第11話
クエストを受けにギルドに行くと先日の受付嬢が真っ先に迎えてくれた、俺としちゃクエストが受けられれば別に誰でも良いのだが…
「こんにちはケイさん!今日はどんなクエストを受けられますか?」
受付嬢が笑顔で話しかけてくる、俺も仮初めの笑顔で対応するが内心ちょっと焦っていた、なぜならこの受付嬢の名前が思い出せないからだ。やはり覚えようとしてないと物事というものは身につかないのだなと新たな教訓を胸に刻みながら必死に昨日のことを思い出そうとする。
「…エリーです。」
俺の眷属はなんて優秀なのだろう、小声で耳打ちしてくれたミハイに俺は感動を覚えつつも表には出さず受付嬢のエリーに返事を返す。
「こんにちはエリーさん、今日もこの前と同じ初級ダンジョンのクエストを適当にお願いします。」
「さん付けだなんてエリーでいいですよ、こちらクエストの用紙になります…ところでその方は?」
ミハイを訝しそうに見るエリーから用紙を受け取るとミハイをちらっと見る。ミハイはエリーに一切興味が無いようで目を合わせようともしないで俺ばかり見ている。
「こいつはミハイ、俺の友人です。」
ミハイはあまり関わりたくないようなので俺が代わりに紹介する、ミハイは一瞬視線をエリーに移したがすぐに俺に向け直す。
エリーと2,3会話を交わすと俺たちはギルドをでてダンジョンに向かった。
「人間は嫌いかミハイ?」
「えぇ、特にケイ様に色目を使う類いは。」
「そうか、俺は人間になりたいと思っているんだが?」
少し意地悪な質問かなとも思ったがミハイは一切動じなかった。
「存じております、ケイ様が人間になろうが神になろうがケイ様である限り私の忠誠は揺るぎません。」
そうかとだけ言いこの会話はここで終わった、ミハイのこの盲目的な俺への忠誠はもはや信仰心に近い。良い眷属を持ったと思う反面この融通の気かなさは割と危険を孕んでいるような気もしなくも無い。
※
ミハイの強さは圧倒的だった、俺も姿を追えないほどの高速での移動と併せて使われる幻影のスキルでどこから攻撃が飛んでくるかわからない。俺のレベルが下がっているからというのも確かにあるが実際16レベルあった俺はあんな動きはできなかったしできる自信も無い。
上級風魔法と幻影のスキルの同時使用が非常に上手く、いつか見た美しい戦い方により磨きがかかっており魔物は皆眉間に羽が刺さり死んでいた。
ミハイに意図的に負傷させて弱らせた魔物を眷属化してレベルを吸ってみたがレベルの上がりがあまり良くないことが分かった。主からの譲渡の際は完全な足し算引き算の勘定だが、眷属からのレベルの移動の際にはどうやら幾分かレベルが引かれるらしい。
眷属化にもいくつかの制約らしきものがあることがわかった、まず複数同時の眷属化は不可能らしくミハイも含めて3体が限界だったということ、次に眷属化する相手のレベルが自身より高いと不可能では無いがかなり難しく、状況的精神的に優位に立っている状態でないと厳しいということだ。
「もっとダンジョン全体の魔物眷属化して一気にレベル上がると思ったんだがなぁ…まぁそう上手い話はないか。」
3時間ほどダンジョンに潜ってレベルは6まで上がった、しかしこれは踏破者のスキルの恩恵によるものが強く眷属のスキルの効果はあまり関係なかった。これならば普通に戦った方が早いかも知れないと思う。
どうも踏破者があるせいで感覚が麻痺していたがこれでもかなり異常なスピードでレベルは上がっている、俺はレベルが16あったこともあるせいでどうにも自身の弱さを感じてしまうがレベル6は同世代から比べれば十二分に強い。
ただ俺はすべてが我流である、これと決めて使っている武器もないし素手の場合に使える技術もほぼ無い。他者に比べて戦闘技術が少ない、というかスキルだけ取ってみれば戦闘系のスキルは一つも無い、ただレベルによる身体の強さだけでごり押しで勝ってきたのだ。
魔力の扱いも決して下手ではないと思うが性質を持たせてミハイのように使いこなすことはできない、魔力を放出して身体に纏うのが関の山だ。俺はここに来て自身の弱さに打ち震えていた、たぶん俺より圧倒的に強く美しいミハイの戦い方を目の当たりにしたせいであろう。
急に恐ろしさが腹の底からこみ上げてくる、俺が今ここで突っ立っていられるのはただ運が良かっただけなのだ、俺は自我が覚醒してから人間になることへの渇望のみで動いていた、しかし現在中途半端に人間もどきになったことで俺は落ち着いてしまったのだ、これで良いんじゃ無いか?と。
以前のダンジョンで魔物を食らって生きていた時なら決して自分のレベルを下げようとは思わなかったはずだ、いくら利があるとしてもレベルの上昇が俺の人間化に繋がっていると感覚で分かっていたあの時なら。
「これを見越してアルスは魔法学校に行かせようとしたのかも知れないな…」
俺は魔物の死骸を拾い上げ思い切りかぶりつく、骨をかみ砕き臓物を引きずり出し噛み切り飲み込む。
「不味い、実に不味いなこれは。」
だがそれでいい、これは己が戒めの味だ。
俺の突然の奇行にミハイの目が見開かれる。口元から血が滴ることもお構いなしに俺はミハイに語りかける、それは俺自身に対する宣誓でもあったのかも知れない。
「強くなろう俺も、ミハイも。」
真っ赤な口元でニッと笑う。
「えぇ、お供させて頂きます。」
ミハイも驚きの表情から一転笑顔に変わると俺の持つ魔物の死骸にかぶりつく。
「ホントに不味いですね。」
ミハイも真っ赤な口元で苦笑した。
それからは狂ったように魔物を殺し、喰らった。王国管理下のダンジョンで無ければダンジョンコアを砕きたかったのだがそうも行かないので他の冒険者と同じようにボス部屋でボスであるオークを倒して再度現れてはまた倒しての繰り返しを続けた。
だいたいオークを一撃で倒せるようになったところで切り上げて帰ることにした、結果ミハイはレベルが18、俺が10まであがった。
体中血まみれで帰る姿は異様に人目を引いたとだけ言っておこう。
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