第23話 とある女生徒たちの会話

 時はお昼休み、場所は教室。


 机に突っ伏したまま話しかけてくる静流に、楓は小説を読みながら気のない返事をしていた。


「人は、何故学ぶのだろうか。そして何故ご飯を食べると眠くなるのだろうか」


「んー……」


「ねー、楓」


「んー?」


「私、新しい遊び考えたんだけど」


「へー……」


「……」


「……」


「『ぇっ、なになにどんな? ゎー楽しみー』とか言って!」


「めんどくさいな、お前」


 楓は静かに本を閉じた。この休憩時間に読み進めることはもはや不可能だと判断した。


「名付けて『おはよー☆おきて♪ゲーム』!」


「ゎー楽しみー……」


「まず私が『おはよー☆』って言って楓を指差すでしょ」


「うん」


「そしたら次は楓が私を指差して『おきて♪』って言うの」


「それで?」


「そしたら私の両隣の人が『なはなは』ってする」


 頭の両脇で掌をぴょこぴょこさせながら静流が言う。


「せんだみつおゲームじゃねーか。なんか途中で考えるのめんどくさくなって諦めてるっぽいし」


「じゃぁ両隣が『シャウエッセン』って言う」


「今、頭の中に浮かんだ食べ物適当に言ったろ、絶対」


「そう……つまり学校教育とはその程度のものなのよ」


「何がよ」


「この程度の発想力も培うことができないのが日本の教育の現実。そこに一体なんの意味があるのだろうか」


「多分、そういう人材を育成するためのものじゃないからね。てかそんなんで否定されてたら日本の教育が可哀想だわ」


「学びとはなんぞや」


「んー……」


「目標もなくただひたすら走り続けろと言うのだろうか……ハムスターのように」


「まぁ、きっとそのうち必要になるときが来るんだよ、多分」


「そんな曖昧で不確かな人の心のようなものを、誰が信じるというの?」


「なら、私が信じさせてあげる……」


 楓は静流の頬に手を添えると、その瞳を真っ直ぐ見つめた。


「楓……すき」


「ちょろすぎじゃね?」


「ねぇ、楓……このまま学校さぼって、二人で何処か──」


「行かないよ」


「愛の逃避行──」


「しないよ」


「ひどい! 遊びだったのね!」


「新しい遊びだよ」


「鬼っ! 悪魔! ヒトデー!」


「最後だけかわいいな」


「楓のヒトデ!」


「韻を踏むな」


「ヘイ、ヨー! お前、ヒトデ──」


「本格的にやるな」


「うああああんっ!」


 泣きながらぽかすかする静流をヨシヨシしながら楓が言う。


「わかった、わかった。放課後どっか寄って帰ろ? ね?」


「うん……すき」


「……ちょろいな」

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