言われたか、よくわかんなかった。


「幼馴染だか何だか知らないけど、今は私と付き合ってるんです。馴れ馴れしくしないで下さい」


 それだけ言うと、彼女はパッと走り去った。




「何なの……いったい?」


 思わずつぶやくと、ポン、と肩を叩かれた。


「あれが、例の、マネージャー」


「絵梨香……」


「まあ、顔見る度に『れーこちゃん!』じゃ、彼女としては、落ち着かないんでしょ」




 そうなんだ。


 柏原くんは、顔を合わせる度に、昔のように『れーこちゃん』と声を掛けてくる。


 そのあとに『じゃなくて、北見さん』と付け加えるので、つい呼んでしまっているだけなのは分かっているんだけど。


 やたら目立つ柏原くんがやることなので、人目に付くし、一々『幼馴染で』と言い訳しないといけない。


 正確には、違うんだけど、これが一番納得してもらいやすい関係。




『幼馴染』。




 その言い訳を口にする度に、私の胸は、シクシク痛む。


 分かっていた。


 この胸の痛みが、何なのか。




 恋、なんだ。




 っていうか、分かったところで、どうにもならないけど。




 オマケに、今のダメ押し。




 敵いっこないじゃない、あんな、可愛い、彼女。




 叶いっこないじゃない、どんなに、彼を思っても。

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