第18話 世界一陽気な町

「ここが世界一陽気と言われる町、オハオキか」


 町は閑散としており、昼間だというのに人っ子一人出歩いていない。


「まるでゴーストタウンだな」


 俺は依頼主の家に向かった。




「貴方がこの町の町長か」


「どぅわっはっは! そうとも、この私が町長。そして隣にいる美女が」


「町長の妻、マダムバタフライですわ」


「本題に入ろう」


「まずはこれを見たまえ!」


 町長がひとつのガラスケースを取り出す。その中には……


「キノコ……? しかしこんな形のものは見たことも聞いたこともない」


「名誉キノコ博士である貴方でも、やはり見たことがありませんか! これこそが、今回貴方を呼んだ理由なのです」


「これを私に調べろと?」


「左様……これは人に寄生する恐ろしいキノコ」


「寄生されるとどうなる?」


「陽キャになります!」


「陽キャに……?」


「どんな引きこもりでも外に出たくて堪らなくなり、人の多く集まるところに自然と足が向いてしまう。そして人混みの中……発芽するのです!」


「発芽だと? それはどうなるんだ?」


「発芽した者はキノコゾンビとなり、辺りに胞子を撒き散らします。そうやって感染を拡げ、犠牲者を増やしてきたのです!」


「対策は?」


「日光を浴びないことです。直射日光を浴びさえしなければ、感染しても発芽することはありません!」


「そうか……だからこの町は今……」


「町の皆が外に出ないよう戒厳令を敷いております。しかしそろそろ日没、始まりますぞ!」


「始まる……? 何が……」


「外へ出てみてください」


 俺が外へ出ると同時に、町中がライトアップされる。


「おはよー☆ おきて♪」


「おはよー☆ おきて♪」


 そして人々が口々にそう叫び、家の中から飛び出してきた。


「さぁ、今宵も始まりますぞ! オハオキ☆フィーバーが!」


 いつのまにか町には人が溢れ、町中でお祭り騒ぎが始まった。


「どぅわっはっは! ずっと家の中に篭っていてはストレスが溜まりますからな! こうして毎晩ガス抜きをしているというわけです!」


「なるほど……これは」


 大通りでは東西2つの御輿がぶつかり合い、その勇猛さを競う。

 脇では大道芸人たちが各々の技を惜しみなく披露していた。

 人々は思い思いに歌い踊り、町中に笑いが絶えない。

 空には花火が打ち上がり、真昼のように明るく照らす。


 それを遠くから見ていた俺の手を、ミス☆オハオキが強引に引っ張り輪の中へと連れ出す。

 俺も町人に混ざり、一緒になって馬鹿騒ぎをした。


 日没とともに目覚める町。

 それが元来の性格なのかキノコの影響なのかはわからない。だが、これは確かに、世界一陽気な町かもしれない。

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