第6話


ここは人間の王国領昼下がりの午後、肩掛けのぼろい麻袋いっぱいに詰まった薬草を担ぎながら俺は冒険者ギルドに向かっていた。木製の年季の入った扉を押し開け中に入るとカウンター裏の受付嬢が挨拶してくる。


「あらケイちゃん今日も薬草採取の依頼?相変わらず真面目だねぇ?」


「えぇ、ミルダさん、最近薬草の多く自生してる場所を見つけたんですよ。」


俺はいつものように受付嬢のミルダに微笑みながら言葉を返す、ミルダはここの受付嬢をしている40ほどのおばさんで俺に結構良くしてくれる人だ。


「もうここで冒険者になってふた月は経つんじゃないの?ケイちゃんぐらいの年の子だったら魔物退治の依頼を受けたくてしょうがない時期だろうに。」


「俺はその同世代ほど強くないので…コツコツこういった収集系の依頼をこなさないと食べていけないので…」


俺は軽く悲壮感を浮かべると、ミルダは申し訳なさそうな表情をし話題を変える。


「はいこれ報酬ね、余った薬草は換金?持って帰る?」


「擦り傷も結構あるんで…持って帰ります。それじゃありがとうミルダさん。」


ミルダから銅貨数枚を受け取ると俺はギルドを後にする。



家に帰り、まぁ家と言っても六畳一間のボロ小屋なのだが、コーヒーをいれ煙草に火を付け椅子に腰掛ける。煙草を咥えながらペンを取り出しアルスへの報告書を書く、ここ二ヶ月俺は仕事で王国領に冒険者として潜り込んでいる、仕事といっても王国領での変わったこととおれの安否確認の報告を月に二度しているくらいなのでたいした仕事ではない。


「特に異常なしっと…」


俺は報告書を書き上げるとアルスに言われた通りに灰皿の上で燃やす、こうするとどういう魔法かは知らないがアルスの元にこの報告書が届くらしい。


仕事を終えたら次は小遣い稼ぎの時間だ、床に爪をかけて地下階段への入り口を開けると、階段を下る。地下は二畳もない狭い部屋で天井も低い、個人的には余り好きではないが仕方ないと言い聞かせる。


先ほど持ち帰ってきた薬草を紐ににつるして乾燥させる、以前つるしてあった薬草を採り粉状にすり潰して、もう一つの粉と混ぜ合わせる。このもう一つの粉は状態異常を引き起こすタイプの魔物からとれる催眠と混乱作用のある粉である。薬草は傷口の化膿を止める効果のほかに脳に作用して痛みを抑える効果がある、これをこの催眠効果のある粉と併用すると簡易的な麻薬ができあがる、それも強烈な依存性のあるものだ。


この粉を小さな袋に小分けして王国城下の裏道などで販売しているのだが、真面目にギルドの依頼をこなすのが馬鹿馬鹿しくなるほどの額が稼げる。最初こそ自分で手売りしていたのだが金銭的に余裕のできた今は適当に人を雇って売らせている。


粉の補充と金の受け取りのために城下に向かう、痩せぎすの男と裏路地で落ち合う。


「補充の粉と約束の金だ、受け取れくそガキ。」


男は袋に入った金を投げて渡す。


「…粉は全部売りさばいたんだろう?実入りが少ないように感じるんだけど?気のせい?」


「ごちゃごちゃうるせーガキだな、仲介料って知らねえのか?」


俺は袋の金貨を数えるがいつもより数が少ない。男は馬鹿にしたように笑う。


「はぁ…最初に約束した以上にあんたに金を払うつもりは無い。」


俺は呆れてため息しかでない、やはり信頼できる仲間が必要だと考えさせられる。


「ガキのくせに言うじゃねーか、おまえのボスに言っとけ俺はあんな額で仕事はしないってな、嫌ならそれでいいんだぜ?俺がおまえらのことを密告してやるよ。」


男は俺が子供なのを良いことに舐めきっている。怒りを通り越して呆れとめんどくささしか無い。


「わかったよ、これ追加分の粉だ。」


「最初からそうすれば良いんだ、勉強になったなくそガキ。」


俺は粉の入った小袋を男に渡そうと手を伸ばす。


「そうだ、勉強ついでに俺からも一つ教えてやろう。」


「あ゛ぁ?!」


俺はポケットからナイフを取り出すと男の顎に下から突き刺す。


「おまえの言うボスってのは俺だ。」


ナイフを引き抜くと血が勢いよく噴き出す、男に叫ばれても面倒なので口元を押さえる、続けざまに胸に突き刺し思い切り捻る。くぐもった悲鳴とともに口元から泡だった血が吹き出る。


「勉強になったな。」


ナイフを引き抜き倒れた男から所持金を奪う、男の服で返り血を拭くと裏路地を後にした。


翌日、いつも通りギルドにいって薬草採取の依頼を受けに行くとギルドがざわついていた、俺はミルダに依頼を受けに行く。


「いつもの薬草採取の依頼を受けたいんですが…この騒ぎは何ですか?」


「殺しよ、スラムの裏路地で男が殺されてたんですって。」


「へぇ…物騒ですね…」


「そうねぇ、それにこの事件最近流行ってるクスリ絡みらしくてね、このギルドにも騎士団が来たのよ。それでいろいろ聞いて回ったおかげでこの騒ぎって訳よ。」


ミルダは騒ぎの起きている冒険者たちを見ながらそう言うと、依頼の処理を済ませてくれる。


「ケイちゃんも気を付けてね…最近物騒だから。」 


「えぇ、そうですね俺も気をつけないと…」


俺はミルダに軽く頭を下げるとギルドを後にした。

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