富とか名誉や翼より、世界に1つだけのあの子のパンツをください 後編
さてと… そろそろ届くかな。私が家にいる理由のもう一つとしては今日、実家から色々届くからだ。母曰く思い出の品を詰めたとのこと。
ちょうどインターホンの音が鳴る。さて、思い出の品とはいったい何なのだろうか。そういえば少し外が暗いな。
雨が降るという予報もあったし奏さんが心配だ。けどあの人はしっかりしてるし多分傘など持って行っているだろう。
…傘よりも合羽の方が似合っていると考えた私は悪くない。
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それなりに大きいダンボールが届いた。さて早速ご開帳ということで…
中身の方はなんじゃらほい。テープを切り蓋を開け梱包材を投げ捨てる。
こういうことしてるから私の部屋は汚くなるのだ。あとでしっかり片付けよう。それよりも中身だ。
「お、これは… 懐かしいなぁ」
中に入っていたのは私のアルバムなんかだ。幼稚園から高校までしっかりとある。
こんな私にも可愛い時期はあったんだぞ。今?今は可愛いより美人だから。さすがにアルバムを奏さんに見られるのは恥ずかしいな。
部屋へ行き本棚に隠す。まあすぐばれそうだけどあの人は勝手に漁るような人ではない大丈夫だろう。再びダンボールの中を探る。
「んお?これは…」
箱から出てきたのはピンク色の小さなワンピースだった。これは私が小さかった頃に着ていた特にお気に入りの1着だ。
悲しいかな、私のその時の成長はとても早く、着れなくなるのもすぐだった。
あの頃はどんな時でもお姫様気分だったなぁ…
今じゃお姫様などではなく馬車の御者ポジションどころか馬ポジションである。
社会人なんてそんなものよ…
っていかんいかん。感傷に浸るのは後だ、ワンピースを軽く畳みそこいらに放り投げる。
うん、部屋が汚くなるね。まあこれも後でやるとして。
「お、これは… ぶふっ!」
箱から出てきたのは予想外のものに吹き出してしまった。
「な、なんでこんなものまで…」
私が子ども時代に履いていたパンツだ。お尻の方に猫の顔がプリントされている。いや、ほんとうにいつの頃のだよ。
そもそもなんであるんだよ。我が実家はいったいどうなっているのか、娘でありながら全く把握していなかった。
まあ両親どちらも変人だしな、仕方ない。私は唯一の常識人だからね。
え?嘘をつくな?何を言う、私ほど常識的な人間はいないよ。今までの変態行為はなんだって?あれは愛だよ。仮に私が変態だというのなら私は変態という名の淑女だよ。あれは淑女の嗜みなんだよ。可愛いものを愛でて何が悪い!君たちは奏さんを見たことがないからそう言えるのだ。
全く、最近の若人ときたら…そうやって人をすぐに変人扱いする。
私はいったい誰に文句を言っているのだろうか…?
病院行こう、疲れてるのだ私は。おい、誰だ今精神科行けって言ったのは。私は至って正常だぞ、ほんとだからな。
こんなことしてる場合じゃねぇ!奏さんが帰って来る前に早く片さなければ。
見られたらしたら悶絶死するぞ、絹ごし豆腐より柔らかく、離乳食より硬い私のメンタルが灰燼に帰す。
箱を漁れば出るわ出るわ。卒業証書や学校のテスト、まだこの辺はいいだろう。
しかし蝉の抜け殻にお弁当のバラン、私にゴミを送るんじゃあない!初めてのお弁当とか初めて私が取った蝉の抜け殻の写真ならわかる。なぜ現物があるんだ!おかしいだろぉ!どこにしまってたんだ!
しかも昔大切にしていたヨーヨーやゲームなんかも出てくる。失くしたと思ったらあんたらが持とったんかい!
夜ショックで泣いたんだぞ!布団に籠って泣いてたんだぞ、この時失くしたと思って!
くそぅ… 悔しいのう…
それらを手に取った時ひらりと一枚の写真が落ちる。写真の裏には文字が書いてあった。
『失くしたと思って泣いてる彩音♪』
キレた。私は紛うことなくキレた。かの邪智暴虐な両親を除かねばならぬとかそんなレベルじゃあない。その写真を絶対に負けられないメンコの勝負のように、あるいはペンを机に思いっきり投げた総統閣下のように、地に叩きつける。写真は地に着いた瞬間霧散した。
今ならゴリラと呼ばれても構わない。私はそれで両親を消せるなら一向に構わない。
私の怒りに呼応するかのように、空からは滝のような雨が降り、雷がその音を町中に広げていく。
とりあえず冷静に、洗濯物を取り込む。そして帰ってきた私は八つ当たりするかのように箱を思いっきりひっくり返す。
すると箱から一冊のアルバムが出てきた。
『マイエンジェルの成長記録』
我が両親よ… なんてタイトルをつけているのだ…
とりあえず1ページめくる。ただの私の成長記録だ、なんてことはない。ただ写真の一つ一つに両親が感想と喜びを綴っているだけ、それだけだ。
コメントを書いていない写真はない。思うことは… まあ、愛されていたということだけだ。ほんとうにそれだけだ。
ただ先ほどの怒りはなくなってしまったよ。
って、あぁぁぁ!!箱をひっくり返したから部屋がすごい汚くなってしまった!か、奏さんに怒られる…
奏さんの雷が落ちないよう素早く片付けに移す私だった。あ、ついでにお風呂沸かしておこう。片付けで多少汚れるだろうし、奏さんも雨で身体が冷えているかもしれないし。
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「ふぇぇ… ただいま帰りました」
「あ、おかえりなさい」
急いで帰ってきたのだろう。息が荒い。髪や服は濡れ身体にぴっちりと張り付いている。うむ、これもまたよし。おっとそうじゃない、タオル持ってこなきゃ。
「はい、これタオルです」
「すいません… ありがとうございます」
奏さんはタオルでがしがしと頭を拭く… ことはしない。髪を撫でるように、水をしっかりと吸い取るようにタオルで拭いてゆく。
ふふ… どうせ私は粗暴な女子ですよ… がしがしと頭を拭きますよ、ええ…
髪や身体は拭けた。しかし服が濡れている以上また身体も濡れてしまう。
「奏さん、お風呂沸かしといたんですよ。服は私が洗濯して乾かしておきますから入ってください。」
「あ、さすがに… いえ、お世話になります」
「しっかり身体を温めてくださいね」
「すいません、ありがとうございます」
風邪など引かれては困る。生活的な意味でもあり目の保養的な意味でもある。まあ風邪を引いたなら私が甲斐甲斐しくお世話すればいいだけさ、ニュヒヒヒ…
待機すること数分、私は洗面所に突撃する。
「お湯の加減はどうですか?」
『ちょうどいいですよ〜』
風呂場から聞こえる声はどこかへにゃっと脱力した声だ。気持ちいいのだろう。さてやるか。奏さんの脱いだ服に手をつける。シャツ、スボン、靴下、そして
ーーパンツ
な、何故だ!何故パンツがトランクスなんだ!パンティではないのか!?あ、男だったわ。いっけね、間違えちゃった。
ふむ、それにしてもトランクスか。灰色の地味なトランクスが私の手には握られている。そこらの野郎のパンツなど微塵も興味ない。しかし奏さんのパンツだ。
ーー控えめに言って欲しい
しかしこれをそのまま持って行っても私が蔑まれた目で見られるだけだ。うむ、それもまたよろし。
出来れば豚を見るような目でお願いします。そんなことした時点で私はお縄である。
ところで諸君、この世界の原理はなんだ。そう、等価交換だ。人とは古来から異なる物質を等価であるものと交換してきた。そして時代が進み石を金に変える研究が始まった、無論失敗で終わったが。
そして現代の等価交換とは何か。サービスや物に対してお金を払うことだ。
私には石からパンツを作る技術などない。錬丹術ならぬ錬パン術など持ち合わせていないのだ。
お金を払おうとしよう、事案だ。紛うことなき事案だ。なら私が取るべき等価交換とは、古来からある物々交換だ。
しかしどうしたものか、私が普段履いてるパンツなど奏さんが持っていたら奏さんが変な目で見られてしまう。あ、そうだ。あれがあるじゃないか。
「奏さん、代わりの洋服ここに置いておきますね」
『は〜いありがとうございます〜』
ふふ、ほにゃっとしていて可愛らしい。この服ならぴったりだろう。私の物が奏さんの物と等価とはとても思えない。
先ほどうちに届いた使用済みバランとスポーツカー並みに価値が違うだろう。しかし物は使いようだ。
私の服が無ければ奏さんはタオル1枚で過ごすことになる。私は奏さんのおパンツ様が手に入る。うむ、ウィンウィンの関係じゃないか。
よし、等価だな(錯乱)
ーーーーー
ーーー
ー
「おや、奏さん?どうかしましたか、扉で身体を隠して」
「ど、どうかしましたか…じゃないですよ… な、なんで… 僕の代わりの服… これなんですか…」
「ふむ、何かおかしかったですかねぇ?どんな服を置いたのか忘れてしまいましたよ。見せてくれません?」
「だ、ダメです!こんな姿…見せられ…ません…」
「ふむ、仕方ないですね。私がそちらに行きますよ」
「ダメです!絶対に!」
「はっはっはっ!そんなに嫌がらなくてもいいじゃないですか」
「こ、来ないで…」
「ほーう。よくお似合いですよ、その服装。控えめに言って最高です」
ワンピースのスカートの裾を摘みながらこちらを睨む奏さん。私が幼少に着ていたこの服がここまで似合うとは、私よりも似合っている。
ん?騒がないのかって?ふっ、冗談はよしてください。私は淑女なのですよ。
速い者にしか至ることのできない賢者の境地に達しているのです。
この方のような可愛らしい子の前で格好の悪いところは見せられませんわ。
「すいません… 奏さん。私が持っている服はどれも大きいですし女物です。唯一着れそうな服がそれしかなかったんですよ。私も男物があれば提供はしていました。しかし悲しいことに無いのです。22年間彼氏無しの女には無用な物です。許してくださいこの私を」
「あ、う、そう…ですよね… 彩音さんも決して悪意があるわけじゃないですもんね… それに僕がお風呂を借りた訳ですし文句を言うのは失礼ですよね…」
なんかすまん、ほんとすまん。ここまで優しいとは思わなんだ。しゃがみ目線を奏さんと合わせる。
「いえ大丈夫です。しかし一つだけ、もし良心が痛むのならお願いしてもいいでしょうか」
「は、はい。僕にできることなら何でも!」
「それでは失礼します」
奏さんの後ろに回りあれを行う。男子小学生奥義!
(ふっ… いい、臀部だ… )
黒猫が一瞬で赤く染まり私の視界もシャットアウトしていった。最期に聴こえたのは天使の声だったなぁ…
「えっ… 彩…さん!? …さん!?」
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