第5話 魔物のお世話係も兼任するようです。
広大な王宮は、小さな町が丸ごと入っていると言ってもいい。
建国以来、千八百年以上内乱が発生していない平和なこの国は城塞を必要とはしていなかった。王宮の周囲に壁と堀、魔術師と精霊による結界魔法のみで護られている。
王宮の中央、王族と役職を持つ貴族が住む
マルティナはリディアに備品室へと案内されていく。護衛として〝漆黒の騎士〟ルードヴィグがついているのは日常的によく見られる光景で、〝離宮の魔女〟が手を繋ぐ少年姿のマルティナを通りすがりの誰もが興味を持って見ていた。
「ここが備品室」
訪れた部屋には、備品受け取りの順番を待つ使用人が並んでいた。
受付台の奥の広い部屋に天井まで届く大きな棚が並んでおり、備品室担当者たちが棚の間を忙ぎ足で歩きながらワゴンに乗せた籠に品物を入れていく。使用人たちは籠に入れられた品を受付台で受け取る。
日々消耗する品は、この部屋から供給される。
ペンや紙、石けんやタオル、日常の細々とした品が用意されていて、使用人に支給される数には上限があるが、貴族や騎士には上限はない。
「口頭でお願いすることもできるけれど、用紙に記入して前日に渡しておけば、待ち時間も少なくて済むわ」
そう言ってリディアが示した棚には、番号札が下げられた籠が置いてある。
この国の教育制度は整えられている最中で、王宮使用人の半数以上は読み書きができない。非効率ではあるが、口頭での依頼が中心になっている。マルティナは読み書きができるので、用紙を数枚もらっておくことにした。
「急ぎの時は、あの受付台ね」
リディアが説明している横で、急ぎ足でやってきた従僕が木の札を見せてタオル十枚を頼み、すぐに受け取ってサインをして戻っていった。
「あの木の札は、騎士や貴族の部屋に置いてあるの。急ぎで頼まれたら札を持って、この受付台で頼んで受け取るの」
マルティナには何もかもが新鮮に見えた。きょろきょろと見回しては何度も転びかけ、ルードヴィグに襟を掴まれて助けられる。
「今日の俺はお前のじゃなくて、このちっさいのの転倒防止役か」
「あら、たまには人の役に立つのもいいものよ?」
はぁあとわざとらしい溜息を吐き、リディアが首を傾げて返す。
「……ありがとうございます……」
気安い会話で笑う二人の間で、マルティナはルードヴィグにぶら下げられたまま、顔を赤くしてお礼を告げた。
■
宿舎に戻ってサロンで朝のお茶を準備していると、少し遅めの朝食を騎士の食堂で取ってきたトーティルとモーリッツが戻って来た。リディアが二人の顔色を見て、今日は朝の紅茶でいいとマルティナに囁いた。マルティナが紅茶を淹れている間、リディアがルードヴィグと席を外した。
「おはようございます! お帰りなさい」
サロンに入って来た紅い髪の茶色の目の少年、ロニーに向かってマルティナは挨拶をした。
「あー、おはよー。俺は食堂へ行ってないぞ」
「ええっ? 食べないとダメですよ?!」
マルティナはロニーの返事に驚いて叫んだ。朝食は大事なものだ。食べないと一日元気に動けないとずっと母に言われていた。実際、朝食を食べない日は、何をするにしても億劫になっていた。
「お前、あの朝のスープ食ってみろよ。絶対一日で嫌になるから」
ロニーがうんざりとした顔で返す。騎士の食堂の朝食は貴族と同じスープが出される。非常に栄養価の高いスープではあるが、一般国民だったロニーには不味いとしか思えない。
テーブルに置かれた籠からロニーが油紙の包みを取って開いた。丸いパンの間に、野菜や肉が挟まれている。最近町でも流行っている「魔女のハンバーガー」だとマルティナは気が付いた。
これはロニーが朝食を抜いていることを知ったリディアがハンバーガーやサンドイッチを作って朝のお茶に添えていた。
ロニーの肩には、しっぽのない黒いネズミのような動物が乗っている。艶やかな黒い毛並み。丸くてふわふわとした姿は、マルティナがこれまで見たことのあるネズミとは異なっていた。
『オ前、チビ』
「?」
マルティナは突然聞こえた子供の声にあたりを見回した。トーティルもモーリッツも静かに紅茶を飲んでいるし、ロニーはハンバーガーにかぶりついている。他には誰もいない。
黒いネズミもどきが二本の足で立ち上がって入り口の方を向いた。
「どうした?」
ロニーが肩に乗った動物、ヴィトに問いかける。入り口に現れたのはリディアとルードヴィグだった。
「げ!」
ロニーが抑えようとする手をすり抜けて、ヴィトがリディアへと跳躍する。
「あら、ヴィト。お久しぶり」
リディアが胸に飛び込んできたヴィトを受け止めて笑いかけ、ヴィトがリディアの胸に擦り寄る。リディアは元の世界のハムスターに似た黒い魔物を優しく撫でた。
「ああああああ!
ロニーが絶叫しながら立ち上がった。ロニーはリディアが苦手だった。死んだ母親に全く似ていないのにどこか母親のように感じてしまい、「母さん」と呼び間違えたことがある。思い出す度に頭を抱えてしまう恥ずかしい記憶がどうしても拭えない。
さらには育てた魔物が一度リディアの魔力の味を覚えるとすぐにリディアに懐いてしまって、言う事を聞かなくなる。最初に会った際に女たちが嫌う魔物をけしかけたのに、リディアは楽し気に魔物と戯れていて、完全な敗北を味わった。あの手この手で嫌がらせをしても、結局は負けてしまっていた。
「え? ああ、引き継ぎがあるでしょ?」
リディアが首を傾げた。この魔女には悪気がないから性質が悪い。
「ヴィト! 戻って来い!」
ロニーが呼びかけるが、ヴィトは頭を横に振ってリディアの胸に顔を埋めた。
「一年育てた俺より、でかい乳の方がいいっていうのかー!」
ロニーの絶叫に、リディアの胸から顔を上げたヴィトが首を縦に振る。
リディアの隣に立っていたルードヴィグが、ヴィトを剥がして側にいたマルティナに手渡した。マルティナの片手にぎりぎり乗る大きさで軽く、マルティナはヴィトが魔物とは思えない。初めて触れるふわふわと柔らかな生き物に頬が緩む。
二本の足でマルティナの手のひらに立ったヴィトが探るように鼻を動かす。
「うわー。か……」
その様子が可愛いと言いかけたマルティナはヴィトの異変に気が付いた。丸くつぶらな赤い瞳が半眼になり、顔を逸らしてふぅと口を尖らせて溜息を吐く。
「……何? 何が言いたいの? はっきり言って!」
マルティナもつられて半眼になる。驚愕するロニー以外の周囲の者達は、魔物にも動じないマルティナを興味深く見守っていた。
『胸ナシ。価値ナシ。美味シクナイ』
ヴィトがマルティナを指さして断言した。丸々としたネズミもどきに言われたくない。
「はぁ? 何なのお前!? 誰が美味しくないって?」
マルティナは、頭にきて普段の言葉づかいで叫んだが、本人は気が付いていない。その場にいた他の人間は別の事に驚いていた。
「ルティ? もしかして、ヴィトの言うことがわかるの?」
「え? ヴィトって、普通に喋ってますよね?」
笑うリディアの問いを聞き、マルティナが目を瞬かせた。
「いや、聞こえないぞ」
菓子を摘まんでいたモーリッツが言い、笑顔のトーティルも同意するように頷く。マルティナはヴィトの顔を見た。
衝撃に沈むロニーは完全にテーブルに突っ伏して動かない。ロニーが育てた魔物と意思疎通ができるまで、三年程の時間が必要だった。ヴィトはまだ育てて一年。声を聞いたこともなかった。
「ぬああああ! 負けるか! 俺だってやる気を出せばっ! おい! ヴィト! 飯! 飯やるから!」
再び立ち上がったロニーはポケットから赤色に輝く小石を出して示した。小石はロニーの魔力を固めたものだ。ロニーは自身の魔力を食べさせて魔物を育てている。
『ロニー、ゴ飯、美味シクナイ。リディア、オ菓子、美味シイ』
ヴィトがマルティナに向かってそう言うと、肩をすくめた。
「でも、ご飯食べないと大きくなれないよ?」
『大キクナレナイ?』
ヴィトが丸い目をさらに見開いた。
「そうだよ。お菓子よりもご飯をたくさん食べないと大きくなれないんだよ」
『オ前チビ。胸ナイ。ゴ飯食ベテナイ?』
ヴィトの憐れみの視線はマルティナの胸に向かっていた。
「これから大きくなるの!」
マルティナは叫んだ。これから、きっと大きくなる。リディアの胸の半分……の半分くらいにはなりたい。
ヴィトの言葉はわからないがマルティナの言葉から推測するやり取りに、ロニー以外の周囲の者たちは笑いを堪えるのに必死だった。
マルティナとヴィトのにらみ合いが続く中、玄関の扉が叩かれる音がした。
「あら。珍しいわね。誰かしら」
「僕、行ってきます!」
マルティナが答えると、ヴィトが頭の上に飛び乗った。
「あれ? ヴィト? 落ちないでよ!」
薄紅色の頭の上に黒い魔物を乗せて、マルティナは急ぎ足で玄関へと向かった。
■
マルティナが出て行ったサロンでは、トーティルとモーリッツが声を上げて笑っていた。表情豊かな少女と魔物とのやり取りは見ているだけでも面白い。
ルードヴィグはテーブルに突っ伏して動かないロニーに話し掛けた。
「ロニー、あの魔物をルティに貸してやってくれないか」
「は? 何言ってんの? ヴィトの貸し借りなんて出来る訳ねーじゃん!」
テーブルから顔を上げ、ロニーは抗議の声を上げる。ヴィトは卵から育てた。よく懐いていた筈だった。
「ヴィトがルティと一緒にいると、何があるの?」
「神力を持つ者には、普通、魔物は寄りつかない」
リディアの問いにルードヴィグが答えた。
「あれ? ルティって神力持ちなんだ」
笑っていたトーティルが目を瞬かせた。トーティルとモーリッツの感覚では、マルティナは感知できない程度の魔力持ちと思っていた。
「ロニー、ヴィトが飽きるまで、ルティと一緒にいさせて?」
「は? お前まで何言ってんの?」
「カツ丼とカツカレー、どっちがいい?」
リディアがにっこりと微笑む。カツ丼もカツカレーも、ロニーの大好物だ。
「両方に決まってんだろ!?」
反射的にロニーが叫ぶ。魔法騎士とはいえ、まだ十八歳。食欲に負けた。
「決まりね?」
にっこりと笑うリディアに、ロニーは今日も勝てなかったと項垂れた。
■
「お待たせ致しました。ご用件……え?」
玄関の扉を開けたマルティナは目を丸くした。
目の前に立っていたのは、短い金髪、青い目。第四騎士隊の誰よりも背が高くて筋肉質の男性だった。
生成のシャツに黒いズボンという服装で、その身長と変わらない長さの歪な碧色の抜き身の剣を背負っている。マルティナの記憶が正しければ、この国の第二王子オスヴァルドだ。
「お、王子様……?」
「ああ。王子も様も必要ない。オスヴァルドでいいぞ、少年」
オスヴァルドが口の端を上げてにやりと笑う。頭の上のヴィトが飛び上がって、マルティナの背中に移動して隠れた。マルティナは気さくなオスヴァルドの態度で硬直する。
「今、リディアが来てるだろう?」
「は、はい!どうぞ!」
マルティナは、右手と右足が同時に出ていることも気づかず王子を案内した。
■
「あら、オスヴァルド、どうしたの?」
リディアが目を瞬かせた。王子が騎士隊宿舎に訪れることは珍しい。普段は左手の指輪に偽装している魔法剣・ヴォルディルガを抜き身で背負っている時には、誰かと
「体が鈍りそうなんで、ルードヴィグに手合わせしてもらおうと思ってな」
オスヴァルドが歯を見せて獰猛な笑みを浮かべる。ルードヴィグ独りの時に挑んでも断られるが、リディアの前では絶対に断らないことはわかっている。
「他に受ける者はいないのか?」
ルードヴィグが溜息を吐いた。休日の残り時間を全て潰されることを覚悟するしかない。
「〝黄金の騎士〟と〝白銀の騎士〟は元老院の会議に召喚中だ。久々にヴォルディルガで戦いたい」
オスヴァルドがその背の剣を親指で指し示す。第二王子が命がけで契約した魔法剣は、聖も魔もこの世に存在するもの全てを切り裂く剣として世界に知られている。
「……わかった。晦冥!」
ルードヴィグが契約している魔法剣・晦冥を呼ぶと、一瞬でその赤黒い剣がその手に現れた。
『ほう。またぬしと手合わせできるのか。嬉しやのう』
晦冥が楽し気な声を上げた。マルティナは目の前で剣が突然現れた魔法に目を瞠る。
オスヴァルドがリディアとマルティナに向かって上機嫌な笑顔を見せる。
「リディア、少年、見学にくるか?」
「こいつを危ない場所に呼ぶのは困る。思い切りやりたいのだろう?」
ルードヴィグが冷たく言い放った。
「相変わらず過保護だな」
オスヴァルドが肩をすくめる。絶大な魔力を持つリディアに訓練場に魔法で結界を張ってもらおうと思うが、いつもルードヴィグに反対される。ならば誰に結界を依頼するかと考えた時、トーティルが声を上げた。
「僕が見に行っていいかな? 結界が必要でしょ?」
この二人の戦いは、魔法を交えて行われる。下手な結界では周囲に被害が及ぶが〝音律の死神〟と裏で呼ばれるトーティルなら、十分な結界が張れるだろう。
「ああ。是非。お前らはどうだ?」
「怪我は困るんですよ、王子さん」
オスヴァルドが他の隊員にも誘いをかけるが、うんざりとした顔でモーリッツが答えた。見学だけと言われてついて行くと、結局は引きずり込まれることを知っている。骨折で済めば良い方だ。
「無理です。無理」
顔を青くしたロニーが首を横に振った。この王子のでたらめな強さは何度も体で知っている。
オスヴァルド王子と剣でまともに手合わせできるのは、〝黄金の騎士〟ディック・ヘドルンドと〝漆黒の騎士〟ルードヴィグ・アッペルクヴィストだけだ。
「じゃあ、行ってくるねー」
楽し気な笑顔で手を振るトーティルと、はぁあとわざとらしい溜息を吐くルードヴィグをマルティナはリディアと共に見送った。
■
リディアと一緒に食器を洗っている途中にマルティナは思い出した。
「ああっ! お、王子様に礼をするのを忘れてましたっ!」
マルティナは今更ながらに慌てた。使用人には、王族と貴族に対する正式な礼がある。
「本当はよくないんだけれど、私といるときは無しでいいのよ。めんどうだから」
リディアが苦笑した。あの大層な形式ばった礼は時間を取るだけで無駄だと思う。会釈だけで十分と思ってはいるのだが、元老院が納得しない。
「そうそう。あとで侍従長に挨拶に行かなきゃいけないの。ルティは私の直接雇用になるけれど、私がいない時には侍従長の直属にしてもらったわ。私がいるときは私に、いないときはモーリッツかルード、隊員が誰もいないときは侍従長の指示を優先して聞いてね」
リディアの話を聞きながら、マルティナは一緒に皿を拭く。ヴィトはマルティナの頭の上に丸くなって座っていた。マルティナはヴィトをロニーに返そうとしたが、ロニーが受け取ろうとしなかった。「ヴィトが飽きるまで貸してやる」と言われても、仕事をしながら魔物の世話ができるかどうか不安だった。
「……絶対、面倒だから押し付けたんだ……私と二歳しか違わないくせに偉そうだし……」
リディアが席を外した時、マルティナは壁に向かって毒づく。ロニーが聞いたら憤死しそうな内容だ。
『オレ、オ前、面倒見ル』
「……逆でしょ。私がヴィトの面倒見るの」
肩でふんぞり返るヴィトの姿に、マルティナは半眼で突っ込みを入れた。
■
マルティナはリディアと共に使用人食堂で昼食を終え、王宮の侍従長室へと向かった。
「初めまして。侍従長のグレーゲルです」
侍従長グレーゲルが微笑んだ。三十代後半の背の高い男性だった。銀灰色の髪をオールバックにして、銀色の眼鏡を掛けている。濃い紺色の裾が長い上着に白いシャツにタイ、黒いズボン。まるで救護院に来ていた教師のようだとマルティナは思った。
「初めまして。ルティです。よろしくお願いします」
マルティナは緊張しながら挨拶を返した。
「……リディア?」
マルティナの足元から頭までを観察したグレーゲルが、苦笑しながらリディアの顔を見た。
「ごめんなさい」
リディアは眉を下げてグレーゲルに謝罪した。グレーゲルはマルティナが少女であることに気が付いた。確かに少年に見えるが、何万人という人間を面接してきたグレーゲルの目には明らかだった。
「……まぁ、いいでしょう。リディアの目に適ったのなら信じます。リディア個人の直接雇用ということですから、王宮使用人の規定は適用されません。ただ、王宮の中にいる以上は規定を一通り理解してもらわなくては……!?」
グレーゲルが目を瞠った。日頃の彼を知っている者がいれば、彼が驚きの表情を浮かべたことに驚くだろう。視線の先、マルティナのベストのポケットからヴィトが顔を出していた。
「え? あ! ヴィト! 出てきちゃダメ!」
マルティナがポケットに押し込もうとした手をかいくぐって、ヴィトが頭の上に乗る。
「その魔物は? 王宮の結界に反応しないということは登録済なのですか?」
グレーゲルは魔物が大の苦手だった。胸ポケットや引き出し、あちこちに常備してある魔物退散の護符を叩きつけたいとは思ったが、リディアの前で醜態は見せたくはない。
「第四騎士隊の〝
リディアが微笑む。
「そうですね」
日頃から培っている鋼の自制心を最大限発揮しながらグレーゲルは微笑み返す。背中に冷や汗が流れていることは知られたくない。本当は気絶一歩手前だ。
常々リディアは魔物を可愛いと言って愛でている。さすがに撫でることはできないが、理解のある男と思われたかった。
「常に行動を共にするなら、ルティは〝魔物憑き〟の登録が必要ですね」
グレーゲルは従僕に書類を用意するように指示をした。魔物や魔性、精霊と契約を結んでいる者は、警備上の理由から登録と誓約が欠かせない。
「ま、魔物憑きって何ですか?」
マルティナは黙っているつもりだったが、つい聞いてしまった。
「魔物と契約している者のことです。普段魔物は姿を隠していることが多いのですが、人前でも堂々と姿をさらしている魔物は珍しいですね」
グレーゲルが微笑みながら答える。マルティナの頭の上に鎮座している魔物の姿を目に入れないように必死であることは絶対に知られたくない。
「え? 契約はしていません」
マルティナは異議を唱えた。単に預かっているだけだ。魔物に憑かれているなんて、人聞きが悪い。
「ルティの言う通りなの。契約はしていないのよ。一緒にいるだけでも登録は必要?」
「契約もしていないのに人と魔物が一緒にいるというのは珍しい話ですね。ですが王宮内では登録は必要です。連絡を入れておきますので、この書類を持って魔術塔で登録を行って下さい」
リディアが持ってくる案件は変則的な物が多いが面白い。何にせよ、リディアとの話題が増えることにグレーゲルは密かに喜んでいた。
「仕方ないわ。これから魔術塔へ行きましょう」
苦笑するリディアに、マルティナは頷いた。
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