第16話
「良くお似合いですよ。」
「お前も冗談を言うようになったんだなミハイ?」
「冗談など…心からの言葉ですよ。」
俺は魔法学校の入学式を今日に控えていた、学校指定の制服に身を包むがどうも気にくわない。それなりに凝った意匠がなされているのは分かるのだがいかんせん肌に合わない、真っ白な制服に金の裁縫がところどころにされており片方の肩から赤いマントを羽織らなくてはならない。
魔法学校には上級下級二つのクラス分けがなされている、入学試験時の成績に合わせ割り振られクラスごとに制服の意匠や配色が異なる、下級クラスは鼠色の制服でマントの着用は無い、上級クラスは今俺が着ているように白色の制服に赤いマントの着用義務がある。白は気高さと混じりけのなさ、赤は情熱と流血も厭わぬ覚悟だったかな?対する下級クラスが鼠色と言うところに含意を感じないでも無いが…。
「行ってくる、そこまで遅くはならいとは思うけど飯は外で済ませてくるから先に休んでいてくれて構わないぞ。」
「了解しました、行ってらっしゃいませ。」
深くお辞儀をするミハイを背に俺は学校へ向かった、途中嫌に人の視線を集めたのはこの制服のせいだろう、大半は羨望や敬意などのこもった視線を送ってきたが時折憎悪や嫉妬のような負の視線も確かにあった。
結果はどうあれこの制服は周りに対しての影響力という点ではかなりの効力を発揮するみたいだ。
学園に着くと既に多くの学生が校舎のあたりで群れを成していた。
「ケイさん?!」
俺を呼ぶ声に振り返るとそこには受付嬢のエリーがいた。
「エリー?どうしたんだこんなところで?」
俺はわざとらしく首を傾げて見せる、エリーは鼠色の制服を纏っていた。
「私魔法学校に合格したんですよ!受付嬢は学費と生活費の為の短期間のアルバイトだったんですよ。それを言うならケイさんこそどうして?」
「俺も同じく合格したんだこれからは同級生ってことだなよろしく。」
「よろしくお願いします…ってその制服ってことは?!まさかケイさんって貴族――」
「何を勘違いしてるのかは知らないが多分違うぞ、俺はただの平々凡々とした民草の一人だ、ただ試験結果が良かったから上級クラスに入れただけだよ。」
「ただってあの試験筆記実技併せて9割以上じゃ無いと平民じゃ――」
俺は面倒くささとこいつのオーバーなリアクションにだんだん苛々してきたので伝家の宝刀微笑をたたえながら切り上げるを使った。
学年代表としてのスピーチもあるしついでに煙草も吸いたかったので俺は人気の無いところを探して校舎を徘徊した。
「…くだらない。」
俺は大筋の決まったスピーチの原稿に目を通しながら煙草を吹かす、ここまでしゃべることが決まっているのなら別に俺で無くても良いだろうと思いながらも一応全てに目を通し注意点を書き出しておく。
「容姿端麗、頭脳明晰併せてその若さでのレベル20代…そんな王子様の趣味が同輩の覗きだってしれたら国民は酷く悲しみますよウィル様。」
「…今度こそはバレていまいと思ったんだけどね。」
ウィルが物陰から姿を現す、笑いながら俺の隣に座る。
「ケイこの前は実技の試験終わったらすぐ帰ったろ?探したのに。」
「それは…大変申し訳ございません。」
俺は口調こそ丁寧だが煙草を咥えたままウィルに一瞥もくれず視線は原稿に落としたままそう言う、ウィルも別段気にしている様子もなく話を続ける。
「この前の約束の一つはどうやら果たされそうだね。」
ウィルは俺の上級クラスを表す制服を見ながらそう言う。
「同じクラスに――でしたか?」
「そうだ、ところで二つ目の返事を聞きたいんだが?」
「…なぜ王族であらせられるウィル様がこんな釣り合いの取れない一平民にそこまでご執心なのか?そこが引っかかりましてね。」
そこで初めて俺はウィルを見る。
「そうだね理由はいくつかあるんだが…端的に言えば君のことが気に入ったんだよ。」
「人間というのは合って一日二日で他人に興味を抱けるものなのでしょうか?」
「ハハッまるで自分が人間ではないような言いようじゃないかケイ、ただ…そうだねかなり珍しいかなそういうことは。」
「では…なぜ?と理由をお聞かせ願えますか?」
「いいとも、それは非常に簡単なことで君が僕に対して余りにも執着しないから興味を持ったんだよ。大抵の人間はその地位にかかわらず僕との繋がりを求めるんだよそれが君には無い、これ以上対等な友人としての条件があるかい?」
「…なるほどありがとうございます、そういうことでしたら是非ウィル様のご友人として同じ学園の元――」
「堅いなぁ…ケイ、友達だろう?」
ウィルは笑顔で握手を求めてくる、俺も笑顔で答える。
「ウィルマー様!急にいなくなられては困ります。…その方は?」
俺やウィルと同じ上級の制服を着た少年がこちらに駆け寄ってくる。俺とウィルが握手しているところを見るなり俺に訝しげな視線を向けている。
「止めろルーク、僕の初めての友人だ無礼は許さん。」
ウィルは毅然としかし語調を強めそう言い放った、ルークと呼ばれた少年は腰の剣に手をかけていたがそれを下ろす。
「初めまして、ケイと申します。」
「…ルーク・バイロンだ、一応貴族の出だが今はウィルマー様の身辺警護を任されている。」
ルークと呼ばれた少年はむき出しの敵意とまではいかないもののあからさまな嫌悪やこちらを警戒した視線は隠そうとしない。
俺からすれば勝手に友人認定されその従者に勝手に警戒されるのは余り心地良いものでは無いし、なにより面倒くさそうだ。俺は一刻も早くここを離れたい一心でそれに足る理由を模索する。
「それでは、入学式の個人的な準備があるのでここで失礼します。」
「新入生代表のスピーチだろうケイ?僕もあるんだ一緒に行こう。」
「…光栄です、是非ご一緒させて頂きます。」
最悪だ。
入学式は特筆するようなことは無かった、あらかじめ決まった通りに進行し俺もほとんど決められたスピーチを機械的に読み上げ可も不可も無く乗り切った。
平民という立場でステージに上ることに快く思わない輩も少なからず居ただろうが流石にこういった公の場でどうこう言うヤツは流石にいなかった。
出来れば悪目立ちはしたくなかったのだが…どうやらそうも行かなそうなので今後の身の振り方にはより一層細心の注意を払わねばと心に刻んだ日だった。
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