第11話 踏み切り

 某私鉄の線路沿い、踏み切り近くのアパートに私は住む。

 ここは電車が通るたび、遮断機の音がよく聞こえる。1LDKの部屋に寝転がり、耳を澄ませばまた、あの音が響いた。


 幼少のころの記憶。私は母と手を繋ぎ、並んで踏み切りを見つめていた。

 警報音が鳴ると遮断機が降り、電車が通り過ぎるとやがて開く。踏み切りを渡るわけでもなく、その様子をただただ繰り返し見ていた。


 また遮断機が降り、電車が通る。


 見上げた母の表情は、黄昏に陰りよく見えなかったが、口の動きだけは何故か鮮明に見て取ることができた。


『おはよー☆ おきて♪』


 あのとき母が本当はなんと言っていたのか、今となっては確認する術もない。

 けれど記憶の中の母は、電車が通るたび私にそう語りかけてきた。


『おはよー☆ おきて♪』


 今日もまた、あの音が鳴り響く。

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