再会
「もしかして、れーこちゃん?」
高校の入学式。
講堂に2クラスずつ並んで入場口で待機している時、突然声を掛けられた。
「え……、まさか、聡ちゃん?」
隣に並んでいたのは、何と柏原聡一くんだった。
男女混合のアイウエオ順だったから「カシワバラ」と「キタミ」が近いのは、まあ、分かる。
ただ……。
「背ぇ、高くなったのね……」
また、ずいぶんと。
私は相変わらず背が高くて、この時169cmあったんだけど。
その私が、顔を見上げる程、高い。
多分、190近いんじゃないだろうか。
「去年、S市に引っ越してきたんだ。れーこちゃんも、この学校だったんだね」
入学式が始まり、入場してクラス毎に左右に分かれたので、そこで会話は途切れたけど。
私は、入学式の進行も挨拶の内容も記憶にないくらい、呆然としていた。
覚えていたのは。
早鐘を打つ、胸の音だけだった。
「ちょっとー! 誰よ、あのイケメン!」
入学式が終わって教室に帰ると、同じ中学の子達にワッと詰め寄られた。
「ただの知り合いだよ。小学校ん時一緒だった……」
「ウソ! あんなカッコイイ男子知らない!」
小学校で同じクラスだった真由美が言うと、みんなの目線がキツくなった。
「一緒だったよ。アンタも同じグループだったじゃない? ほら、柏原聡一くん」
「……うそお! あの、怜子の後にくっついていた、小さい、あの?」
「あの、柏原くん」
「ウソー!だって、怜子どころか、クラスで一番小さかったじゃない! アレがどうしてアーなるの?」
何回「うそ」と言えば気が済むのか数えたいくらい、真由美は「うそ、うっそお」と繰り返した。
「……それが、ああなるの……びっくりしたのは私の方よ」
3年ぶりにあったら、あんなにカッコよくなっているなんて、反則だよ。
「柏原……聞いたこと有るかも。弱小のS東中のバスケ部が去年県大会まで行けたのは、すごい背の高い転校生が入ったからだって」
中学でバスケ部だった絵梨香が言った。
「あ、そうかも。去年S市に引っ越してきたんだって言ってたし」
そうか、バスケやってんのか……。
イヤなことを思い出してしまった。
「大丈夫、先輩たちには断っておくから」
私の視線に気が付いて、絵梨香が答えた。
「……だけど、もったいないよね。怜子の身長があれば、バスケもバレーも苦もなくこなせそうなのに」
「スミマセンね! 見かけ倒しの運動音痴で」
中学入学当時、既に165cmあった私は、盛んにバスケ部やバレー部に勧誘された、が。
背があるから誤解されがちだけど、私は運動神経が鈍い。
足も遅いし、ジャンプ力もない。
ホント、ムダに背が高いだけ。
「そんなことないよー! 去年の応援団長は、めちゃくちゃカッコよかったよ! さすがK二中のアンドレ様」
「ヤメテよ、その恥ずかしい呼び名」
運動神経ゼロの私は、何故か気が付けば演劇部に引きずり込まれていた。
演劇部なんてさあ、大抵男子が少ないか全くいない、タカラヅカ状態よ?
背丈のある子は、まず男役をやらされるのが常。
オマケに私はもろ男役向きと言うか……背丈があって凸凹の少ない体つきに、シンプルな顔立ち、合唱では必ずアルトになる低い声。
せめてオスカル様なら、まだ性別は女なのに。
何故に「アンドレ様」なのかと言えば。
「いいじゃない? 男の子に生まれていたら、絶対みんな恋しちゃうって!」
「それって、全くフォローになってないし……」
男装の麗人、と言うレベルではない、ということ。
ある意味見せ物扱いなんだよね。
「そんなこと言いつつ、学ラン来て応援団長やっちゃうし……公式戦でもやれば良かったのに」
あれは体育祭だから出来たんだよー。
「そういえば、柏原くん? て彼女いるんじゃないのかな?」
絵梨香の言葉に、みんながシーンとなった。
「まじっ?」
「うーん、バスケ部のマネージャーと付き合ってるって、噂になってたよ」
バスケ部のエースと美人(かどうかは知らないけど)マネージャーなんてベタな組み合わせだけど。
だからこそ、あってもおかしくない、というか、あり得る組み合わせで。
担任の先生が来ちゃったので、話はそこで尻切れトンボになっちゃったんだけど。
何だか。
胸の奥に、何かが刺さったような、シクシクした、痛み。
この時は、まだ気がついていなかった。
……気付きたく、なかった。
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