第3話

「バレるに決まってんじゃん。そんな超古典的な作戦」

 その夜、ぷんすか怒る私に、玲奈お姉ちゃんは平然と言ってのけた。相変わらず汚い部屋に、スラリと伸びる生足。フットネイルのお手入れする暇があるのなら、部屋を片付けたらいいのに。

「まぁでもパンツまで落とす仕込みっぷりだから、あんたの想いは通じたと思うよ。結果的に見たら大成功じゃん。かの偉人だってそう言ってるし」

「何の事?」

「終わり良ければ全て良し。聞いた事あるでしょ? ウィリアム・シェイクスピアが残した格言」

 見た目ギャルに似合わぬ蘊蓄まで飛び出す始末。知ってるけどさ。

「想いは通じたって言っても、もっと他の方法あるでしょ! 明日どんな顔して会えばいいと思ってるの? あーどうしよう! もしかして私がパンツ落としたのも狙ってやったと思われてるのかな? 恥ずかしくて合わせる顔がないよー!」

「おっ、いいね。山本リンダ?」

「山本リンダ?」

「狙い撃ち」

「……古っ」

 指で作った銃口を向け、バンと撃つ真似をするお姉ちゃんに、私は冷静に突っ込んで返す。ギャルの癖にネタが古いんだってば。

「明日ねぇ……そうだ、そんなに顔合わせ辛いんだったら、急に後ろから両手で目隠ししてだーれだ? って声掛けるとか。知らない? 東京ラブストーリー。カーンチ、って。知らないか。あんた生まれる前だもんね」

 あなたも生まれる前のはずですけど。っていうかリメイク版放送したの知らないのか。

「いつの時代よ? お姉ちゃん、なんかいちいち古いってば!」

「何言ってんの。男なんて古典的な演出が大好物なんだから。あっ、食パン齧りながら走ってぶつかるってどう? ついでに人格入れ代わっちゃうとか。あーでもそれだと転校生にならなきゃ成立しないか」

 ……どうやら私は、まんまとお姉ちゃんの遊び道具として使われたようだ。

 そうは言っても数日後、私を呼び出した彼からお付き合いを申し込まれるというおめでたい結果に繋がったから、あんまり文句ばっかりも言えないんだけど。きっかけはお姉ちゃんの作戦だったわけだし。

 でも彼の告白方法というのが「お願いします」って頭を下げながら右手を差し出すという、なんだかすっごく昭和っぽさを感じるやり方でちょっと複雑だった。普通に「好きです」とか「付き合ってください」とか言ってくれれば良かったのに。お姉ちゃんの言う通り、彼も古典的演出が大好物だったりしたらどうしよう。私もそういうノリで対応した方がいいんだろうか。

「智恵美、東京ラブストーリーって言えば有名な名ゼリフがあるの知ってる? 二人の距離がぎゅっと近づく良いセリフなんだけど」

 私の頭の中を見透かしたように、お姉ちゃんが言う。その嫌らしい笑みはまたしょうもない事考えてるな。でも……まぁ、参考までに聞いておこうかな。

「……何それ?」

「セックスしよっ、って言うの」

 言えるかぁっ! もうお姉ちゃんには何も聞かない!

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【超古典的】落としもの大作戦(おまじない付) 柳成人(やなぎなるひと) @yanaginaruhito

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