第26話


「お…重い…」


アンバーが蜥蜴とワイバーンの乗った台車を押す。


「頑張ってください!」


メイは両手を胸の前でグッと握りアンバーを応援している、俺たちは蜥蜴の捕獲を終えたので帰路についていた。


「ケイ…手品には必ず種があるものだろう?」


オスカーはチラリとワイバーンを見やると俺の顔をのぞき込んでくる。


「手品ってほどの物でも無いですけどね。」


俺はそう言いながら人差し指を立てると指先が切れピュッと血が噴き出す。


「これは忌術?!いや…固有魔法ユニークスキルか?」


オスカーが目を鋭くする、俺は人差し指をクルクルと回すとリボンのように俺の血は指についてくる。


「キジュツ?っていうのは知りませんがこれは俺のスキルですよ。」


軽く腕を振り地面に生える草を血を操って刈ると皆その様を珍しそうに眺める。


「吸血鬼などの魔族とその眷属が使うとは聞いていましたが…まさかケイさんも使えるとは知りませんでした…」


メイがゴクリとつばを飲む。


「俺は薄いですけど吸血鬼の血が入ってるんであながち間違いでも無いですね。」


「あぁそのことならガオナン校長に既に聞いていたんだが…実際に目にするのとではな。」


オスカーはより俺に近づき指先を見つめている。


「忌術というのは文字通り忌み嫌われる特性を含み大陸で条約上禁止されている魔法のことを言うんだ。」


ウィルも俺の指先を見ながらそう言う、そんな会話をしているうちに魔法学校に到着する。


時間で言うともう昼頃ということもあり校舎にもちらほら人が居る、アンバーの押す台車に乗るワイバーンを見て皆遠巻きに歓声を上げている。


「お帰りなさいませケイ様荷物をお預かりします。」


ミハイが音も無く俺の真横に現れる、生徒会メンバーは少しギョッとしている。特にルークは先日の件でミハイへの苦手意識が強いらしく大げさに距離を取る。


ミハイは別段興味もなさそうに一瞥すると視線を俺に戻す、俺はミハイに荷物を預けるとミハイは恭しく一礼して肩掛けのバックを受け取る、ミハイには先に帰るよう伝えておく。


校舎の窓にはいくつもの顔が俺たちをのぞき込んでいる、皆ワイバーンが物珍しいようで口をそろえて賞賛や畏怖の言葉を贈っている。


「ご苦労だったな生徒会の諸君、それにしてもワイバーンは頼んでいなかったと思うが…さすがはオスカーと言ったところか。」


若干黄ばんだ白衣を纏い丸眼鏡をかけた少女がとてとてと白衣を引きずりながらこちらに歩いてくる。


「シエン先生これは私が狩ったものではないですよ。」


「ん…そうか、じゃあ君か。」


シエンと呼ばれた小柄な教師は大きなめがねを指であげながら俺の方を見て言う。


「初めましてシエン先生俺はケイと言いますよろしくお願いします。…ところで何故俺だと?」


「ここじゃ立ち話するのも視線が痛い、場所を変えよう。」


シエンは辺りを囲むように立つ生徒たちを見ると軽くため息をつく。



「ここが私の仕事場だ…マーシャル仕事だぞ。」


校舎の裏手にある大きな建物に入るやいなやシエンはそう言う。


「はいシエンさん、あぁ生徒会のみんなかお疲れ様!あれケイ君?」


「あぁ…マーシャル先生お久しぶりです、どうも本校舎で見ないと思ったらここがここに居たんですね。」


俺がオーガから救った教員であるマーシャル先生がそこには居た。


「ケイ君こそ生徒会に入ったのかい?!凄いじゃ無いか!まあオーガを倒せるなら当然か。」


マーシャルは人の良さそうな笑みで語りかけてくる。


「何だ知り合いだったか。」


「ええシエンさんには前に言いませんでしたっけ、僕がオーガに襲われたときに助けられたって話をしたじゃないですか?そのときの子が彼です。」


マーシャルはシエンにそう言いながら台車に積まれたワイバーンを下ろそうとして苦戦していた。


「そういえば何故お前だとわかったか…だったなまぁ別に対した事では無いのだが。」


シエンは煙管に手を伸ばし火をつけながら俺の質問に答える。


「メイは戦闘職で無いから真っ先に除外されるとして、見たところワイバーンに大きな外傷はない、その時点でアンバーとルークはあり得ない。」


アンバーと一括りにされたルークは複雑な顔をし、アンバーはニヤニヤ笑いながら頭を掻いている。


「ウィルは割と丁寧に戦うタイプだがワイバーン相手に傷をつけずにというのは少し現実的で無い…となると必然的にオスカーか君になるというわけだ。」


シエンはふぅと煙を吐くと煙管で灰皿を叩く。


「で私からも質問させてもらおう、一体どうやってそのワイバーンを仕留めた?」


またかと思いながらも俺は指先から血を出して操ってみせるとそれまで無表情だったシエンの目が軽く開く。


「ほう…操血か。」


シエンは煙管で灰皿をこちらに押し出す、脈絡のないその行動に皆戸惑う。


「ケイ、お前もヤるんだろう?校内は全面禁煙だがここは私の国だ、言わば治外法権なのだよ。」


シエンがその日一番の笑顔を見せる、俺は灰皿を受け取ると煙草を取り出す、メイやアンバーは俺が煙草を吸うことに少し驚いているようだった。


口元に煙草を咥えながらライターを探す、しまったバックに入れたんだった…ミハイに預けてしまったことを後悔しているとシエンが軽く指を鳴らすとポッと煙草の先に火が灯る。


「私はこれだけの為に火の魔法を覚えた、便利だぞ?」


軽く頭を下げて俺は一服する、薄暗い部屋に差し込む光に紫煙が燻る。


「うわっ!」


ワイバーンの解体をしていたマーシャルが声を上げる。


「どうしたんですか?」


メイがマーシャルに駆け寄ると動揺に軽く声を上げる。


ワイバーンの頭蓋を切り開いていたようだが中身の脳みそが液状になって地面に零れだしていた。


「ケイは結構恐ろしい事をするんだな…」


オスカーは軽く青ざめた顔をしながらこちらを見てくる。


「なるほど…頭に突き刺してかき回したワケか。」


シエンはボサボサの茶色の長髪を掻きながらワイバーンを眺めていた。


「アレは良い薬になる、次があったらできるだけ原型を留めるようにしてくれ、まぁ他が無傷なら十分なんだが…出来るだろう?」


わかりましたとだけ伝え再び煙草を咥えた。

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