孤独なグルメ ※深夜に読もう

 おろ?これは…




 ある日田舎のパパ上、ママ上から届いた箱。どうせいつも通り大したものは入っていないとバカにしつつ呆れながら箱を開く。



 中身は珍しく実用性に溢れたもの…いやほんとにどうした!!




<速報>田舎から大量の食肉が贈られた件について。




 あの有名なブランド牛に豚、しゃもなんかもあるな… 一体どういう風の吹きまわしなのだろうか… お、手紙が入ってる。






 『おい… 肉食わねぇか…』






 経緯を書けよ!!紙の無駄使いにも程があるだろ!!なんで1文だけなんだよ!しかもパイ食わねぇかみたいなノリにすな!!!


 

 普通1人娘の心配をするだるろぉ!!




 まあ…有り難く頂くとしましょう… しかしある意味丁度良いかな。今日は奏さんは用事があるから夜居ないし… 最近頑張ってるし…



 たまにはご褒美ってことで良いよね…?




 思い立ったら吉日、早速行動に移すとしよう。スーパーまで走ってい行くとしますか。






ーーーーー

ーーー






 醤油にたっぷりのおろしにんにく、砂糖に七味唐辛子、味醂とおろし生姜を混ぜ合わせる。



 小皿にはレモン汁を注ぐ。薬味には葱やわさび、ごまなど。手元には塩と胡椒。そしてラップ。




 机にホットプレートを用意し丼いっぱいの白飯。




 凍るのではないかと言うほどキンキンに冷やしておいたビールをジョッキに注ぐ。




 さあ…用意は整ったぜ…




 予めタレに漬けておいたカルビをよく温まったプレートに丁寧に置いていく。




 肉達がジュージューと音を奏でる。表面を鮮紅色から茶色に姿を変える。



 私に刺激を与えるのは視覚、聴覚だけではない。最も過激、まさに食の暴力と言うべき感覚、嗅覚だ。




 ただ焼くだけでも香ばしい匂いを充満させる肉。しかしそこに醤油とにんにくの濃い香りが入り混じる。



 気がつけば私の口の中は琵琶湖のように大量の涎で満たされている。




 まだ紅色が少し残っているぐらい、食べ頃だ!丹精込めて育てたお肉。悠久の時を耐え、五感への暴力に耐え…



 そして今、これから私の口へと納められる。




 「いただきます…」




 食前のあいさつ、明日への糧となる全てに感謝を。




 1枚、焼き上がった肉を箸で掴む。



 その震えは私の武者震いか、それとも肉がその柔らかさを主張するために震えているのか、私にはわからない。




 わかることはただ一つ、ただ目の前の肉を喰らうことのみ。




 眼前に広がる褐色のユートピア。それは五感だけでなく胃袋をも刺激する。



 激しくなるこの攻撃に私は耐え切れるのだろうか…




 口を大きく開け一気に肉を口内に押し込む。ふわり、などとはとても呼べない。

 


 暴風だ、口内を荒しまわる香りの暴風だ。




 タレと肉が織りなす至高の化学反応。溢れ出る肉汁はただの肉汁ではない。にんにく醤油のタレが混じり肉汁に更なる味わいを与える。




 噛むこと数回、肉はまるで幻だったかのように溶け、私の喉奥へと飲み込まれていった。




 悠久の時を耐えたというのにその食事は刹那、あまりにも短すぎる。



 だがこれだけで終わりではない。まだまだ、私が手塩にかけて育てた肉たちはいるのだ。




 あとはもう、飢えたライオンのように喰らい尽くす。1切れ掴み咀嚼、口に肉が残っている間に白飯を頬が破裂するのではないかというほど頬張り、そして嚥下。



 私の食事を妨げるものは何もなく、真っ直ぐ胃袋へと納められた。




 心が渇きを感じる頃合い。肉を掴み再び喰らう。



 そして私を忘れるなと主張するこの黄金色に輝く液体、ビールを一気に呑み流し込む。黄金の濁流は私の渇ききった喉にどんどん吸収されていく。



 ゴクリ、ゴクリと音を大きく立てながら呑み込まれていく。




 あぁ、この喉越しだ。白飯とこのビールがあって焼肉は更に力強さを増す。




 もうお上品に1枚1枚など食べない。何枚も纏めていただくとしよう…

 厚みも数も増えれば旨味も香りも倍になる。強烈なパンチにくらりとする。



 しかし肉側からしたらカルビはただのジャブだったらしい。




 サーロインやハラミ、ホルモンなど、ストレートからフックなどあの手のこの手で私を倒そうと手を変えてくる。



 挑戦者は牛だけではない。鳥や豚、名セコンド達の薬味や調味料。私が倒れるのは時間の問題であった。




 身体が火照っていく。その時の私はこう形容するのが正しいだろう、人間火力発電機と。




 タンやホルモンの食感を楽しみ、あっさりとしたレモン汁で脂を中和したり。



 私はすぐ肉の虜になった。だが悲しいことにもう終わりの時らしい。



 胃袋の限界が近い… 肉はまだあるというのに私自身が耐えられない辛さ。



 敗北宣言だ。仕方ないので翌日奏さんにお裾分けするとしよう。きっと奏さんならより美味しく調理してくれるはずだ。




 僅かに残した胃袋の隙間。これからそれを完全に埋める。



 ラップを丁度いい大きさに切り、御釜にあるご飯を包みおにぎりにする。そして肉の旨味を吸ったこのタレをご飯に塗りたくりプレートに置く。




 そう、シメは焼きおにぎりだ。程よく焼き目が付いてきたら更にタレを塗り込みまた焼く。



 再び耐えるのみ。食事とは忍耐である。このおにぎりの味、食感、香りを想像し常に己の食欲を高める。



 そろそろ頃合いだろう。




 プレートから引き上げ熱々のおにぎりにかぶりつく。



 外側はやや硬く、中はもっちり。浴びるほどかけた影響か、中までタレが染み込んでいる。一口噛んだ瞬間鼻腔を駆け抜ける焦がし醤油。理想のシメ方だ。




 あれだけ空いていたお腹は十分すぎるほどに満たされている。



 漫画などだったらきっと醜くお腹を料理で膨らましげっぷをしているくらいに。動くのも苦しいくらいだ。




 がっぷり大量に食べたのは間違いだったのか?否、そんなことはない。



 私はそれ以上に幸せなのだ。感謝せねばなるまい。




 「ごちそうさまでした」




 食後の感謝。さて片付けを始めるとしよう。消臭剤をぶちまけなければこの臭いは消えないだろうなぁ…



 そしてこの大量に散らばっている空き缶。どうやって誤魔化すか…







ーーーーー

ーーー






 「おはようござ… 焼肉臭いです…」




 「いや〜… 実家から良いお肉が届いたので。これお裾分けです」




 「あ、ありがとうございます。そういえば今日は缶などのゴミの日ですね。僕はゴミ捨て行きますけどゴミはありませんか?」




 「え、あ、私が行きますよゴミ捨て。いつも大変な思いして奏さんは運んでるでしょうし今日ぐらいは私に」




 「いえ、大丈夫ですよ。ところで…」




 あ、不味い気がする… 笑顔がだんだん黒く…




 「昨日、何本呑みました?」




 「え、え…えーっと…」




 「いえ、言わなくて結構ですよ。少し待っていてください」




 そう言い一度洗面所の方に行った奏さん。帰って来た時に持ってきたものは体重計であった。




 「もちろん嫌とは言わせません。さぁ乗ってください、ね?あ、もちろん僕は見ないのでご安心を」




 拒否権はないようだ…恐る恐る片足を乗せもう片足も乗せていく。




 「い、いやぁぁぁぁぁ!!!!」




 その日から私は運動の量が増え野菜中心の生活になったとだけ言っておく。











後書きプチネタやってきまーす。






Q.彩音さんは料理出来るのですか?




「私だって料理を作れますとも」




タンタンタンと良い音を立てるまな板。切られているのは野菜。朝食からしっかり野菜を摂らねばこの後元気に過ごせないからね。




「出来た…」




(山盛りのキャベツだ…)




キャベツの山に箸を突っ込み口に入れる。




(山盛りのキャベツ…)




そしてあさから大量のキャベツを摂取した。あとは主食に主菜を食べるだけだ。




「残り4皿の山盛りのキャベツをどうするか…」




キャベツ以外用意出来ませんでした…



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る