第2話 長たちへの手紙

 バルオキーで、音楽祭を開くことになり、手紙を3つの地の長に届けるよう村長に頼まれたアルド。そんなアルドがやって来たのは、大陸の西にある炭鉱の村ホライであった。


「久しぶりに来たな……! みんな どうしてるかな……?」

「あっ あなたは……!」


遠くから声をかけられ、そちらを向くと、そこにいたのは、ホライの村長マーロウだった。


「アルドさんじゃないですか……! お久しぶりです!」

「マーロウ……! 久しぶりだな!」

「また 遊びに来てくれるなんて 嬉しい限りです!」

「ああ。実は今日 用事があってきたんだ。」

「私に用事ですか……?」

「ああ。実はこれをバルオキーの 爺ちゃ……じゃなかった 村長にこれを渡すように言われたんだ。」


アルドは、懐から村長から預かった手紙をマーロウに渡した。


「手紙 ですか……?」


マーロウはその場で封を開け、手紙を読んだ。しばらくして、マーロウはアルドに聞いた。


「アルドさんは この手紙読まれましたか?」

「いや 読んでないよ。」

「そうでしたか!」

「なんかあったか?」

「いや 読んでいないのなら 大丈夫です!」

「……?」


何のことだかわからないアルドに、マーロウは説明した。


「手紙の内容は 音楽祭の出演者を一人 お願いしたいとのことでした。」

「そういうことだったのか。」

「音楽祭に出るとなると 唄か楽器ができなければいけませんね……。」

「でも この村にそんな人いたか……?」


考え込むアルドにマーロウは、不思議そうな顔をして言った。


「おや ヘンリーさんがいるじゃないですか。」

「あ ああ……! 確かに……!」


(いつも 紐やたいまつを作ってもらってたから 吟遊詩人だってこと忘れてた……。)


アルドは、忘れていることをごまかしながら、言った。


「じゃあ さっそく ヘンリーの家まで行こう。」


 アルドとマーロウは村の南東にある、吟遊詩人ヘンリーの家へとやって来た。


「こんにちは ヘンリーさん。」

「おや いらっしゃい。おや……? そこにいるのもしかして……」

「久しぶりだな ヘンリー。」

「やっぱり アルドくんだったか! どうしたんだい 急に?」

「それなんだけど……。」

「実は アルドさんの故郷である バルオキーで音楽祭が 開催されることになったらしいんですが その出演者を一人お願いされたんです。」

「なるほど。それで 吟遊詩人たる私が 必要だということか。」

「話が早くて助かるよ……! で どうかな?」


アルドの問いかけに、ヘンリーは迷うことなく言った。


「もちろん 参加させてもらうよ! 竪琴も作ってもらったことだし 美しい唄を 披露することを 約束しよう。」

「ありがとう!」

「そうと決まれば 早速 唄を紡がなければならないね。ちょっと 失礼するよ。」


そういって、ヘンリーは外へ出ていった。


「行ってしまいましたね……。」

「なんか 変わってないようで 安心したよ。」

「さて 僕も準備をしないといけませんね……。」

「準備……?」

「ああ いえ。こちらの話です!」

「……?」

「それより アルドさんはこの後どうなさいますか?」

「オレは まだ用事が残ってるから そろそろ出発しようかな……。」

「相変わらず お忙しいんですね……。また 時間が空いたら 遊びに来てください! 村一同 大歓迎ですので!」

「ああ そうさせてもらうよ!」

「では 僕はこれで。」


アルドは、マーロウと別れると、次の行き先を考えた。


「さてと 次は……。よし コニウムに行こう。」


こうしてアルドは、コニウムへと向かった。アルドがいなくなった後、村のみんな―吟遊詩人のヘンリー、木こりのテリー、その娘モナ、かまど屋のレベッカ、大工のゴードン、村のはずれに住む老婦人グレース、爆弾技師のヒルダ―は、マーロウの家に集まっていた。


「皆さん お集まりいただき ありがとうございます。」

「それで いったい 何の用なんだ?」

「実はですね……。」


>>>


 ホライを後にしたアルドは、南東部にある竜の形をした島、蛇骨島の中心部に位置する魔獣の村コニウムに来ていた。


「ここも 久しぶりに来るな……。前に来たときは 色々と 大変だったからな……。」

「あれっ? アルドじゃん!」


突然言われて振り返ると、そこにいたのは、ミュルスだった。


「ミュルスか!」

「久しぶり~! どうしたの?」

「あ ああ。実はギルドナに用があって。」

「そうなんだ! じゃあ 案内するね!」


アルドは、ミュルスに連れられ、村の南西部にある家へと入った。そこにはかつて魔獣王と呼ばれた男、ギルドナの他に妹のアルテナと、側近でありミュルスの双子の兄のヴァレスがいた。


「ギルドナ様 お客様がお見えです!」

「……ああ 通せ……って 何だ アルドか。」

「やあ ギルドナ。」

「どうしたんだ? わざわざ こんなところまできて。」

「ああ。実は これを渡すように言われたんだ。」

「……手紙? バルオキーの村長からか。」


そういって、ギルドナは手紙を読んだ。隣でアルテナものぞき込む。ヴァレスとミュルスは、気になりながらもそばで控えていた。


「アルド お前 この手紙を読んではないだろうな。」

「あ ああ。」

「わかった。」

「兄さん 村長さんは何て……?」

「バルオキーで音楽祭をやるから それに一人出演者をお願いしたいとのことだ。」

「へぇー 何だか面白そうじゃない! でも 出演者か……。」

「残念ながら 我々の周りに楽器を弾けるものはおりません……。」

「うーむ……。」


出演者に悩むギルドナたちだったが、それを解決へと導いたのは、ミュルスだった。


「ギルドナ様 アルテナはいかがですか?」

「何……?」

「えっ あたし……?」


驚く皆にミュルスは言った。


「確か アルテナ 唄 歌ってなかったっけ……?」

「唄……? あたしはそんなの…… あっ……! 『天使の唄』!」

「そうそう それそれ!」

「ですが 唄が歌えるとはいえ 魔獣族の王女たるアルテナ様を 祭りの出演者にするのは……。」

「どうなんだ アルテナ?」


ギルドナに聞かれたアルテナは、少し考えてからアルドに言った。


「兄さん あたし 出演する!」

「アルテナ様……!?」

「いいのか?」

「ええ。」


すると、アルテナはアルドに向き直って言った。


「だけど お願いがあるの。」

「何だ……?」

「歌うのだったら フィーネと一緒に歌いたいの。」

「フィーネと? それはいいけど 何でだ?」

「『天使の唄』を歌えるのはあたしとフィーネだけだから。」

「なるほど。そしたら バルオキーに戻ったらお願いしてみるよ!」

「ありがとう!」


アルテナからの条件付きの快諾をもらったところで、ギルドナが口を開いた。


「これで用は済んだか?」

「ああ。助かったよ。」

「では さっさと出て行ってくれ。こちらも忙しい。」

「あ ああ。邪魔して悪かったな。じゃあ そろそろ行くよ。」


そういって、アルドは出ていった。


「ギルドナ様……! いくらギルドナ様でも あれは……」

「……。」


アルドに対する言葉の強さに納得できないミュルスに、アルテナは言った。


「ミュルス あれでいいの。兄さん 私たちに用があるんでしょ?」

「そうなんですか……?」


すると、黙っていたギルドナは、手紙をアルテナに渡すと言った。


「それについて お前たちに意見を聞きたい。」

「手紙に何か書いてあったの……? ……。……これは……。」


一方、家を出たアルドは言った。


「何だか 邪魔しちゃったみたいだな……。さてと 後はユニガンだけだ。出演者も探さないといけないし 早く行こう!」


こうして、アルドはユニガンへと旅立った。


>>>


 アルドは、コニウムを出て、王都ユニガンへに来ていた。


「えっと たしか この手紙を渡すのは ミグランス王だったよな……。となると 宿屋か。」


アルドは、ミグランス王が先の戦いで甚大な被害を受けたミグランス城から、一時的に退避している宿屋へと向かった。


「失礼します ミグランス王。」

「おお 誰かと思えば アルドか。私に何の用だ?」

「実は 渡したいものが あって……。」

「ほう バルオキーの村長からの手紙か。」


ミグランス王は、あまり驚くこともなく、封を開け手紙を読み進めた。


「……アルド。この手紙を読んではないな?」

「は はい。」


(3回とも聞かれた……。いったいあの手紙に 何が書かれていたんだろう……?)


アルドは返答しながら、そんなことを考えていた。そんなことは知らずに、ミグランス王は言った。


「わかった……。内容は バルオキーで開かれる音楽祭の 出演者を一人お願いしたいとのことだ。」

「なるほど……。」

「しかし 私の知り合いに 音楽祭に出られるような者は いないな……。」

「そ そんな……。」

「うむ……。おい 城の者はいるか?」


ミグランス王は1階で待機する兵士を呼んだ。


「失礼します。お呼びでしょうか 陛下。」

「うむ。すまんが ラキシスを呼んできてくれ。」

「かしこまりました。」


兵士は出ていき、しばらくすると、王国騎士団の団長のラキシスがやって来た。


「王国騎士団騎士団長 ラキシス ただいま 馳せ参じました。」

「すまないな 急に呼び立ててしまって。」

「滅相もございません。それで 私に何の御用でしょうか?」

「ああ。実は バルオキーの村長から 音楽祭を開くので 出演者を一人お願いしたいとのことだったのだが 私は心当たりがなくてな……。ラキシスは誰か思い当たる者はいるか……?」

「音楽祭の出演者ですか……。」


ラキシスはしばらく考えたのち、顔を上げてミグランス王に言った。


「……当てがあるわけではないですが 音楽でしたら 一度国立劇場に行かれては どうでしょうか?」

「そうか……! あそこなら 音楽祭に出演できるような者が おるやもしれん。アルド すまないが 国立劇場へ行って 出演できそうな者を探して ここへ連れてきてくれないか?」

「わかりました!」

「ラキシスも 一緒について行ってくれ。」

「かしこまりました。」


こうして、2人は王都にある国立劇場へと向かった。


>>>


アルドとラキシスは、国立劇場の中へと入った。


「来てみたものの どう探したらいいんだ……?」


考えるアルドに、ラキシスは言った。


「まずは 劇場支配人に聞いてみるとしよう。」

「そうだな……!」


ラキシスに言われて、アルドは劇場支配人に声をかけた。


「ちょっといいかな。」

「ああ 君たちか! 今回もまた舞台に出てくれるのか?」

「いや 今日は支配人に 聞きたいことがあってきたんだ。」

「ほう 私に……?」

「すまないが この劇場で 歌や楽器が上手な者はいるだろうか?」

「ああ それなら うちの歌姫はいかがかな?」

「歌姫 か……。一体どんな人なんだ?」

「彼女は 歌姫と呼ばれている通り 声楽が専門だが 以前 吟遊詩人の役を演じたことがあって ハープもそれなりに弾けると思うよ。」

「……! すまないが その歌姫とやらを ここに呼んでもらえないだろうか?」

「わかりました。ちょっとお待ちください。」


劇場支配人はスタッフルームに入ると、しばらくして若い女性が出てきた。


「お呼びいただいたのは あなた方かしら……?」

「ああ。オレはアルド。」

「私は王国騎士団騎士団長のラキシスだ。」

「私は アリアと申します。それで 劇場を復興させた方に 王国の騎士団長様が 私に何のご用でしょうか?」

「実は バルオキーの村長が 今度音楽祭を開くんだけど そこにアリアも出てもらいたいんだ。」

「ユニガンの代表として 出てはいただけないだろうか?」


アリアは少し考えた後、アルドに聞いた。


「その音楽祭は どういったものでしょうか?」

「ああ。これは 村長が 最近の状況で 村の皆が疲れて暗い顔をしているのをみて 皆が そういったことも忘れて 楽しめるようなことを したいと思って始まったんだ。」

「なるほど そうなんですね……。」


さらに、アリアは考えてから、顔を上げて言った。


「アルドさん ラキシスさん ぜひ私に そのお祭りのお手伝いをさせてください!」

「本当か!」

「ありがたい! では 早速ですまないが 私たちについてきてくれないか?」

「わかりました!」


>>>


アルドとラキシスは、劇場支配人に許可を得たうえで、アリアを宿屋にいるミグランス王のもとへと連れてきた。


「王国騎士団騎士団長ラキシス ただいま アルドと出演者を連れて戻りました。」

「おお! 出演できそうな者がいたか!」

「はい。」

「お お初にお目にかかります! わ 私 国立劇場で 役者をしております あ アリアと申します……!」


アリアは王を前に緊張しているようだ。それを察して、ミグランス王は言った。


「そう緊張せずともよいぞ! よく引き受けてくれた! ユニガンを代表して 音楽祭に 彩りを与えてきてくれ!」

「は はい!」


ミグランス王はうなずくと、アルドに向き直って言った。


「アルド 我々は 今から 打ち合わせをしようと思うのだが きみはどうする?」

「オレは まだやることがあるので 失礼します。」

「そうか。きみは 相変わらず忙しいんだな。」

「あとのことは 我々に任せてくれ。」

「ありがとう! よろしく頼むよ アリア!」

「ええ こちらこそ!」


そういって、アルドは部屋を後にした。アルドが宿屋を出たのを確認して、ミグランス王は言った。


「よし。では きみたちにも 手紙のことは言っておいた方がいいだろう。」

「手紙の内容は 音楽祭への出演だけではないのですか?」

「そうだ。一度読んでみてくれ。アリア きみもだ。」

「は はい。」


宿屋を出たアルドは、考えていた。


「さて これで 手紙は全部渡したから 次は出演者集めだな。確か 爺ちゃん 『お前にしか集められない人たちを』って言ってたよな……。『オレにしかできない』だから 古代と未来から 誰かつれてくるか。まずは未来に行ってみよう!」


こうして、手紙を渡す任務を終えたアルドは、出演者集めのため、未来へと向かったのだった。


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