富とか名誉や翼より、世界に1つだけのあの子のパンツをください 前編
季節は夏真っ盛り。本来ならば私達社会人を焼き尽くすべく、輝き続ける太陽が自己主張をする季節だ。
しかし今は違う。時刻は午前5時半。鬱陶しいほどの自己主張はなりを潜め、世界を照らすための光を放出するだけの存在と化している。
顔から落ちてゆく雫がアスファルトの地面を湿らせ、色を変えてゆく。ハァハァと吐かれる吐息は熱と湿り気を帯び、どこか淫猥さを感じる。
ところで私が何をしているのか。文学的な表現に挑戦してみたがむづかしい… いとむづかし…
まあ、要するに
学生時代のような、あの頃の完璧なスタイルを取り戻すべく私は努力を続ける。
なお始めたのは3日前の模様。
今の体型を言葉で表すなら… ボン!ボッ!ボン!だろう。間違いなく男性受けする体型だ。
しかし私は女子なのだ。女子同士のコミュニティだってある。同性からの厳しい審査を通過するため、痩せねばならぬ。それにお腹つまめるって嫌だからね。
乳と尻は通す、贅肉は通さない。その誓いを胸に運動をしている。
ランニング以外にも体幹や柔軟、無駄な肉を別の部位に移すためのマッサージなんかしている。
なおこちらも3日前からだ。
太陽は煩わしい、しかし汗をかかねば痩せることはない。本当はこんな時期に家から出たくない。帰って冷えた部屋でアイスとお菓子をつまみながらゲームをしたいのだ。
あの時私は自堕落を辞めると決めたのだ。やる時はやる人間と証明してやる。そして男の視線を釘付け…にはしたくはない。まあ、奏さんが釘付けになるのはちょっと嬉しいけど。
あれ?私の方が奏さんに釘付けになってない?いや、気のせいだ、絶対だ。
痩せて無駄肉を乳と尻に全て移しボボン!キュッ!ボボン!な体型にしてやる!待ってろよモデルスタイル!俺は絶対、成功してやるぜぇぇ!!!
光る風を追い越すほどの速さで走り始める私だった。
朝方で涼しいとはいえ、それは昼と比べた場合だ。気づけば汗がダラダラと流れている。服を絞ればバケツを満たせるのでは?そう思うほど汗を流し、家に帰った。
ーーーーー
ーーー
ー
急いでお風呂場に向かい服を脱ぎ浴槽に浸かる。予め沸かしておいたのだ。朝風呂は気持ちがいいよね。不快な汗も全て流れて気持ちはとてもさっぱりとしたものになった。
シャワーだとあまり満足出来ないんだよね。だからシャワーよりお風呂が一番。
少しだけ温まり浴槽から出て頭と身体を洗う。髪は痛めないように優しく、身体は中心から遠いところからマッサージするように洗ってゆく。
鏡に映る自身の身体が目に入った。じーっと眺めて見る。心なしか痩せた気がする。ほんの少しだけくびれたかもしれない。
うん、これダイエット特有の錯覚だわ。
今度は鏡の前でグラビアアイドルのように谷間を強調するようなポージングをする。おお!これはイケてる!私はやはりナイスバデーの美人なのだ!
ーー虚しくなってきたのでやめよう…
お風呂場を出て濡れた身体を拭う。肌を傷つけないように優しく拭う。私が洗濯をしていた時はタオルはこんなにふわふわではなかったというのに…
奏さんには感謝しかない。
そういえばリビングはクーラーを点けていなかったな。身体にタオルを巻きクーラーを点けに行く。
「あ、彩音さん!おはようござ… ふぇ!」
おっと、いっけね。もうこんな時間か。顔を真っ赤にして起動停止した奏さん。
「きゃ…」
「ん?きゃ?」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
耳に刺さるような甲高い叫び。待て、待ってくれ。普通逆だろう。私が叫ぶ側で貴方が叫ばれる側でしょうに。
こんな所で女子力の差を見つけられるとは思わなんだ…
ーーーーー
ーーー
ー
あの叫びから数分後無事奏さんは戻り私は服を着た。
「彩音さん!分かっているんですか!貴方のような素敵な女性がそんな格好をしていたら大変な目に会うんですよ!男は皆ケダモノなんですよ!」
「ウィッス…」
さりげなく褒めてくださった。嬉しいなぁ。
貴方もケダモノなんですか」とはさすがに聞けない。
「なっ…!そりゃ僕だって男ですからそういうのに興味が…って何を聞いてるんですか!」
「あれ?もしかして口に出てました?」
「それはもうがっつりと…」
「あちゃーすみません」
「すみませんじゃないですよ!全く… 僕ってそんなに男に見えません?」
そのセリフを涙目の上目遣いで言われても正直困るのである。
「あ、いや、この前まで一人暮らしでしたからついその癖が… 決して奏さんが男に見えないわけではないです」
嘘です、正直男には思えません。裸にひん剥かなきゃ正直信じられません。
ーー奏さんの奏さんを見ても男とは信じられない気がしてきました。
とりあえず私にひん剥かせてください。何円だ?何円出せば剥かせくれるんや。ブェヒヒ!金ならいくらでも出す、だからひん剥かせてくれ!
最低だなこれ…
「そう…ですか。次からはちゃんと気をつけてくださいね…」
「はい。すいません」
「ふぅ… ご飯、食べますか?」
「はい!」
「ふふ、わかりました。今温めますね」
やや苦笑い気味の笑顔だが今日の笑顔も素敵だ。私の朝はこの笑顔を見ることで始まる気がする。
ーーーーー
ーーー
ー
朝食は美味しくいただきました。今日は食パンにベーコンエッグ、野菜のスープだった。シンプルながらとても満足のいく食事でしたよ。
掃除機と洗濯機のデュエットが家に響く。奏さんはお仕事中だ。こんなに暑い中ほんとよくやれるなぁ… あ、ちなみに私は今日はお仕事休みです。
お、洗濯が終わったようだ。掃除機の音も止まり奏さんのパタパタとスリッパを擦る音だけが聞こえる。
そういえば普段仕事で居ないから掃除と洗濯をしているところを見たことがないなぁ。うん、いい機会だちょっと見てみよう。
バレないようにこっそりと覗く。今は洗濯機から洗濯物をカゴに移しているようだ。水を吸った布ってかなり重いよね。意外なことにそれを苦にしていないようだ奏さんは。
あんなにちっこいのにどこから力が出ているのだろうか。
この前試しに腕相撲した時は私の圧勝だったというのに。
あ、私はゴリラじゃないよ。
確かに女子にしては力はあるけど断じてゴリラではない。スポーツが盛んな学校とかだとゴリラ多いよね。スポーツは得意だけどゴリラじゃないよ、ほんとだよ。
おっと、奏さんが移動するみたいだ。身を隠しベランダを見る。うん、ごめんね。踏み台ないと洗濯物干せないよね…
いつ用意したのかわからないが踏み台を設置し、一つ一つ丁寧にしわを伸ばし干していく。
ふむ… しかし、こう、なんというか… 無防備な後ろ姿っていいね。髪の毛が結ばれていることで丸見えなうなじに、干そうと必死になるため揺れるお尻。
うむ、たまらんのぅ…
すけべ親父のような思考をしながら眺めること数分、突如奏さんの顔が赤くなる。手に握られていたものは無論下着である。
見ないために何もない方向を見て干そうとするもしっかり見なければ身長的に届かない。ほんの数秒だけ下着に視線を向け素早く干す。
しかしその後視線を激しく動かした。奏さんが来てそれなりに時間は経っているがまだ慣れていないようだ。
いや、そもそも私が洗濯をすればいいんだけどね。普通男にやらせるのはあり得ないからね。ただ奏さんなら大丈夫でしょう。
男にはとても見れないというのと、信用出来る人間だからだ。
かのじ… 失礼、彼はとても誠実な対応をいつもしてくれる。私の信用を得るのはとても早かった。どの人からも信用され愛されるタイプだと思う、彼女は。
失礼、彼でした。
しっかし何食べてどんな教育したらあんな純真な可愛い子が出来るのだろうか、人類の神秘である。親御さんの顔が見てみたい。そのまま娘さんを私にくださいとか言ってみたいね。
うん、息子さんだね。
洗濯も終わったのだろう、満足そうに頷いている。バレないように自室にそーっと戻っていく私だった。
「彩音さーん」
「はーい」
「僕買い物行って来ますね、何か食べたいものなどはありますか?」
「んーそうですね…」
なんだか無性にケバブが食べたい。だがこれは厳しいだろう。さすがに自重する。
「豚の丸焼きで」
「ふふふ、もう…スーパーに丸々一頭売ってるわけ無いじゃないですか」
適当なボケだが思いの外琴線に触れたらしい。この人って結構笑いのツボが浅い気がする。気を遣って笑ってたとかだったら軽く死ねるけどね。
「肉じゃがとか刺身が食べたいです」
「りょーかいです!それじゃあ行ってきますね」
正直誘拐されないか心配だが、まあ大丈夫…だよね?ストーキングなどしたら事案になるのは間違いないのでついて行きたくなる気持ちをグッと堪え見送る。
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