開催! 緑の村の音楽祭!!

さだyeah

第1話 緑の村の音楽祭

 B.C. 20000年、水の都アクトゥール、人喰い沼。サイラスは、今の住処である沼の最奥部に戻ってきた。外はもうとっくに夜だった。


「ふぅ……。今日は少し疲れたでござるな……。」


先のアルドたちの長旅が終わり、自分の住処に戻ってしばらく経ったが、オーガ族との戦いは、思いのほか体に負担をかけていたようだ。サイラスは、椅子に腰かけて少し考えた後、立ち上がった。


「よし。久しぶりに 一杯やるでござるか。」


そういって、サイラスは人喰い沼を出て、アクトゥールの酒場へと向かった。しばらくして、サイラスは東方のもので一番飲みやすい酒『竜神』が入った酒瓶と2つの盃を持って、人喰い沼を出てすぐのところに、腰を下ろした。


「たまたまとはいえ 貴重な東方の酒をくれるとは マスターもお人がよろしいでござるな。」


そういって、サイラスは2つの盃を並べて酒を注ぐと、そのうちの一つを持った。


「……では 戦いの勝利を祝して 乾杯でござる。」


盃を持った手を軽く上げると、そのまま酒を口にした。


「……あぁ。やはり月を見ながら飲む 東方の酒は美味いでござるな。」


サイラスは、もう一つの盃を見ながら言うと、今度はさらに浮かぶ月を見上げた。


「しかし 今回の旅もいろいろなことがあったでござるな……。」


そういいながら、酒を盃に注ぐ。そして、一気に飲み干すと、さらに注いだ。


「今日は何だか気分がいいでござるな。何だか歌いたくなってきたでござる!」


すると、サイラスは注いだ酒をまた飲み干すと、咳払いをしてから歌い始めた。


「つちと やまとに いだかれた~ くにに ながるは かぜのうた~……」


ご機嫌に歌いながら、サイラスはまた酒を注いで飲もうとして、止めた。


「おっと いかんでござるな。あまり飲みすぎでは 酔ってしまうでござる。」


サイラスはまたもう一つの盃を見ながら言った。


「何せ 拙者は兄者と違って「下戸」でござるからな。」


サイラスはそういって、酒を飲みながら歌っていた。




 一方、ところ変わって、AD1100年、曙光都市エルジオン、ガンマ区画。長旅から帰ってきたエイミは、実家であるイシャール堂で、父ザオルの手伝いをしていた。


「いやー それにしてもこうやって 手伝いをしてもらうのも 久しぶりだな。」

「まあ 最近は旅に出てばっかりだったしね。」

「そうだな。……さてと それじゃ 休んでいいぞ。」

「私はまだ疲れてないからいいよ。父さんこそ行けば?」

「俺はまだ やらねえといけないことがあるから もう少し 作業してえんだ。」

「……わかった。じゃあ 先に 休ませてもらうわね。」


そういって、エイミは自分の部屋へと向かった。部屋に入ったのを確認して、ザオルはボソッとつぶやいた。


「ったく さっきから 客が出ていくたんびに ため息ついて 荷物運ぶ時もフラフラなのに 何が「疲れてない」だ……。こうでもいわねえと このままずっと休まずに働き続けるつもりだったんだろうが……。いったい誰に似たんだか……。」


そんな父の考えも知らず、エイミは自室に入ると、そのままベッドに飛び込んだ。


「ふぅ……。ただの店の手伝いで こんなに疲れるなんて……。まだ この前の旅の疲れが残ってるのかな……。」


エイミは、先の長旅から帰った翌日から、ずっと店を手伝っていた。疲れてないとは言っていたが、体は正直なようだ。


「思えば ずっと何かしてて ちゃんと休んでなかったかも……。」


エイミは、しばらくの沈黙の後、自分が寝る寸前だったことに気付いて、体を起こしてベッドに座った。


「いけない いけない……! 今寝たら いつ起きるかわかったもんじゃないわ……。」


すると、ふと部屋の片隅にある青色のギターが目に留まった。


「あ あれって確か……。」


エイミは、少し歩いて行って、そのギターを手に取り、ベッドに座った。


「懐かしいわね……。私がハンターになったお祝いでもらったものだったっけ……。」


ギターのボディを撫でながら眺めた後、思い立ってギターを静かに構えた。


「今でも弾けるかな……?」


エイミはフレットに左手の指を置き、静かに右手で鳴らした。その後、知っている数少ないコードを弾き、最後に昔弾いていた曲を弾こうとした時、店の方からザオルの声がした。


「エイミ! 悪いが ちょっと手伝ってくれねえか? 今手が離せねえんだ。」

「……わかった! すぐ行くわ!」


エイミは、間が悪いと思いながら、ギターを片付け、店の方へと向かった。




 またまた一方、AD300年、緑の村バルオキー、村長の家。アルドは、いまだに寝ていた。


「…… お兄ちゃん…… アルドお兄ちゃんたら!」

「う うーん……?」

「お兄ちゃん! 朝だよ 起きて! アルドお兄ちゃん!」


そういって、フィーネはカーテンを開けた。暗かった室内に、一気に日差しが差し込む。


「ふぁ~あ……。ああ フィーネか……。なんだ もう朝か。おはよう。」

「もう朝か じゃないよ。お日様はとっくに ペカリの樹の上だよ。」

「……もうそんな時間か……。」


アルドは、前にも何度か聞いたような気がするやり取りをしながら、答えた。フィーネはちゃんと起きたのを確認して、1階へと向かった。途中振り返って、1度うなずくと言った。


「疲れているのは分かるけど 寝てばっかりはよくないよ。」


そういって、階段を降りて行った。


「フィーネ 今日はいつもより少し優しかったような……。まあ ともかく 今日もまた 頑張るとするか! まあ 今日は何も予定はないんだけど……。」


アルドは、1階へと降りて行った。


>>>


1階には村長とフィーネがいた。


「おお やっと起きたか アルド。」

「おはよう 爺ちゃん。」

「その様子だと 今回も大変な旅だったようじゃな。」

「ま まあな……。」


眠そうなアルドの様子に、村長は楽しそうに言った。すると、その雰囲気のまま村長は、アルドに言った。


「ときにアルド。ちょっとお前に 相談があるのじゃが……。」

「ん……? 何だ?」

「実は このバルオキーで 何かお祭りをやろうと思ってるんじゃ。」

「お祭りか……! 面白そうだな! でも 何で急にお祭りなんだ?」


すると、村長は遠くを見ながら言った。


「このところ 魔獣のことや 世界の危機的なことが起こって 皆も気が張ってるじゃろう?」

「まあ確かにいろいろあったもんな……。」

「まあ お前たちのおかげで それが解決したとはいえ 村の皆が疲れて暗い顔をしておるのは 村長として放っておくわけにはいかんと思うてな。だから 皆が そういったことも忘れて 楽しめるような お祭りをしたらいいんじゃないかと そう思ったのじゃ。」

「爺ちゃん……。」


村長の考えに感動したアルドは、目を輝かせて言った。


「お祭りやろう 爺ちゃん! オレもなんか手伝うし!」

「おお そうか! それは頼もしいのう。」

「それで 何のお祭りをするんだ?」


すると、村長は顔をしかめて言った。


「そこなんじゃよ 問題は。」

「……?」

「祭りをやるのはいいが その題材が なかなか思いつかなくてな……。」

「うーん……。たしかに難しいな……。」

「村の皆が全員で楽しめるものがいいんじゃが……。」

「何だろう……。」


アルドが考えていると、ふと部屋の奥から何かが聞こえてきた。


「ふんふん~ ふんふんふん~ ふ~ん♪」


音の正体は、料理をしているフィーネの鼻歌だったようだ。随分とご機嫌に歌っている。すると、アルドはひらめいた。


「……!」

「おっ 何か浮かんだか……?」

「音楽……! 音楽なんてどうかな?」

「なるほど 音楽か……! それなら みんなで楽しくやれそうじゃ! そうしよう!」

「決まりだな!」

「ありがとう アルド。」

「いいって いいって。」

「そうと決まれば 早速 計画をならなければならん……!」


村長はいつになく元気なようだ。


「さて 今日は何をしようかな……。」


アルドがボソッとつぶやくと、村長が勢いよく聞いた。


「アルド お前 もしかして暇かの? 暇なのかの?」

「ま まあ 予定は特に無いよ。」

「じゃったら 少し手伝ってくれんか?」

「いいよ! 何をすればいいんだ?」

「月影の森に行って 木材と魔物の皮をとってきてくれるか?」

「わかったよ。」

「木材は深部の釣り堀の近く 魔物の皮は元気のいい若いアベトスで頼む。」

「いいけど 何でその条件なんだ?」

「釣り堀の近くの木材の方が質が良くて 元気で若いアベトスの方が皮の張りもいいのじゃ。」

「なるほど。じゃあ 行ってくるよ!」

「気を付けての。」


アルドはそういって、月影の森へと向かおうとした。すると、村長が呼び止める。


「そうじゃ アルド!」

「な 何だ?」

「ついでに 警備隊の者たちにも 素材の回収をお願いできるかの?」

「ああ わかったよ。」


アルドは、村長から素材を聞くと、さっそく警備隊のダルニスとノマルにお願いした。


「ダルニス ノマル。ちょっといいか?」

「アルド先輩 お疲れ様です!」

「お アルドじゃないか どうしたんだ?」

「実は 爺ちゃんから お使いを頼まれたんだけど 手伝ってくれないか?」

「もちろんです 先輩!」

「俺も協力する。で 何を集めてきたらいいんだ?」

「それなんだけど……。」


そういって、アルドは村長のメモ書きを2人に見せた。


「なるほど。俺は ツルリンの実とリチャードの尻尾か。」

「僕は ミグマタイトと砂鉄ですね。わかりました!」

「じゃあ あとで 爺ちゃんの家で合流しよう。」


そういうと、ダルニスはカレク湿原、ノマルはヌアル平原へと向かった。


「さて オレも行くとするか。」


アルドも2人に続いて、月影の森へと向かった。


>>>


アルドは月影の森の深部、釣り堀の近くへとやって来た。


「たしか このあたりだったよな……。」


すると、さっそく猛々しい咆哮が聞こえた。振り向くと、そこにいたのは、条件に合った元気がいい若いアベトスだった。


「こいつか! すまないが 皮をもらっていくぞ!」


そういって、アルドは剣を構えた。


>>>


難なく倒したアルドは、魔物の皮を回収した。


「これで良しっと。あとは 木材だな。」


アルドは釣り堀の近くにあった木から、木材を採った。


「よし これでいいかな。でも いったい何に使うんだ……?」


そんな疑問を持ちながら、アルドは木材と魔物の皮を持って、村長の元へと戻った。


>>>


「ただいま。」

「お帰りなさい アルド先輩!」

「待ってたぞ アルド。」


村長の家に戻ると、すでにノマルとダルニスも戻っていた。


「お帰り アルド。2人の素材は確認した。お前はちゃんと採れたかの?」

「ああ。このとおり。」


そういって、アルドは採ってきた素材を机に置いた。


「うむ。これで十分じゃな。」

「でも これ 何に使うんだ 爺ちゃん?」

「アルドが採ってきたものは舞台 ダルニスが採ってきたものは料理 ノマルが採ってきたものは鍋などの調理器具に使うんじゃ。」

「なるほど……!」


すると、村長は3人を見て言った。


「実は 警備隊に頼みたいことがあってな。」

「何でしょうか 村長。」

「わしは このバルオキーで 音楽祭を開こうと思っておる。暗い話が多いからこそ 楽しんでもらいたいと思ってのことじゃ。じゃが その時は おそらく村の警戒が薄くなるじゃろう。そうすると 外から良からぬものが来るやもしれん。」

「……。」

「そこで お前たち警備隊には 祭りの最中の警備をお願いしたいのじゃ。良いかの?」

「も もちろんです 村長!」

「我々 警備隊が この村をお守りします!」

「オレも 協力するよ!」


3人の意思表示に村長は嬉しそうだ。


「いい返事じゃ! じゃが 申し訳ないが アルドは警備ではなく 他のことをしてもらいたい。」

「そ そうなのか……?」

「じゃがその前に 2人を返さないとじゃな。2人とも先ほど頼んだことも含めて よろしく頼むぞ。」

「ぜ 全力でさせていただきます!」

「我々にお任せください。では 失礼します。」


そういって2人は家を出ていった。


「全く 2人の頼もしいことじゃのう……。それで アルドにしてほしいことなんじゃが……。」

「ああ 何なんだ?」

「アルドには 出演者を集めてきてほしいのじゃ。この村で 一番顔が広いのはお前じゃ。何組でもよい。アルドにしか集められない方々を 集めてきてくれんか?」

「なるほど……。ちょっと当たってみるよ!」

「よろしく頼むぞ。あと いつものお仲間も呼んできてくれてかまわんぞ。」

「いいのか……!?」

「ああ。さっき村の者が暗い顔をしておるとは言ったが お前たちが解決してくれて 少しは良くなったのじゃ。その感謝も込めて 是非呼んでほしい。」

「わかった! 声をかけておくよ!」

「最後に この手紙を ミグランス王 魔王 ホライの村長に届けてくれんか?」

「わかったよ! じゃあ 行ってくるよ!」

「楽しみにしとるぞ! その間 祭りの準備もしておくでな!」


村長の家を出たアルドは、することを整理しながら言った。


「なかなか 大変だけど 爺ちゃんの考えた祭りを 成功させるためにも オレも頑張らないとな!」


こうしてアルドは、手紙を3人の長に届け、出演者を集める旅に向かうのだった。

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