弐.成人の儀

ジャキアと夜神やみは17歳になり、ついに成人の儀をとり行うことになりました。城から離れていた夜神は、前日の夜に戻ってきました。


そして、当日。

二人はアルテリアから

”成人の儀は二人が成人になったことを証明する場所だ。

 だから、簡単なテストを受けてもらうぞ。”

と言われただけでした。二人とも成人の儀には興味がありませんでしたので、父の説明の後にどんなテストだろうねとそんな会話をするのでした。


夜神はずっと城を空けていたので、久しぶりの兄との再会に喜んでいました。

ジャキアも夜神のお土産話を楽しみにしていたので、二人はとても楽しそうに語らいました。


時間になり、二人は一緒に父の待つ神の間に向かいました。その途中、兵士たちがある噂をしていました。


”ついに罪人が決まる”と。


ジャキアはその言葉がとても引っかかりました。しかし夜神は、気にすることはありませんでした。


二人が神の間に着くと、もうすでに他の者たちが集まっていました。二人が入っていくと、皆の視線を一斉に浴びました。二人は揃って、父の前に歩み出ました。アルテリアは二人が自分の前に来ると、

”これから二人には試験を受けてもらう。まずは、政治のテストからだ”

と言いました。


二人は皆が見ている前で、父の補佐官から出される問題に答えていきました。

ジャキアは、問題を聞くとすぐに答えることができました。

夜神は、兄がすぐに答えてしまうので、じっと兄を見ておりました。


すべての問題を言い終えた補佐官は、二人の回答数を言いました。

ジャキアは、50問中50問。夜神は...言うまでもありませんね。


アルテリアが次に言いわたしたことは、

”町に行き、町の者たちの悩みを解決してくること” でした。

ジャキアは生まれてこの方、城から出たことはありません。

夜神はそんな兄を心配し、一緒に町へ下りていくのでした。


二人は一緒に行動しました。そして、一緒に町の者の悩みを解決していきました。

夜神が人々話を真摯に聞き、ジャキアの知恵でそれを解決していきました。人々は二人のおかげで、笑顔になりました。

そして人々は口々に言いました。


”お二人の御力がこの国をさらに良くしてくださるはずよ”

”ジャキア様の知恵と夜神様の行動力は合わさるからいいんだろうなぁ” と。


二人は城に戻りました。

戻ってきた二人を見たアルテリアは言いました。

”さて、これで試験は終わりだ。これから、どちらが次期王に相応しいかを決める”


二人はこの言葉に顔を見合わせました。

ジャキアは思わず声をあげていました。

”父上!そのような話は聞いておりません。それにこの場で決めるのはおかしいと思われます”


夜神は兄を横目に何かを考えているようでした。

アルテリアは二人に一度目をやってから、すぐに神の間に集まってきている大臣たちの方を向きました。そして、声高らかに言いました。


”私は、次期国王を!この二人に任せることにする!”


その言葉は神の間に集まる者たちを凍らせました。


皆さんは覚えていますでしょうか?過去にアルテリアが言ったことを。


”優秀な方を次の王とし、もう一人を罪人として処刑しよう”


あの言葉を信じて、今まで誰も文句も言わずにアルテリアについて来たのですから、

それはひどい反感を買いました。


”アルテリア様!あの言葉をお忘れか!どちらかには死んでいただかないといけませんぞ!それが我らとの約束ですぞ!” ”我らに嘘をつかれるのか!”


そんな言葉が神の間には飛び交っていました。

ジャキアは困惑して、ただその場に立っていることしかできませんでした。

夜神は皆の言葉を聞いて、すくっと立ち上がり、皆の言葉を遮るように言いました。


”では、私がその”罪人”とやらになろう。それで誰も異論はないのだろう?”


その言葉はその場に静寂をもたらしました。皆は夜神を見ました。とても落ち着き、凛々しく立つその姿に、何人かは美しいと思いました。アルテリアとジャキアは、驚きと怒りを顔に滲み出し、夜神を見ました。


そうして、皆は静寂を埋めるように拍手しました。そうです。賛成の拍手です。

夜神もその拍手に応えるようにお辞儀をしました。


その光景に待ったをかけたのは、アルテリアでした。

”夜神、お前が勝手に決める権利などない。皆の者もわしに反論など許されぬ!”


皆はアルテリアが怒りを露わにした姿を見たことがなく、恐怖のあまり言葉を失いました。しかし、一人だけそれに対する者がありました。それは、夜神です。


”父様。勝手に決めてしまったこと、申し訳ありません。しかし、皆の怒りを

 鎮めるにはこの方法が一番だと思いましたので、提案させていただきました。 

 今後兄さんが王座につかれる時、私がいては邪魔になりますし、皆も兄さんが

 王座につくことを願っております。それに、先ほど行いましたテストでも

 兄さんの方が優秀ではなかったですか”


アルテリアは、静かに夜神の言葉を聞いた後、補佐官に何かを言いました。

補佐官はアルテリアからの言葉を聞き、皆の前に立ちました。


”皆の者!私がこれからいう言葉は、アルテリア様からの言葉である。

 しかと聞き入れよ!それと、私の能力は知っているかと思うが、嘘がつけない

 という能力である。だから、今から私が語ることに嘘は一切ない。

 では、何故アルテリア様はお二人を次期国王になさるかという疑問に答えよう。

 それは、先ほどの試験でちゃんと証明がなされたからだ。政治の試験では

 確かにジャキア様しかお答えにならなかった。だが、だからと言って夜神様が

 答えられないわけではない。ここに、昨日私が作ったテストを夜神様と

 ジャキア様に解いて頂いたものがある。どちらも同じものだ。お二人とも

 すべて正解されている。そして、次の試験。あれは、お二人でご協力されて

 成し遂げられていた。それに、町の者たちも口々に申していた。

 ”お二人の御力がこの国をさらに良くしてくださるだろう”と。

 ジャキア様だけでも、夜神様だけでも、成し遂げることは不可能であったのでは

 ないでしょうか。

 このことを踏まえて、アルテリア様が考えなさった結論が、お二人で一人の王に

 なることである。不満がある者は前に出てくるがよい!私からは以上だ。”


補佐官の話は終わり、神の間は異様なまでの静寂に包まれました。

その静寂は長く続きましたが、アルテリアの言葉によって引き裂かれました。


”明日国王の引き継ぎ式をする。これにて解散!”


アルテリアはその言葉を残して、立ち去りました。置き去りにされた大臣たちも何も言わず、神の間から散り散りに去っていきました。


神の間には、双子だけが残りました。

ジャキアは、ふつふつと湧き上がってくる怒りと溢れ出しそうになる悲しみと戦っていました。

夜神はそんな兄を見て、神の間を後にしました。


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