第25話 本当は怖くないグリム童話『ラプンツェル』

「やぁ、ラプンツェル。今日も会いに来たよ」


 窓べりに頬杖をついて外を眺めていたラプンツェルに、王子様が塔の下から呼び掛けた。

 ラプンツェルは彼を蔑むような目で見下ろすと、気だるげに髪を外に垂らす。


 王子様はそれを素手で掴もうとしたが──


「あwwwキューティクルwwwツルツルでwwwつwwwかwwwめwwwなwwwいwww」


 それを見たラプンツェルはため息をつき、王子様にプレッツェルを放って寄越した。


「さんきゅう☆」


 王子様はプレッツェルを塔に立て掛けると、それを踏み台にして塔をよじ登った。


 そうして部屋に招かれた王子様は、ラプンツェルに語りかける。


「やぁ、元気にしてたかい? 今日も──」


「早くしてちょうだい」


 王子様の言葉を、ラプンツェルが遮る。


「貴方と話すことなんてないわ」


「つれないね」


 王子様はおどけた。


「別に、貴方になんて興味ないもの。私はアレがほしいだけ」


「アレ? アレってなんだい? ちゃんと言ってくれないとわからないよ」


 とぼける王子様にラプンツェルは苛立ち、掴み掛かる。


「ふざけないで! アレ以外に用はない! 早く出して!」


「やれやれ……アレっていうのは、コレのことかな?」


 王子様はおもむろにズボンの中からアレを取り出した。


「そうよ! これが欲しかったの!」


 それを見たラプンツェルの目の色が変わる。


「フフ……つい最近まで知りもしなかったのに、もう夢中だね」


 口一杯に頬張るラプンツェルの姿に、王子様は満足そうにほくそ笑んだ。




 ──それから数ヶ月後。


「ラプンツェルや、おはよー☆ おきて♪ 今日も健康ヘルシーな朝ご飯よ!」


 今朝も魔女がラプンツェルの部屋を訪れる。

 少し前までは髪を伝って登っていたのだが、歳には勝てず腕の筋力は衰え足腰が痛かったので、今では直通エレベータでこの部屋まで来ていた。


「おばあちゃん……私、太っちゃったみたい」


「ンマァ! なんてこと!」


 お腹の大きくなったラプンツェルを見て、魔女は大層驚いた。

 何故なら彼女の栄養管理はばっちり。しっかりカロリーコントロールをした上で脂肪の燃焼を助けるお茶まで飲ませていたからだ。


「マジョスティック・サーチアイ!」


 説明しよう! 魔女の固有スキル『マジョスティック・サーチアイ』はあらゆるものを透視し、どんな秘密も暴くことができるのだ!


「ラプンツェルや……そのスカートのポケットに隠しているものをお出し」


「ぁ……でも、これは……」


「いいからお出し!」


 魔女の剣幕に押され、ラプンツェルは渋々ポケットに隠していたものを取り出す。

 それは、王子様がいつもズボンのポケットから取り出していたアレだった。


「おばあちゃん許して! これは後で食べようと思ってとっておいた──」


「だーめ! 間食なんてするから太るの。この王室御用達高級チョコレートは没収!」


「いやーんっ!」




 それからというもの、ラプンツェルはメタボ対策のため塔の外に出され運動するようになったそうな。

 めでたし、めでたし。

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