第12話 奧さまはネクロマンサー

   第1話 疽生




 その日、俺は最愛の人を失った。


 不治の病だった。何時かはこうなると分かっていたのに、彼女の死は到底受け入れられるものではなく、俺は何時までもその亡骸にすがり嗚咽を漏らした。


「彼女を生き返らせたい?」


 耳元で囁く声。


「彼女は確かに死んだ。けれどその魂は今も此処に留まり、貴方をじっと見つめている」


 何時から其処に居たのか、漆黒のドレスを纏った女が俺の傍らに佇んでいた。


「今ならまだ、彼女を蘇らせることができるわ。貴方が望むなら、ね」


 女が妖しく微笑み、俺の頬に指を這わせる。


「本当に……本当に、そんなことが可能なのか……?」


 俺は藁にも縋る思いで聞き返した。


「勿論よ♪」


 そのやけに子供っぽい無邪気な笑みに、背筋が冷たくなる。


「ただし、条件があるわ」


 果たして、この女の話に乗って本当に大丈夫なのか。


「条件とは何だ?」


 女は楽しそうに答える。


「私に永遠の愛を誓って。私と結婚して?」


 この女は、一体何を言っている……?


「彼女を愛したように、一生私だけを愛して。簡単なことでしょう?」


 まるで意味が分からない。正気とは思えない。何が目的で、どんな意図で、この女は俺にそんなものを求めるのか。


 だが、いいだろう。最愛の人のためならば、俺は何だってする。彼女が生き返るのなら、愛すらも偽ろう。


「分かった」


「交渉成立ね♪」


 俺の回答に満足そうに笑う。

 女は踊る。月光の下、淡く光る鱗粉を俺たちに撒き散らし、黒いアゲハ蝶のように。


 やがて辺りに光が満ちると女は言った。


「おはよー☆ おきて♪」


 俺が祈るように見つめる先……最愛の人が、ゆっくり目を開いた。

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