おなら 続き
「そう。おなら」
ぬったりと虚ろで、はっきりと焦点が定まらない黒い眼で彼女は遠いところを眺めようとする。
「あたしね、ひとよりおなかにガスが溜まりやすいの」
しっかりとくびれた彼女の生身のウエストに僕は目をやる。流石は元国民アイドルとだけあって、贅肉をつまむ隙もないほどに絞られている。ふと僕は、彼女の所属していたグループのある一曲を思い浮かべた。CDジャケットのセンターに彼女がいて、メンバーと海浜で水を掛け合うワンシーン。彼女は黄色のビキニで身の一部を隠す。真っ白な砂浜。雲ひとつない青空が果てしなく広がっていて。きっとクレオパトラも気に入って、そのまま形を切り抜いて装飾品にしてしまいそうな、エメラルドグリーンを敷いた半透明の海。
熱々な夏に負けないくらい
アツアツなボクたち
恥ずかしさなんて吹き飛ばして
全部さらけだしてしまえ___
そんな歌詞だったが、曲名は思い出せない。
「可愛い女の子が人前でおならをするなんて有り得ないでしょ。アイドルなら尚更よ」
ダブルベッドで横たわったままの僕には目を向けずに、彼女は淡々と語り出す。上司の愚痴を吐露するような、あの溜息混じりの口調である。
「アイドルで忙しかった頃、イベントに顔出したり、ラジオとかテレビに出演したりするとお弁当が出たんだけど。他のメンバーは美味しそうとか太っちゃうとか言って頬張ってる中、あたしだけはおならの心配をしてたの。おかしな話でしょ。今はもう昔ほど酷くはないけど、当時は一種のコンプレックスだった」
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