第25話


 魔法学校から歩いて四十分、この辺りで一番近い森に俺たちは魔物の捕獲のため訪れていた。


「進行方向一体、四時の方向にも一体居ます。」


メイが目を閉じ発光する杖を掴みながらそう言う。


「わかった正面を私とケイ、四時方向をウィルとアンバーで迎え撃つ、ルークはメイの援護を頼む。」


オスカーの指示でそれぞれ指定の持ち場に散会する、俺はオスカーの少し後ろについて前方にたたずむ四足歩行の2メートルはあろうデカい蜥蜴に向かって走り込む。


「フラッシュ!」


オスカーがそう叫ぶと同時に蜥蜴の前方に眩しい光が輝く、と同時に閃光をまともにもらい上体を起こした蜥蜴の腹部に潜り込み平手を胸部に勢いよく押し込む。


肋骨を砕く手応えと共に蜥蜴は血のゲロを吐き出して地に伏した。


「見事だ、しかしケイは武器を使わないのか?」


「そうですね、これといって決めて使っている物はありませんね。」


手のひらに付いた蜥蜴の鱗をペリペリと剥がしながら応対する。


「武器の持つリーチそのものは単純にアドバンテージだ、何を使うか考えておいても損は無いと思うぞ?」


オスカーは腰に下げたレイピアを撫でながらそう言う。


「オスカーごめーん殺しちゃったみたい。」


そんな会話を遮るようにアンバーの声が遠くから響いてくる。


「まったく…アンバーはまだ加減が出来ないのか…」


オスカーは肩を竦めながら蜥蜴の尻尾を引きずってくるアンバーを見る。


「これ死んじゃってるよね?」


「ですね。」


頭を潰されぺったんこになった蜥蜴を見ながらウィルが短く答える。


「アンバーさんまたやらかしたんすか?!」


ルークがメイと共に運送用の荷台を引きながら駆け寄る。


「いやーいざ戦闘になるとこればっかりはねー」


アンバーは頭を掻きながら苦笑いしている、オスカーはため息をつきながらアンバーの頭を軽く小突く。


「何回目だとおもってるんだ…幸いこちらの方は生きているからそれを運んで帰ろう。」


「おっケイ君やるねー!」


アンバーが雑に頭を撫でてくる。


「はぁ、ありがとうございます。」


「アンバーは本当に反省してるのか?メイ頼む。」


「わかりました、バインド。」


メイは杖を蜥蜴に向ける、メイの杖から鎖の象られた魔法が飛び出すと蜥蜴の体に巻き付いた。


「台車運ぶ係やるから許してよ~。」


アンバーは蜥蜴の難なく持ち上げ台車に乗っける。


「台車は元々アンバーさんの仕事でしたよね?」


ウィルは意地悪な笑みで語りかけるとアンバーはすっとぼけた表情でその問いかけを無視した。


「死んだ方の解体は俺がやっちゃうんでその間休憩でもしちゃってて下さい。」


ルークが解体用のナイフを持って蜥蜴に歩いて行く。


「あ、あの!ケイさんって何処の出身なんですか?」


メイがとてとてと近づいて来てそう訪ねてくる、アンバーも興味深そうにその後ろから首を伸ばしてこちらを伺っている。


「そういえば言ってなかったな…俺は孤児なんだ、だから親も故郷も知らないんだ悪いね。」


あらかじめアルスから教えられて居たとおりの文言を言いながらアラクネの指導の下小一時間練習した影のある微笑とやらをする。


「すみません…」


メイは俯いて目を伏せる。


「いいんだ別に思うところは無いから、メイの故郷は何処なんだ?」


「私は王都の生まれなんです、確か生徒会の皆も王都出身ですよ。」


毛ほども興味の無い会話だったが途中で会話を切るのも決まりが悪かったのでその後も適当にウィルやアンバーたちと会話を続けた。


オスカーが何かを確かめるような眼でこちらを見つめているのに気がついた直後俺もそのオスカーの視線の意味を理解した、新手だ。


オスカーも俺が新手の襲来に気づいたことを察したのかこちらに音の鳴らない拍手のまねをしてみせる、次いでウィルが気づいたらしくそれとなくオスカーと俺の方に歩み寄ってくる。


「オスカーさんはともかくケイも気がつくのが早いね、この分だとケイの昼飯当番はそうそうなさそうだね。」


「昼飯?」


俺の疑問にウィルが答える。


「ケイはもううちの学食は食べたかい?アレは最高に不味いんだとてもじゃないないがアレを毎日食べるのは勘弁ってことで生徒会では昼飯は当番制で作ることにしてるんだよ。」


「基本は順番で作るんだが、こういった業務がある日は疲れて誰も作りたがらないから索敵の一番遅いメンバーが作るというルールを私が決めたのさ。」


オスカーが歯を見せながらそう言う、メイは固まって話している俺たちを見て不思議そうな顔をした後ハッと何かに気がついたかのように杖を光らせ索敵をする。


「危ないところでした~。」


メイは杖の発光を止めるとこちらに駆け寄ってくる、ルークとアンバーの方を見やるとルークはこちらに背を向けて蜥蜴の解体をしていたがこちらに背を向けたまま片手をこちらに振っている、俺は気づいているというサインだろう。


アンバーは草原に寝っ転がったまま鼻歌を歌っていたがピクリと体を動かすと素早く体を起こす。


「敵襲だよ!」


「知ってますよ、アンバーさんが一番気づくの遅いですよ。」


ルークは蜥蜴の爪を横に放ると以前解体を続けながらそう言う。


「休憩とは言え油断しすぎだな、アンバー今日の昼飯は任せたぞ。」


オスカーがいやらしく笑いながらそう言うとアンバーは顔をゆがませ不平の声を上げる。


「えー嘘!ケイ君は?」


「私の次に早かったぞ。」


オスカーの指摘にアンバーは目を見開き大げさに驚いたふりをする。


「アレはワイバーンですかね?僕がやりましょうか?」


ウィルが豆粒くらいの空に浮かぶ影を見ながらそう言う。


「いやせっかくだし新入生の力を見せて貰おうかな、いいねケイ?」


俺は無言で頷くと前へと歩き出す、豆粒大だった空の影は既にかなり近くまで近くまで来ており翼の風切り音が重く響き渡り、皆は好奇の目を俺に向けている。


俺は軽く腕を回しながら首の骨をならす、ストレッチが下半身に移行した当りで俺の目の前にワイバーンが勢いよく着地する、煙幕のごとく上がった砂煙が晴れるとワイバーンは口をおっぴろげ地に伏していた。


「帰りますか。」


俺はワイバーンを運送用の荷台に乗っけるとパンパンと手についた砂を払った。

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