第13話
初級ダンジョンを二人の男が探索していた。二人とも10代後半ほどの若い男で活力に溢れたいかにも好青年といった感じだ。
ここは一時閉鎖となっていた初級ダンジョンにダンジョンコアが新たに造られたため再び解禁となった、以前のこのダンジョンは初級とは謳っているものの最下層近くはCランクの冒険者でも苦戦するような魔物が出てくるものだった。ボスは決まってオークでソイツの魔石はなかなか金になる。
「前とあんまり変わってないみたいじゃないか?」
「ああ、この調子ならボスもオークだなサクッと狩って帰ろう。」
男たちは新しくなったとはいえ本質的な部分に変更が無かったためか、口調にもゆったりとした余裕と自信が溢れていた。男たちはボス部屋の大扉に手をかけると扉を開く。
「なんだ…これは…」
男の一人が息を飲む、大扉の先にはこのダンジョンのボスであるオークが既に腹が割かれ内臓が飛び散って死んでいた、どうやら魔石を雑に取り出されたようだ。
それ以上に男の目を引いたのは人間の死体の山であった、服装を見るに皆冒険者であろうがその姿はもはや人と呼んでよいのかとためらいたくなるほど原型を留めていなかった。あるものはオークのように腹を割かれ、ある者は頭を潰されて…そんな人間の死体が2、30転がっていた。
「こんにちはお二人さん。」
死体の山の奥から一人の少年がひょっこりと現れる、14、5才の男の子はこの異様な光景には一切触れず、まるでそんなこと全く気にしていないかのように二人に話しかけてくる。
「お二人には悪いんだけど、ここで死んでくれ。」
少年は一切表情を変えずに歩み寄ってくる、二人の男も応戦しようと剣を構える。すると少年はピタリと歩みを止める。
「なんだ、達者なのは口だけか!」
「いや順番的に俺じゃ無かったってだけだ。」
男の一人が小馬鹿にしたような顔で少年に言い捨てると、それを少年はまるで意に介さず二人の男に背を向け死体の山に戻る。
「舐めるなよ!」
一人が背を向けた少年に斬りかかる、切っ先は肩口から入り腰元を抜けて少年の身体を両断する。
「なにが死んでもらうだ!あっけねえ。」
両断された上半身と下半身は地面に崩れ落ちる、すると身体の中から鴉がもぞもぞと這って出ててくるとそのままどことなく飛び立っていき、やがて少年の身体はその全てが鴉になり全て飛び立っていった。
「なにっ?!」
「幻影とはいえケイ様がああなるのは流石に気分が悪いですね。」
二人の男はそう発言した女の姿を見ること無く首を刈られ絶命した。
「好きにやれって言ったのは俺だしあんまり気にしない方が良いじゃないか?それよりレベルはどうだ?」
死体の山から手頃な部位を手に取り喰いながら少年が話しかける。
「私もこれでレベル30になりました、やはり人間の経験値はダンジョンコアの影響を受けないようですね。」
「そうか、とりあえず今日はこのあたりで引き上げよう。それにしても…この死体の山の処理どうするよ?俺もう腹一杯だ。」
「…私もです。」
俺たちは新たに二人分増えてしまった死体の山を眺め呆然と立ち尽くした。
※
この王国の第一王子が若干15歳にして異例の23レベルに上がったことによるお祭りを経て俺たちはダンジョンのボス部屋に棲みボスの代わりをしていた。
やはりダンジョンボスを倒してもレベルに変化は無かったが、そのボスを狩りに来た冒険者を殺したところレベルの伸びが非常によく俺たちは味を占めたというわけだ。
俺たちは多くの冒険者を殺し、喰らった、そこに躊躇いはなくただただレベルの上がる高揚感だけがあった。
俺もミハイもレベルが30に達したところでいったんこのレベリングを終わりにした、流石にこの短期間で未帰還者が増えすぎということで王国騎士団の調査が入るということをギルドの噂で聞いたからだ。
レベル30、大台に乗ったといえるだろう。身体も今までより一回りほど大きくなり身のこなしも軽やかになった。何よりステータスにも大きな変化が見られた。
俺はステータスのうちスキルがいくつか増えていた。今までの踏破者、カリスマ、眷属に加え、中級近接格闘、状態異常耐性の二つが増えていた。
スキルの数だけ見れは大した変化では無いのだが既存のスキルの成長が著しく見た目以上に強くなっている。
まずカリスマだが支配者の卵に名前が変わり、効果は単純にカリスマを強化するものだった。
眷属も神秘というスキルに変わっており内容はごく微少ながら神性を持つ者に与えられるスキルとのことで、眷属のスキルはそのまま引き継いでおり眷属として使役できる数はミハイ含め3体なのには変わりなかった。
中級近接格闘はスキル習得模索中の読書の合間にミハイと組み手をして習得したものでレベルアップとともに成長したらしい、状態異常耐性は言わずもがな食事に毒を混ぜていたためであろう。
ミハイも新しいスキルを手に入れていた、上級風魔法は変わりなく幻影が
「結構雇ってたんだな?」
「そうですね、こうしてみると結構な数を雇ってたんですね。」
ミハイの影桜のお陰でクスリの売人をわざわざ雇う必要もなくなったので、俺たちは売人の一斉処分を始めていた。
これで利益は全て俺たちの懐に入ってくるし、足のつく恐れも大幅に減った。
いかんせん人間ってのは口が軽くていけない、自分の為ならいくらでも他を犠牲にする。
しかしそれも今日までと考えると気分がスッとする、明日からはよく眠れそうだ。
売人達は皆しっかりと殺したが、ただ殺すのではなく出来るだけ雑に殺した。この雑というのは急所を一突きなどを丁寧とするならばの話で、要するに素人の殺しに見せかけたわけだ。
殺しに使ったナイフもダンジョンでゴブリンが落とすようなボロいナイフを使って死体に刺したままにして、争いの形跡も残して小銭程度の金額だったが金銭目的の殺しを装う為拝借しておいた。
「まぁここまでしておけばそうそうばれることも無いだろ。」
「そうですね…それでアレどうします?」
ミハイは裏路地に積み上がった瓦礫とゴミの山を指さした、正確にはその裏をだが。
「あぁ居たなそんなの、おい出てこいよそこの物陰のヤツ。」
俺が呼びかけるが反応は無い、まだばれていないということにかけているのか?それは流石に無理があると思うが…。
少し待ったが出てくる気配がない、ミハイは目にもとまらぬ早さで消え獣人の子供の首元を掴んで持ってくる。
「獣人の子供か…珍しいなこんなスラムで。」
「あ、あのっ!誰にも…誰にも言いませんっ!」
獣人の子供は目元に涙を浮かべ全身を震わせ文字通り必死に命乞いをした。特徴的な耳はペタリと下がっていた。
「名前と歳は?」
「へっ?」
子供は一瞬何を聞かれたが戸惑ったがすぐにしゃべり出す。
「名前は…ありません、歳は8才です。」
「そっか、ミハイ殺せ。」
ミハイは間髪入れず子供の首をへし折る、ギュっと一鳴きすると子供は物言わぬ死体になった。
ミハイはそのままゴミの山に死体を投げ捨てると俺に続いて裏路地を出た。
「あんな質問するものですからてっきり見逃すか引き入れるかと思いましたが?」
ミハイが歩きながらこちらをのぞき込むように質問してくる。
「いや獣人ってのは面白いとは思ったんだが…彼若かっただろ?それを雇うのも仕事内容的にちょっと酷かなって思っただけだ。」
ミハイは軽く目を見開き眉をくいっと上げると、さっきより俺をのぞき込む。
「…嘘だよ、子供嫌いなんだよね、特に怯えが前に出てる感じの子ってあんまり共感できない気がしてさ…」
ミハイはまだ納得がいかないようで顎に手を当てながらまだ俺から視線を外さない。
「…はぁ…名前考えるのが面倒だっただけ…それだけ…これでいいか?100パー本心だよ。」
ミハイはにっこりと満足そうに笑うとようやく視線を外してくれる。色々あった日だったがミハイには嘘が通用しないんだなと思わされた日だった。
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