第15話 日本昔話「たろべえと青首大根」

 昔々あるところに、たろべえという、にいとを生業とする男がおった。

 たろべえは毎日働きもせずぐうたらとしておったそうな。


「たろべえさ、もう朝だよ。おはよー☆ おきて♪」


「なんだぁ、まだ朝の9時でねぇが。もう少し寝かせてけろ」


 近所の小坊主が起こしに来ても、この有り様。


「たろべえさ、もう昼だよ。おはよー☆ おきて♪」


「今日は天気が悪いからやる気が出ねぇ。このまま寝かせてくんろ」


 何度起こしに来てもこの調子なので、ずっと手入れされていない畑は荒れ放題になっておった。


「なんとかしてたろべえを働かせてやんねば。よぉし」


 小坊主はセクシーな二股に割れた青首大根を握りしめると、何やら閃いた。




 ──その晩。


「たろべえさ……たろべえさ……」


「んん? こんな夜中に誰だべ」


 たろべえが昼と同じ姿勢のまま寝ていると、障子の向こう側に人影が見えた。


「おぉ……こんなに腰がくびれて、なんてべっぴんさんなんだべか。ちょっとその障子を開けて、姿を見せてくれねぇべか」


 たろべえは自分からは動きたくないので、障子に向かって言った。

 すると障子の向こうからは、こう返事がきた。


「たろべえさが畑を耕してくれたら、見せてやる」




 ──次の日。


 小坊主が起こしに行くと、すでにたろべえは起きて一所懸命に畑を耕しておった。


「もう動けねぇだぁ」


 その日の晩、たろべえがへとへとに疲れて横になっていると、障子の向こうにまたあの人影が現れた。


「たろべえさ……たろべえさ……」


「おぉ……昨日のべっぴんさんでねぇか。言われた通り、畑を耕したど。約束通りに姿を見せてけれ」


 人影は頷くと障子を少し開け、ちらり生足だけ見せた。


「おぉ……白くてなんて綺麗な足なんだべか。もっと、もっとよく見せてけれ」


「たろべえさが畑に種を撒いたら、見せてやる」




 ──また次の日。


 たろべえはせっせと畑に種を撒いた。


「言われた通り、種を撒いたど。約束通り見せてけれ」


 人影は頷くと障子を少し開け、腕を覗かせた。


「おぉ……細くて可愛らしい腕だべ。もっと、もっと見せてけれ」


「たろべえさが畑に肥料を撒いたら、見せてやる」




 ──さらに次の日。


「言われた通り、肥料を撒いたど。約束通り見せてけれ」


 人影はまた頷くと障子を少し開け、今度は髪の毛を見せた。


「おぉ……緑色の髪なんて初めて見たべ。もしかして外人さんだべか。道理で肌が白いわけだ」




 そうやって次の日、また次の日とやっていくうちに、たろべえの畑は芽が出て、実が成り……気付けばたろべえは村一番の働き者となっておった。


 こうしてたろべえは村一番のモテ男となり、たろべえの周りには昼夜問わず村の娘たちが集まるようになったそうな。


 障子の外の人影はいつしか現れなくなったが、モテモテたろべえは全く気にせんかったという話じゃ。




めでたし、めでたし。

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