第2話


「今日は運に恵まれたな…」


先程の出来事を頭の中で振り返りながら呟く、人間の腕の肘から先を片手に貪りながらもう一方の手で死体の足を持って引きずりながら俺は洞窟の奥へと進んでいる。


食べ歩きのような形で歩みを進めているのだが退屈は凌げるし、腹は膨れるしとなかなか悪くない、強いて言うなら匂いに釣られる獣がいることが唯一の問題か、食べ終わったら次の部位を捥いで食べ歩きを再開する、モツは食べ歩きにはそぐわないので腰を据えて頂く事にしている。


思わぬ発見に対し朝食になった二人に感謝しなくては。


仲の良さそうな若い男女の組み合わせであったが獣に襲われなんとか撃退し疲労困憊しているところで洞窟を進む俺と鉢合わせた形になった。


最初は人間に勘違いされて助力を請われたが、そうで無いと分かると非常に味わい深い表情になったのが印象的だった。


人間に勘違いされた事が少し嬉しかったのは秘密だ。


男の方は女を逃し俺の前に立ちはだかった、かかってこい的な言葉を吐き、己を奮い立たせ正に勇者此処に在りといった感じで、女は顔をくしゃくしゃにし泣きながら走って逃げて行った、恋仲なのかなという雰囲気を俺は感じた。


まあ腹も減っていたので服の中から手持ちのナイフの刃部分を持ち手首のスナップを利かせ女にぶん投げるとコッっと軽快な音を立て女の後頭部に突き刺さり女はその勢いのまますっ転び絶命した。


ちなみにこのときうつ伏せに思いっきりコケたせいで鼻が折れていた。


男はまさか自身を無視して女を攻撃すると思っていなかったのか、数秒の困惑、硬直、があり、その後後ろを振り向き悲痛な叫びを上げた。


せっかく俺から視線を外して貰ったので攻撃しない訳にもいかず、一気に距離を詰めると両手を背中に回し抱え込むように引き込みながら膝を腹に入れる、不意をつかれまともに防御態勢を取れない男は胃の内容物を四つん這いになり吐き出した。丁度頭を下げてくれたので上から思い切り首元目掛けて踏み付けて脊髄の折れる音が聞こえて終了、今に至る。


人間を食べたのは今日が初めてだったのだが今まで食べたなかでダントツに美味い、食べれば食べるほどより空腹感が増すような美味さがある、実際食べることで俺の力が増し、人間に近づいているという感覚があったが、今日で完全に確信に変わった、食べる前と後では圧倒的に全ての能力が段違いである。


仄暗い洞窟で虫ですら見える、今まで聞こえなかった音が聞こえるようになっている、全身に力がみなぎっている。


道中出会う獣も以前よりも強く、賢くなってはいるもののそれ以上に俺の力が上回っているようで特に困る事は無かった。


道すがらいくつか宝箱などもあり、いくつかの武器と最低限の衣服などは揃った、特にネックだったのが靴だったのだが先刻の男のブーツが丁度だったので頂戴した。


以前より発達した感覚器が若干風の流れを捉えられるようになり、鼻も効くようになったおかげか洞窟の探査はとても効率化していった。


どうやらこの洞窟は何層かになっているようで、その層の突き当たりには階段でより下の層へと進む事が出来るようだ、次の層への階段は大抵その層の一番奥の突き当たりにある事が多くそうでなければそこには宝箱があるといった感じの構造が多くあった。


大体20層を超えた辺りで数え間違いがあったかもしれないと疑心暗鬼にかられ、そも俺が目覚めた場所が1層だとは限らないのでは、と思い至り数えることをやめた。


ここまで来るとかなり層を降りてきたこともあり、出てくる敵もなかなか歯ごたえがある、深傷を負う事は無いがヒヤリとさせられる事が多くなってきた。


特に飛行型の敵が非常に面倒くさい、姿はふつうの鳥を少し大型にしたような感じで手痛い一撃を持つわけでは無いがヒットアンドアウェイで捉えにくさがある嫌らしい敵だ、おまけに喰える部分が少ない事が余計に苛立ちを加速させる。


四つ足の犬のような敵との嫌に息のあった連携に苛立ちが限界に達する。


「クソッ」


悪態をつきながら足元の砂利を握りしめ鳥に向けぶん投げる、目くらましにでもなればと咄嗟の思い付きでの行動だったが俺の予想からは大きく外れ、砂利のいくつかが鳥を貫通しゲッと汚い声を上げ羽を散らしながら墜落した。


俺自身でやったことながらあまりの威力とその実用性に驚嘆してしまった。これ割と使えるなと思い、もう一度砂利を拾い四つ足に投げつけると同じように貫通し絶命させる事に成功した。


上手く当たりすぎたようで肉がグズグズのミンチになってしまっていたので食べるのは遠慮した。


俺は新たに会得したこの戦法で先へと進んでいく。


他層と同じように階段を見つけたのでそのまま下っていくとそれまでの景色とは違い先に洞窟は広がっておらず、ただ一枚の大扉があった。


どうやらこの洞窟もこの先で終わりのようだ、理由としては、風の流れがこの先で途切れている事が一つ、もう一つはこの先でこれまでで一番血の匂いが濃いことが一つ、即ちこの大扉の先には今までの敵より強い奴がいると言う事だ。


俺は少し考えはしたが好奇心もあり大扉に手を当て力を込めるのだった。

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