第23話


ケイが部屋を出て行き扉がパタリと閉まる、私オスカー・モラレスはいつからか止めていた息をフッと吐き出す。


「行ったか…メイ一応の確認だがあの幻術は本気でかけたもので違いないね?」


「…はい、いつも通りに私の出来る全力でかけた幻術です…」


メイは顔を下に向け落ち込んでいるようだ。


「気に病む必要は無いさ、これから一緒に努力しよう。」


私がそう声をかけるとメイはパァと表情を明るいものへと変えていった。


「それにしてもオスカーさん、本当にヤツを生徒会に入れるつもりですか?」


ルークが非難の色をのせて詰め寄ってくる。


「入れるも何も君の主の推薦だろう、違うかいルーク?」


少し意地悪な笑みで返すとルークはとたん慌てた表情でウィルに弁解をはじめる、ウィルはその言い訳を楽しそうに聞いていた。


「…アンバー彼はどうだった、アンバー?」


3秒もじっとしていられないのではと思われている常に快活なアンバーが珍しい事に口に手を当て何かを考え込んでいるようだった、メイに脇をつつかれてやっと私の声が届いたようではっとこちらを向く。


「ん?なにオスカーなんか言った?」


「あのなぁ…まあいい、彼は…ケイはどうだったかと聞いたんだ、視る時間はいくらでもあっただろうその眼で。」


「あーそのことなんだけどね、わからなかったんだよね!」


てへっと舌を出しながらこちらに笑いかけてくるアンバー。


「君の通眼のスキルで視ることが出来なかった…ということか?」


「いやいや、正確には視えたんだけど…かなり制限されたもので名前ぐらいしかわからなかったんだよね、ステータスも見えたんだけど十中八九偽造されてるね。」


アンバーは持ち前のフィジカルによる近接格闘に秀でていると言う印象を広く持たれている人物だが、その実彼女の持つ通眼という多くを見通す眼による効果が非常に大きくそれを上手く使いこなしたスタイルこそが彼女の最大の武器である。


そのアンバーの通眼を持ってしてわからないと言わせるケイという少年はいよいよ訳のわからない人物であり、より生徒会に入れる必要があると私は強く思わされた。


メイもルークも驚きで口が開きっぱなしになっている、ウィルは何を考えているのかいつものように微笑をたたえている。


「そうか…わかったありがとうアンバー、ウィル、君はとんでもない逸材を見つけてきたみたいだね。」


「でしょうオスカーさん、彼は生徒会に入れるべき人材だと僕は思って推薦したんです、皆さんにもわかって頂けたみたいで嬉しいです。」


ウィルはニッコリと笑いかけそう言った。



コポコポと小気味良い音を立て粘性のある液体がカップに注がれる、注ぎ手の侍女のような人間に軽く頭を下げカップを受け取る、若干赤みがかった液体だが紅茶の類いでは無いだろうと容易に想像がつく。


俺は今定期報告も兼ねアルスの所に顔を出していた、勿論ミハイと一緒だがミハイは部屋の外で待つといってそのままさも門番のように仁王立ちをしていた。


「王都魔法学校生徒会ねぇ…」


アルスは顎に手を当てながらにやりと俺を見やる、俺はカップに口をつけると何処か懐かしい味に若干目が見開かれる。


「アハハ気に入って貰えたかな?」


「…コレは?」


「聞かない方が美味しく飲めると思うよ、どうしてもと言うなら帰り際アラクネに聞くと良い…覚えてるよねアラクネ?」


「勿論です、命の恩人ですから。」


ズタボロでここに運び込まれた事を思い出しながらカップを置く。


「それで生徒会の件ですが…どう思いますか?俺はどう動けばいいか指示をいただければ嬉しいのですが…」


「正直な話ケイがここまで上手く潜り込めるとは思わなかったから次の手を考えてないんだよね…とりあえず校長のガオナンにケイの正体がばれたとは考えづらいけどバレた上で泳がされてる可能性も一応持っておこうか。」


「わかりました。」


「それで生徒会の件なんだけど…話を聞く限り多分入ることになる。」


「魔王軍上層部の命令ですか?」


アルスは人差し指を立てて横に振る。


「生徒会側の人間がケイかなり評価しているみたいだし、しつこく勧誘してくると思うってのが理由だね。」


俺は軽く舌打ちをする。


「それじゃ生徒会には入る事になるんですか?」


「まあそうだろうね。」


俺は眉間に皺を寄せる。


「まぁ悪いことばかりでは無いと思うよ、ただケイのなるべく目立たないという行動方針は改める必要があるかもね。」


「というと?」


「生徒会に入るとなれば嫌でも目立たないわけには行かない、だからこれからは必要以上に目立って周囲の信頼を勝ち取るってのが一番いいかもね。」


俺はアルスの言葉を脳内で行動に置き換える、がなかなか苦労しそうだなと思ってしまう。アルスは俺が苦しんでいる姿をみて笑っていた。


「ケイ、その生徒会には勇者がいるおそらくオスカーとか言う女だろうね、まあ十代そこらのクソガキにどうこう出来るほど僕たちの組織はヤワじゃないけど情報はあって困るもんでも無いから何かわかった時には教えてほしい。」


俺は軽く頷くとアルスは手を軽く包むように握りながら腕の時計を確認する、これは意識してやっているのかは知らないが会話の終了とアルスが次の仕事に取りかかる前に必ず起こす動作である。


「それではここら辺で失礼します、また何かあれば顔を出させて頂きます。」


「お疲れ様、じゃ頑張ってねケイ。」


ひらひらと手を振るアルスを背にドアノブに手をかけるとアルスから声がかかる。


「そうだケイすっかり忘れていたんだけど、近いうちに上層部からお呼びがかかると思うから特に必要な物は無いけど心の準備はしておいてね。」


「了解しました。」



「あら、あなた久しぶりじゃない、確か…ケイ!そうねケイって名前アルスから貰ったのよね!」


「お久しぶりです、アラクネさんその節はお世話になりました。」


「最初の頃の荒々しさはどこへ行ったんだかねでも私、立場をちゃんと弁えるタイプの子嫌いじゃないのよね。それにその隣の子前はいなかったわよね?彼女ー?」


スッと指差されたミハイはサッと姿勢を正す。


「か、彼女だなんてとんでもございません!ケイ様の従者で名はミハイと申します、以後お見知り置きを…」


「良い娘じゃないケイ、それにしても貴方達強いわね〜それだけ強ければもう怪我もしないかもしれないわね。」


アラクネはパチリとウインクをする。


「それしても何の用事かしら?迷子には見えないけれど?」


「アラクネさんに聞きたいことがありまして、先程アルスさんから薄紅色のお茶をご馳走になったのですが大変美味で是非帰ってからも飲みたいと思いまして。」


「薄紅…あぁ〜あれね、で用はそれの作り方が知りたいのね?」


「はい!」


「あれただの髄液に軽く味付けしただけの液体よ、グールとか昆虫系の魔物にウケが良いんだけど、侍女の手違いでケイに出したみたいね、まあ美味しかったなら結果オーライじゃない?」


俺の舌はどうやらグールやら昆虫やらと遜色ないようだという事実に呆然としてしまう。


「そうと決まればミハイちゃん!ご主人様にいつでも作れるようにレシピ教えたげるから付いてきて!丁度使わなくなった人間がいるから頭かち割るところから一緒にやりましょうか!」


「はい!ご指導宜しくお願いします!」


駆けていく二人の背をぼんやりと眺めたのち俺は先に家へと帰るのだった。

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