デート
デート場所のショッピングモールは光彩中学のそばに最近できたものだ。話題のブランドショップなどがテナントとして入っており休日は人でごった返す。ドーナツ型の巨大な施設で、映画館やアミューズメントパークなども併設されているので、一日中楽しめる場所として人気のスポットである。
そんなショッピングモールの入り口前に着くと、すでに大河が待っていた。美姫はその姿を見つけると小走りで駆け寄る。
「ごめん、待たせちゃった?」
「いや全然。おれもいま来たところ」
大河は気にしてないといった感じで首をすくめてみせた。
黒のパーカーに迷彩柄のカーゴパンツ。髪を金色に染めていることもあって、私服姿の大河はどことなくチーマーのような雰囲気だ。そのせいか周囲の人達からも、時折白い目で見られているような気がする。
しかし、そんな外見とは裏腹に大河はいじめを見て見ぬ振りしない心優しい人である。その事実は自分だけが知っている秘密のような気がして、美姫はなんだかうれしくなっていた。
「じゃあ臼井さん、今日はよろしくな」
「うん、こちらこそ」
「いやー、しかし、こんなでかい施設が近くにあるなんていいよな。これは転校してきて大正解だったかも」
「そういえば大河くんって、前はどこに住んでいたの?」
何気なく訊いた質問だった。しかし、大河は眉間にしわを寄せ「あ?」と不快そうな表情をみせていた。
「ご、ごめん、わたしなんか変なこと訊いちゃった?」
「あ、いや悪い。おれの方こそ変な態度とってごめん」
大河は取り繕うように笑みをみせるも、その顔は少し強ばっている。
「おれが前に住んでいたところは、超がつくほどクソ田舎だったんだよ。こういうところに遊びに行くのにも電車に三十分ほど乗らなきゃなんなかったから」
思い出したくもないのか、ため息混じりに小さくかぶりを振っている。あまりこのことは話題にしないほうがよさそうだと美姫は肝に銘じていた。
「ま、そんなド田舎の話なんかどうでもいいから、とりあえず映画でも観に行こうぜ」
大河は少し重たくなった空気を入れ替えるかのように明るい声を出す。
「つーか、いまってどんなの上映してんの?」
「ええっと、邦画だと『
「うーん、微妙だな……」
「洋画なら『スター・デスティニー エピソード2』っていうシリーズものとか『モンスターシャーク』っていう――」
「よし『モンスターシャーク』にしようぜ」
大河はそう言うと映画館へと向かってすたすたと歩き出す。
正直なところ美姫としては初デートなので恋愛映画である『100年後の君と』を観たかった。だが、先ほど自分の発言で大河の気分を損なってしまったという負い目を感じていたということもあって、美姫は自分の意見を発することなく大河の後ろをついて歩くのだった。
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