第8話


黒色の鳥はなかなかトリッキーな戦いをしていた、複数に見えていたそれはどうやら一匹からくるものらしく、原理は分からないが分身のような様を呈しており、カイトたちの攻撃が当たったように見えてもその分身が消えるのみでダメージは入っていないようだった。


対するカイトたちはカイトが前衛の近接、アーシャが後方で魔法支援、という複数パーティーならではの堅実な構成だった。


だがその堅実な攻撃も複雑な動きの黒鳥のまえではかなりの苦戦を強いられているようで、前衛のカイトは特に出血が酷い。


黒鳥は複数の分身に紛れて硬質化させた自身の羽を飛ばして攻撃している。それ自体の威力はそう高くはなさそうだが手数で圧倒するタイプの攻撃らしくカイトの身体には多くの羽が刺さっている。


黒鳥の軌道を読ませない飛行は見事なもので何度か空中でのフェイントもさることながら、こいつは一瞬気絶したかのように羽ばたくことを止め落ちるのだ、その場で急激に速度を落とし真下に落下した後地面すれすれで再浮上しまた攻撃を開始する。


身も蓋もないことを言えば単純なルーティーンをこなしているだけ、ということは遠くから見れば分かるのだが、いざ戦ってみるとなれば見破ることはたやすくは無いであろう。


黒鳥の戦いはある種の美しさがあった、俺はふと目を黒鳥に奪われていたことに気がつくとカイトたちの分析のため視点を移した。


カイトは大剣を両手に握り大ぶりの攻撃をしている、俺から言わせれば空を飛ぶ相手に対して大剣のしかも大ぶりな攻撃は愚の骨頂と言わざるを得ないが、その膂力はたいしたもので振るたびに風を切る音が鳴り響く、剣に身体を持っていかれてるわけでもなさそうなのでやはりそこそこ強いのであろう。


アーシャの方はカイトにひたすら回復魔法でもかけているのだろう、カイトの傷口が淡く光っている、すぐに傷口が治るわけではなさそうだが流血を留めているのは素直に賞賛に値する能力だな、と俺が関心しているとカイトの切っ先がついに黒鳥の羽を捉える。


黒鳥は左翼の先端を切り飛ばされ、錐もみしながら墜落していった。分身は消え、黒鳥は地に堕ち戦場を大地に移された、詰みである。


かなり善戦したとはいえ結局は初級ダンジョンの魔物である。階層がかなり深いこともあり、特殊なスキルを持っていたようだが、レベル4のカイトたちを相手取っては流石に勝てる道理が無い。


黒鳥は二本の足で立つと羽を広げて最後の抵抗をしている。羽先からは血が吹き出しているが構いもせずに羽を硬質化させている。魔物のくせになかなか良い根性と気高さを持っているようだ。


自分でも無意識の内に俺は気配を殺すことをやめ岩陰から身を乗り出していた。


「大丈夫か?」


俺が声をかけながら近くに行くとカイト達は一瞬驚きの表情を向けた後すぐに安心からきたものであろう侮蔑の表情に変わった。


「”大丈夫か“だと?腰抜けに心配される程弱くねーっつの。」


「どーせあんたの事だから私たちの後をつけて来たんでしょ?!じゃなきゃここまで来れるはず無いものね!使ってあげるからあんたの薬草置いてさっさとーー」


俺は二人を無視して間を割って通ると未だ威嚇している黒鳥の前に屈み込む、黒鳥は硬質化した羽を飛ばしてくるが軽く身を捻って躱す。


「大丈夫か?安心しろ取って喰おうって気はない、お前の闘い方は凄く綺麗で思わず見惚れるほどだったよ。」


俺は持ち歩いている袋から粉末状の薬草を出すと水と混ぜ負傷した左翼に塗る、その上から軽く薬草で包み取り敢えずの応急処置とする。


黒鳥も力量差を理解し諦めたのか若しくは俺に敵意が無いことを悟ったのか。暴れることなく処置を受けてくれた。


カイト達は何が起きているのかわからないといった風で呆然とただこちらを眺めていたが少し間が空いてこちらに向かってきた。


「おい腰抜け、お前自分で何したかわかってんだろうな?」


カイトは青筋をたてながらこちらを鬼の形相で睨んでくる、アーシャもこちらを睨みつけている。


「何って?別に”仲間“を助けただけだよ?」


おれが軽く笑いながらそう言うとカイトは思い切り大剣を振りかぶってきた、アーシャはカイトに回復と補助魔法をかけている。俺は足元からいくつか石を拾うと右手に握りしめ、左手に魔力を思い切り纏わせる。


「死ねェ!」


カイトの体重の乗った振り下ろしを魔力を纏わせた左手で掴む、ガンと岩を叩いたような音が響く、親指と人差し指の間が裂けてしまったがカイトの大剣を左手で掴むことに成功した。


「なっ?!」


黒鳥の羽の硬質化からヒントを得たぶっつけ本番の試みだったが割と上手くいったので自分を褒めたい気分だ。指に限定して魔力を纏えば傷を負うことなく掴めたかもなぁなんて考えたが今の俺の魔力操作ではそこまで細かい制御は出来ない。


「捕まえた。」


カイトは大剣を何度も引っ張るがビクともしない。


「まずは脇。」


俺は右手に掴んだ石をアーシャ目掛けて一つ投げる、大した大きさでは無いものの、凄まじいスピードの乗った石は吸い込まれるように脇腹を抉った。


アーシャは左手脇腹の肉を抉られその場に膝をつき吐血する。


「アーシャ!お前ェェェ!!!」


カイトのは逆転の発想に至ったのか大剣をこちらに押してきた、まあ動かないが。


「次は脚。」


膝をついたアーシャの左太腿ごと吹き飛ばす、ギャっと短い悲鳴をあげると獣のような呻き声を上げる。吐血した地面に顔を埋め血のあぶくが出来ているのはちょっと笑えた。


カイトはすでに言語化出来ない悲鳴を上げ、涙と鼻水で顔面をぐしゃぐしゃしながら縋るように大剣の柄を握っている。俺はその顔を見ながらニタニタと笑いながら宣告する。


「頭。」


その瞬間カイトはヒグッと間抜けな声を上げてぶっ倒れた、気絶でもしたのかと思ったがどうやら舌を噛んでそれが喉に詰まって死んだらしい。アーシャは時折ブルブルと痙攣していてが気持ち悪かったので首の骨を折って殺した。


放置しておいても良かったのだがダンジョンの魔物が綺麗に食べてくれるとも限らないので自分で食べる事にした。


「おい、お前も魔物なんだからどうせ喰うだろ?一緒に食べないか?」


俺はカイト達の服を脱がしながら黒鳥に喋りかける、言葉を理解しているのかどうかは定かでは無いがこちらにピョンピョンと跳ねて近寄ってくるとアーシャの目を嘴でくり抜いて持ってきてくれた。


「おっ!そこ持ってくるのは通だね、ありがたくいただくよ。」


黒鳥は俺の肩にとまるとクルクルと喉を鳴らしながら身体を擦り付けてくる、同じ釜の飯を食う仲といったところか?どうやら仲良くやっていけそうだ。


俺は久々に人間を喰ったがやはり美味い、一人と一匹で手分けてして食べたことで食べ残しなく綺麗に食べることができて大変満足である。のこった骨は適当に折って端に捨てておいた、魔物が喰うであろう。少し気になりステータスカードを見てみたが特にレベルに変化はなかった、やはり俺と互角かそれ以上と戦わないとレベルは上がりずらいのだろう。


しかしステータスカードに気になる項目が増えていた。スキルの欄にカリスマと踏破者以外に”眷属“というスキルが増えていた、詳しく見てみると魔物を自身の眷属に出来るスキルらしい、また自身の眷属とはいくつかのステータスを共有できる旨も書かれていた。てかスキルって詳細確認できたのかと若干驚きつつほかのスキルにも目を通す。


踏破者、ダンジョンを踏破しそのダンジョンを殺した者に与えられるスキル、身体能力の全体的な向上とレベルアップまでの必要経験値を若干減少させる。

カリスマ、他者に対して与える影響力と他者を惹きつける効果を若干増幅させる。支配者の卵。と相変わらず簡潔に書かれていた、俺のレベルの高さは踏破者のスキルの影響で、おそらく眷属のスキルはこのカリスマからきたものであろう。


何はともあれこの黒鳥が俺の眷属になってくれるようだ、スキルからこの黒鳥のステータスもみることができ、名前は無く種族は大鴉と言うらしい。体調は負傷、レベルは2でスキルは風魔法と幻影の二つがあった。


分身に見えた複数の大鴉はこの幻影のスキルだろう、それにしてもレベル2でレベル4二人にずいぶんの大立ち回りをしたものだ、俺はますますこの大鴉に興味がわいた、返り血のついた身体と嘴を拭ってやると気持ちよさそうに目を細める、かわいい奴だ。


ダンジョンを出るまで大鴉は俺の肩に乗っかってクルクルと喉を鳴らしながら俺の毛繕いをしてくれた。こいつの名前も考えてやらねばと思ったが、果たして俺にネーミングセンスがあるのか?これはなかなか難題で考えなければならないことがまた一つ増えてしまった。

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