プロローグ 王都魔法学校

第15話


なんだこれは?そんな言葉が出るのを押さえながら問題を解いていた、いや正確に言うと頭の中にある至極常識的な知識を答案に書き写すだけの作業だった。


俺は今、王国魔法学校の入学試験の筆記問題を解いていた。正式にはグリンデル王国王都魔法学校なのだが余りにも面倒くさいので皆魔法学校と呼んでいる。


後半の記述問題だけ少し時間がかかっただけで全体では30分もかからなかった、出来上がったら退室可と言われていたので俺は荷物を持つと立ち上がる、正直退屈すぎて死にそうだったのでこれ幸いと煙草を片手に部屋を出ようとする。


「君!途中退室は禁止だぞ?」


教員であろう試験官に止められ、同じく試験を受けている生徒候補の奴らもこちらを見てくる。


「終わったんで部屋を出たいんですが大丈夫ですよね?」


俺は訝しげに俺を見る試験官に答案を見せる。


「あ…あぁ、…問題ない、出たまえ。」


試験官は目を見開き答案を何度も見返している、死ぬまでやっとけと心では思いながら軽く会釈すると部屋を出る、このまま帰ってやりたい気分だったがこの後実技の試験もあるらしいのでそうもいかない。


俺は校舎から出ると人気のないところに行き腰をかける、煙草を咥え火をつけるとそこで一服した。


「キミ頭良いんだね、まさか僕より早く退室者が居るとは思わなかったよ。」


後ろから声がかかる、部屋を出たときから後ろをついてくるヤツは気づいていたので別に驚くことは無かった。


「たまたま張ってたヤマが当たっただけですよ陛下。」


俺は振り返らず煙草を咥えたまま答える。


「僕はまだ王子だ陛下は止めてくれ…隣良いかな?」


「匂い移りが気にならないならこんな平民の隣で恐縮ですが…どうぞ。」


俺が少し横にはけると美しい発色の金髪をした少年が横に腰掛ける、如何にも王族といった余裕を持っているのがわかる、顔立ちも整っており良く通る万人に好まれるような声だ。


「知ってるとは思うけど、ウィルマー・グリンデルだ是非ウィルと呼んでほしいな。」


ウィルは握手を求め手を伸ばしてくる、俺は握手に応じる。


「ケイと申します、卑賤な出のため名字などはありません、是非呼び捨てて頂ければ…」


「そうなのか?てっきり僕は貴族の出かとばっかり思っていたよ。貴族は嫌いかいケイ?」


「別に好きも嫌いもありませんよ。」


「そうか…僕は嫌いだよ、血統だけでどうこうってのがどうも僕には会わないみたいで…」


ウィルは顔を伏せどこか自嘲的に言う、それは否定でも肯定でもなく視線をそらす。


「あまり僕が言うべきでは無いかな?」


「…どうでしょうね。」


ウィルは軽く微笑む、俺も併せて笑いかけると立ち上がる。


「それでは…」


俺は軽く頭を下げ立ち去る。


「ケイ!できれば君と同じクラスになりたい、あと友人にも。」


ウィルは立ち上がり俺に語りかける、その顔には少しの恥ずかしさがあったのか軽く笑ってごまかしている。


「……恐縮です。」


それだけ言うと俺は校舎へと戻った。



「これから実技の試験を開始する、君たちには使用できるスキルの申告とそのスキルの行使を行って貰う。」


試験官からそう声がかかると次々と試験が開始された、魔法を使える者は離れた的に向かって火球だったり土塊だったりをぶつけている、物理系のスキルは試験官が直接受けるようで組み手のような形での試験が行われていた。


少しして俺の名前が呼ばれたので試験官の元へと行く。


「ケイだな、スキルを教えてくれ。」


「はい、魔力操作はできますが魔法は特に使えません、スキルは中級近接格闘だけで武器はありません。」


「わかった、とりあえず魔力操作を見せてくれ、その後組み手形式でスキルを見せてほしい。」


俺は言われた通りに指先から頭、足先まで魔力を循環させた。


「うむ素晴らしい正確さだな、これなら魔法もすぐに使えるようになるだろう、よし次だ構えろ。」


試験官が一定の距離を開け構える、俺も構えると試験官が先に攻撃してくる。

上段頭を狙ったハイキックだったが手加減しているのだろうかなり遅い、俺は避けるよりか捌いたほうがそれっぽいっかなと考え手の甲で受け軽く流す。

俺は本気でいくわけにもいかないので軽く足払いをすると足を上げガードされる。


「本気でいいぞ。」


試験官はにやりと笑うとワンツーでジャブをしてくるなかなか速度ののったジャブだが所詮ジャブこれも手で軽く流すと試験官は少し目を見開く。俺は威力は無いがスピード重視の横なぎな蹴りを試験官の腹めがけて入れる、試験官は顔にあったガードを下げ肘で蹴りをガードしようとする、腹へのインパクト直前急速に身体を捻り蹴りを止める、中段まで持ち上がった足を曲げもう一段上げガードの降りたがら空きの顎を捉える。


「なっ?!」


唐突なフェイントに驚きを声に出す試験官、つま先で顎の先端を蹴り抜いた、フェイントのため体重の乗った蹴りではなかったが瞬間的な速度は出た、脳みそを揺らすには十分というわけだ…もう少し本気でやればの話だが。


「詰めが甘いな!」


試験官は蹴りをものともせずに俺の懐に入り込み服を掴むと俺を地面に叩きつけた。


「うむ、こちらも素晴らしい。その年でここまで食い下がるとは思わなかったぞ。」


「ありがとうございました。」


試験官は満足そうに頷くと俺に実技の試験を終了を告げた。余り目立ちすぎるわけにもいかない、そこから考えればまずまずの出来ではないだろうか。


実技も終わりもう学園に用はない、俺は荷物を持つとそのまま寄り道すること無く真っ直ぐ家に帰った。


「お帰りなさいませケイ様、入学試験如何でしたか?」


「まぁまぁかな、落ちたってことは無いと思うぞ。」


肩掛けの鞄をミハイに任せて椅子に腰掛け煙草に火をつける。


「流石ケイ様です。」


「ハハッ、流石なもんか酷い試験だったよ、特に筆記は酷いなんてもんじゃない、考える時間よりも書く時間の方が長い試験だなんて存在意義を疑うぞアレ。」


俺は胸いっぱいの不満をミハイにぶちまけた、ミハイはただ微笑をしながら俺の愚痴に夜が更けるまで付き合ってくれた。


後日珍しいことにうちに訪問者が現れた、誰かが来ることを想定していなかったので呼び鈴も無い、ノックと呼び声で初めて気がつき戸を開けるとそこには魔法学校職員を名乗る女が立っていた。


女はこの家のボロさに最初こそ戸惑いの表情を見せていたが、ミハイが何用かと問うことで初めて会話が始まった。


「このたびケイさんの試験の結果を踏まえまして合格の通知に参りました、おめでとうございます!」


「はぁ…ありがとうございます、ただそういうものって書類じゃないんですか?」


「えぇおっしゃるとおりで本来は書類での通知になるんですが…今回は特別でして。」


「特別…というと?」


「ケイさんは筆記試験の得点最優秀者ということで是非入学式新入生の挨拶をして頂きたく――」


「ちょっと待ってください!俺が最優秀?」


「えぇ、満点でしたよ!非常に素晴らしいことですよケイさん、これは実に数十年ぶりの快挙ですよ!」


俺は頭を抱える、女にはどうやら感涙に見えたらしく喜びが倍増している。

アルスは魔法学校に入ることに何かしら意義があるかも知れないと言っていたが…これは大丈夫なのかとひどく心配になる俺だった。

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