第31話 勇者と魔王と朝焼けの巫女

「よくここまで来たな、光の勇者よ!」


 魔王城の最深部で独り、玉座に座り右手でワイングラスを転がす魔王と対峙する。


「闇の魔王ダークマオーッ! お前の悪事も今日までだ!」


 魔王に伝説の剣サンライトピカーンの切っ先を向け言い放つ。


「フフフ、それはどうかな?」


 魔王は余裕の表情のまま左手をかざし、何やら呪文を唱える。


「我が漆黒の闇に抱かれよ、ブラック魔法『ヤキンアケ』!」


「なにッ?!」


 突然の疲労感と睡魔に襲われる。


「なんだ……体が怠い……瞼が、重い……」


「フフフ……そのまま深い眠りに落ちるがいい」


 剣を地面に突き刺し、必死に耐える。


「クソッ、このままでは…………いや、なんか逆に冴えてきた。眠いはずなのに寝られなくなったぞ!」


 そうだ。道中で散っていった仲間たちのためにも、ここで負ける訳にはいかない!


「流石は勇者……徹夜明けのテンションで我の魔法を跳ね返すか。だが、これはどうかな?」


 魔王が再び呪文の詠唱を開始する。


「ずさんな管理に恐れおののけ、超ブラック魔法『コバヤシカコオ』!」


「ぐうっ……ただの抗生剤を飲んだだけでこんなに眠いだと?! ありえ、な……い……」


 あまりの眠気に膝からくずおれる。


「フフフ……今度こそ勇者の使命など忘れ、ゆっくり休むがいい」


「ここ、まで……か…………」


 全てを諦めかけたそのとき──


「勇者よ、寝てはなりません。おはよー☆

おきて♪」


 魔王の呪文を打ち砕く、早朝の小鳥のさえずりのような声。

 振り向くとそこには、日の出のように眩い乙女がいた。


「貴女は……朝焼けの巫女アゲノポヨヒメ! 何故、ここに!?」


「私たちも共に戦いますわ。ちなみに隣にいるのは護衛の獣人族、ツメシャープさんです」


「がおーん(ツメシャープだ。宜しくな、坊や)」


 そうだ……俺は光の勇者。こんなところで屈してたまるか!

 両足に力を込め、立ち上がる。


「どうやら小細工は通用しないようだな」


 パリーンッ!

 ワイングラスを放り投げると、深紅のマントを翻し魔王が玉座から立ち上がる。


「よかろう。我が直々に相手をしてやる。真の絶望と恐怖と心強さとをその身に刻み込み、今夜は涙で枕を濡らすがいい!」


 凄まじい威圧感。だが負ける訳にはいかない。俺は光の勇者クラクナーイ・テルヒコなのだから!

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