おなら

ほてー。

おなら


佐倉ミルルは建前で、川島峰子という本名を持つこの女は、カレーライスを食べるようにしてコカインを吸う。峰子のカレーライス好きは極端である。朝食は何がなんでもカレーライスを摂ると決めている。二日酔いだろうが、インフルエンザだろうが、関係ない。朝早くから用が入っていたり、寝坊をしてしまった時は、例外的にカレーパンを摂る。これは峰子にとって最大限の妥協であり、苦渋の選択である。それほどカレーライスを愛している。そしてそれに匹敵するくらい、コカインを溺愛している。

峰子はまた愛煙家であり、23という実年齢とは不釣り合いな「わかば」を好んで吸う。いわく、自分なりのファッションでありアクセサリーである。

そんな元アイドルはまさに今、蕩けてしまいそうな表情を浮かべてコカインを吸引している。それは母乳を必死に吸う赤子を連想させる。


「どうしてそれを吸うようになったの」


会社を辞め、夢への一歩である警察官採用試験を3日後に控えた僕は、彼女にふと問うた。


「それは警察官を志す者として?それともあなた個人として?」


加熱して気化させて発生したコカインの蒸気を吸いながら、彼女は言った。


「個人として」


大きく息を吸って、快感に満ちた表情のまま彼女は告げた。


「おならがきっかけ」


「おなら?」


「そう。おなら」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る