第17話


拙い、実に拙いぞこれは。


上級クラスでの軽い自己紹介を済ませると早速授業が始まった、歴史の授業だったのはまだいい、問題はその内容だ。

こんなものは本を読めば分かるようなとにかく内容が浅すぎる、立ち上がってそう言ってやりたい気分をぐっと押さえ行儀良く席に座る。


ここまでレベルが低いのか魔法学校はと頭を抱えたくなる、所詮は貴族への教育を主眼としたものなのでしょうがないということなのだろうか。

俺は窓際の席だったことをこれ幸いと外を眺める、校舎では下級クラスが魔法の訓練を行っている。


ぼんやりと眺めているとそこそこの人数が魔法を放っている景色が見える、下級クラスは上級クラスの権威主義に対して実力主義の風潮が強いらしい、よほどあちらの方が身になるだろう。

未だ魔法の使えない俺は良いなぁと思いながらその光景に目を奪われていた。


「ケイ君聞いているのですか?」


「勿論ですよ先生。」


「そうですかそれはなによりです、では先ほど内容をケイ君の意見も交えて復唱してみなさい出来ますね?」


男の教師はにっこりと笑っているものの額には軽く青筋がたっている。俺は一息ため息つくと立ち上がると地図の貼られた黒板の前まで行く。


「…我がグリンデル王国は他国よりも魔法技術において数歩先を行っており、歴史的に仮想敵を魔族およびその魔族領支配地域に存在している生物と仮定した場合の私の意見を述べさせて頂きます。」


教師は少し目を見開く、ウィルは笑いを堪え他の生徒は何をする気だとこちらを見ている。


「先ほど先生が説明されたのは大まかにグリンデル王国成立の偉大な歴史と魔族との闘争そして我らが王国の輝かしい勝利までの歩みだったと記憶しています、浅学ながら付け加えさせて頂くとすれば他国との…この際細かい部分は省くとして…帝国と教国の協力ありきの魔族への勝利であったこと、勝利といえど完全な勝利では無く事実上の休戦状態であること…などでしょうか。」


俺は視線で教員に確認を取る。


「…続けたまえ。」


「併せていうなら、この帝国と教国との協力も理想的な形での協力ではなく敵の敵は――といった形だったというのが流れとしては一番正しいかと、先の大戦でもとより数の少ない魔族に打撃を与え、尚且つ海を挟んだ魔族領との戦闘の再開というのは余り現実的では無い。となれば状況は大戦以前に戻るというのが自然というもの現状最も危惧すべきは同じく人間の、特に帝国であるかと私は考えます。いざ人外同士での開戦となればこちらのアドバンテージは高い魔法技術ということになりますが、我が王国の魔法技術の高さは主に人工のダンジョンコアを作り出すなどの加工技術にあり攻撃魔法のレベルが特段高いわけではないという印象を私個人は抱いています、これを有事限定ではあれど国民皆兵制度の採用されている帝国と比較した場合にどれほどの優位を示せるかというものは私には甚だ疑問であります。とは言えこの国は魔法の碩学が集う国、私のあずかり知らぬ場所で画期的な技術、戦術が日夜生まれていることでしょう。」


俺が黒板から視線を戻すと生徒も教師もぽっかりと間抜けに口を開いていた、まずった忌憚なく言い過ぎたか…


「…失敬、はしゃぎすぎた上にかなり脱線しました、以上です。」


「…よろしい戻って良い。」


俺は軽く教師に会釈すると席に戻る、大失敗をかましたと思いながら今度こそはと姿勢を正して授業へと取り組んだがいかんせん俺は集中力が無いみたいだ。10分もしないうちに退屈な講義から目をそらしやはり校舎の外に視線は移ってしまった、しかし幸いなことに教員は二度と俺を指名することは無かった。


それから今後上に立つものとしてのマナー講座などの輪をかけて退屈な授業を乗り越え魔法の授業が始まった。前半は基本的な内容のおさらいをし後半は実践という流れだった、クラスの大半が既に属性魔法を使いこなせるということもあり座学は非常に簡素なものだった。


魔法の実践は危険が伴うということで皆は校舎を出て校庭へと連れてこられた、俺は事前に魔法が使えないと言うことを伝えていたので校庭の隅で別の教員に指導して貰う運びになった。


「ケイ君はまだ自分の属性が何かすら知らないんだよね?」


女の教師は何やら資料を片手に話しかけてくる、俺がそうだと答えると教師は一枚の紙をこちらに差し出してくる。


「これは魔道具の一種でね、魔法の伝導率が非常に良い木から作られた紙なんだ、さっ触れてみて。」


言われたとおりに俺は紙に触れると紙はパラパラと崩れ落ちた。


「ケイ君はどうやら土の属性みたいだね、火なら燃えるし、水なら湿る、風なら紙が切れる、土なら今みたいに紙が土に変わるんだ、特殊な性質なら変わった紙の変化が起きるし、他の属性もそれに対応して変化するけどこの際だから省くね、それにしても魔力操作はかなり上手いって聞いてるけどどうして属性魔法を習得しようと思わなかったの?君ぐらいの歳の子ならまずみんな真っ先にやりたがるのに?」


「必要性を余り感じなかったってのもありますが、ただ単純にそういった機会に恵まれなかったというのが一番ですかね。」


「…なるほどね、それじゃここからは実際に魔法を使って貰うんだけど、やってっていわれて出来るほど簡単でも無いのよこれが、特に最初はね。」


教師はニッと笑うと説明を続ける。


「良く勘違いされがちなんだけど、基本的に属性魔法を使う際に消費される魔力は使用者の周囲にある自然の魔力が消費されるのよ、使用者自身の魔力を消費するのは周囲の魔力に属性を付与させる過程でのものなの、ここがイメージしにくいことが属性魔法を習得する際に最も壁になる部分なのよね。」


教師が人差し指をピンと立てるとその先に水球が出来上がる。


「だから最初はイメージをしやすくするためにも属性の元となるものを近くに置くことが一番って言われてるの、これが火だったり風だったりすると結構大変なんだけどその点ケイ君は土だからその心配は無いみたいね、地面に手を当てて魔力を流すように操作してごらん。」


俺は言われるままに地面に手を当て魔力を流す、じんわりと手が温まるような感覚を覚えた瞬間プッと指先が切れ血が流れ出る。


「おや上手くいきすぎたかな?尖った石で切ったんだろうね、安心しなさい先生は治癒魔法も使えるから。」


教師は誇らしげにそう言うと俺の手を取り治癒をかけてくれる、徐々に指先の傷が塞がると少量の流血は止まった。


「名誉の負傷だね、初めての挑戦で怪我するほどの魔法が使えるのはむしろ誇るべきだよ、コツは掴めそうかい?」


「えぇ…ありがとうございます、どうやらコツは掴めたみたいです。」


「それはよかった!今やったことを暇を見つけてやってくれればケイ君もすぐに土魔法を使えるようになると思うよ。それじゃ今日のところはみんなの見学に行こう、見て学べることも多いと先生は思うよ。


「分かりました。」


俺はクラスメイトが各々魔法を使っているのを遠巻きに眺めながら自身の体内で魔力に属性を付与させ循環させる、循環が安定しだしたら徐々にその速度を上げていった。


体内を循環する魔力の速度に比例して俺の呼吸は激しくなる、心臓の鼓動も高まり腕には青白い血管が奇妙に脈打っていた。


そもそも鋭い石が当たったくらいで傷がつくほどヤワな身体とレベルはしていないのだ、それにもかかわらず俺の指先は切れて流血した。


おそらくだが俺の魔法は土でも何でも無い、俺はポケットに手を突っ込みステータスカードを取り出すとスキルの欄を確認する。


「やっぱりな。」


スキルの欄には新しく身体魔法・血というスキルが追加されていた。

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