第7話


ここのところクスリでの稼ぎが少ないことに俺は頭をガリガリ掻きながら頭を悩ませていた、少ないとはいえかなりの稼ぎがあり週に金貨十枚ほどの稼ぎがまだある。俺一人が生きていくには十分すぎる量だ。王国の騎士団は売人が殺された事件よりもクスリの出所を探すことに躍起になっているらしく数日すると殺人のことは嘘のように噂されなくなった。


スラム街の人間は義理人情という者が無いらしく雇ったさきから裏切るか密告を企むかの二択しかないらしく、素直に俺の言うことを聞いてくれる奴はなかなかいない。最近は自分でしか売ることしかできないのでリスクもあり以前ほどの稼ぎは期待できなくなっていた。


数週間前にアルスに信用できる人員が借りられるかどうか報告ついでに聞いてみたが、情報部は新設ゆえ人手が足りないらしい。唯一貸せるのは人化できない低脳の魔物くらいしかいないとの回答だった。アルスはいらないと言っていたが手間賃として数十枚の金貨を包んで渡しておいた。アラクネにも世話になったのでアルスに渡しておいてくれるよう頼んでおいた。実質上司のアルスに頼むのは若干気が引けたが、アルスが快諾してくれたので好意に甘えさせてもらった。


現状クスリで金を儲けなかればならない状況では無く、特に仕事も無いのでダンジョンにでも潜ろうと思い、準備を始める。この王国領にはダンジョンが複数あるがその多くが王国によって管理されている、ダンジョンコアといわれる心臓部を壊されることでダンジョンは死んでしまうためそうならないよう王国が管理していると言うわけだ。


最近はまともに魔物と戦っていなかったので自分に何の武器が合うのかといったものを考える機会がなく、適当にナイフしか持って歩かなかったのだがとりあえずショートソードと小さい盾は適当に買ったものを持っていくことにした。


ギルドに寄り、ミルダにダンジョン内で受けられるクエストを適当に見繕ってもらう。ミルダはいつもの薬草採取のクエスト用紙を手に持っていた。


「珍しいわねケイちゃんが薬草採取じゃなくてダンジョンに行くなんて?」


「最近物騒なんで武器でも買おうかと思ったんですが…恥ずかしながらお金が足りなくて…」


「あらそうなの…ちょっとしたものなら私が…」


「いえいえ、自分でやってこその冒険者ですので、気持ちだけ貰っておきます、ありがとうミルダさん。」


ずいぶん気に入られたもんだなぁと内心思いつつミルダの好意は素直に嬉しいものがあった。俺は依頼を受けるとギルドを出ようとカウンターに背を向ける。


「おいおい、ババアに愛想振りまきゃお小遣い貰えるってかお前?ダッセェ。」


後ろからかかった声の主に向き直る、15才くらいの見た目の歳は俺と余り変わらない男の子がこちらを睨み付けていた。隣には同世代くらいの女の子もおりこちらは嘲笑を浮かべている。


「女のしかもババアに金を工面して貰うなんてどう思うよアーシャ?」


男の子がアーシャと呼ばれた女の子に笑いながら問いかける。


「信じられないわよ、男のプライドってものがあんたにはないの?カイトを見習ったら?」


アーシャはこちらに蔑みの表情を向け、カイトと呼ばれた男の子は満足そうににやついている。


俺としてはミルダに感謝はあるが、金は受け取ってはいない。まぁその過程を見て言ったならああそうですかくらいしか思わない、別にこれくらいで頭にくるほど幼稚ではないし、構うほど暇でもない。俺はギルドから出ようと扉に手をかけるがまだ見逃してもらえないようで声がかかる。


「おい逃げるのか?とことん腰抜けだなおまえ。」


「アハハ!ホントに情けないわね、カイトはクスリの売人を何人も捕まえてるのよ、あんたカイトに弟子入りでもすれば?」


クスリの売人、その言葉が引っかかった。俺はカイトたちに向き直る。


「へぇ…クスリの売人を何人もですか?」


「ええそうよ、カイトはレベル4なんだからあんたなんかよりずっと強いわよ。」


アーシャはまるで自分のことのように誇らしげに言う。アルスやアラクネなどの魔王軍の奴らが規格外なだけで俺自身もレベルは16なので低くはない。それどころか俺の見た目は14か15才くらいなので同年代と比べれば俺も規格外な強さではある。俺の同年代ではおおよそ3か4のレベルが適正である。レベル5もあればそれなりのクエストに対応でき、レベルが10もあれば一人前であることを考えればカイトと呼ばれた男の子は年の割にまぁ強い部類に入る、倍以上のレベルがある俺はかなり強いはずなのだが、アルスのあの威圧感を感じてしまった以上、レベル16如きで粋がることは俺には難しい。


「まぁ雑草毟ってるお前には一生かかっても無理だろ。」


「そうですね…クスリの売人を捕まえることは…俺にはできないですね。」


カイトは鼻で笑いながら席を立つとアーシャとギルドを出て行く。出て行く途中俺にわざと肩をぶつけながら。


「ダンジョンであったら邪魔すんなよ腰抜け。」


カイトはアーシャとともに高らかに笑いながらギルドを出て行った。


俺は肩をぶつけられたので一応転んでおく、できるだけ鈍くさそうに尻餅をつくと笑い声は一層大きくなった。ミルダは受付カウンターから出てくると俺の手を取って起き上がらせてくれる。


「ごめんなさいね、私のせいで…」


ミルダは申し訳なさそうに顔を下げている。


「そんなことないですよ、本当にありがとうミルダさん。」


俺は軽くズボンを叩いて埃を落とすとミルダさんに微笑む。


「そう…?それとこのダンジョンのクエスト彼らと同じ場所だけど大丈夫?嫌なら別のクエストも斡旋できるけど?」


「俺は彼ほど深い層に潜れないでしょうから、会うこともないでしょうし…大丈夫ですよ。それじゃミルダさん。」


俺はミルダさんに軽く手を振るとギルドを後にした。


歩いて一時間しないほどの郊外にダンジョンはあり、冒険者からは初心者向けのダンジョンという位置づけになってはいるものの階層は多く最下層近くは中級ほどの実力が求められるらしい。


ミルダから受け取ったクエストの詳細な内容の書かれた紙にはゴブリンの討伐と書かれており、特に数は指定されていなかったので浅い階層でサクッと殺してゴブリンの腹をかっさばいて中から魔石といわれる魔力の結晶のようなものを取り出す、これが討伐クエストでの証明となる。


「それにしても、よく俺はこれを喰ってたな…」


俺はゴブリンの死骸を見ながらつぶやく、とてもじゃないが今はゴブリンなんて喰えない、おそらくだがこれはレベルに起因するものだろうとアルスが言っていた。当時の俺はレベルが低いため自身よりも高いレベルのゴブリンに対して食指が動いたのだろう。今の俺はレベルが16あるためそれと同等かそれ以上で無ければ食べようとは思えないのだろう。


ギルドの依頼は一応終わったのだが、これでは来るのにかかった時間の方が長いのでもう少し下の階層に行くことにした。十層を越えたあたりからなかなか歯ごたえのある敵が出だした、歯ごたえがあるとはいっても浅い層の魔物との相対的な話であって石をぶん投げるか、殴るか蹴るかすれば一瞬で壁のシミになってしまうので相手にならないというのが正直な感想だ。


殺した魔物のなかで魔石のとれるものは取っておく、原型を留めることのできなかった魔物は魔石が砕けてしまっているものが多く、殺し方も色々考えなくてはと思った。


このダンジョンは俺が目を覚ましたダンジョンよりも難易度が低いらしい、どの敵も抵抗らしい抵抗なく死んでいく。


最近俺は自身の運の良さということについてよく考える。自我が目覚めたのも理由は分からないがとても運が良い、オーガに勝利しダンジョンを踏破、その後魔王軍に入ったことも運が良い、暇つぶしに薬草採取の片手間で覚えた調合術の過程で麻薬が作れたこともかなり運が良いといえるだろう。おかげで金に苦労はしていない。


ダンジョンを奥へと進んでいくと戦闘音が聞こえてくる、俺は気配を殺し遠巻きに戦闘を眺めようと歩を進める。


やはり俺は運が良い、そういう星の下生まれたのかもしれない。


カイトとアーシャが複数の黒色の鳥を相手取って戦っていた、俺は口角が醜く上がることを押さえられなかった。

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