52話 最後の追い込み

「リヴァイアさんの魔力が消えたのよ……」


 アンジェリカは拳を握り締めながらそう言った。


「え? 本当っすか」

「……ええ、やってくれたわよ」


 マーシャが聞き返す、アンジェリカはマーシャの問いに怒気をはらんで答えた、その時マーシャはアンジェリカの顔を見るとゾッとした。

 普段はボケたようなアンジェリカであったが、その時のアンジェリカの表情は鬼のような表情だったとマーシャは後に語ったほどだった。


「てことは、リヴァイアサンが命懸けで作ってくれたチャンスってことっすか?」

「そうなるわね……」


 アンジェリカは使者を睨みつける、睨みつけながらも深呼吸をして落ち着くと自分の頬を一度パンと叩き気持ちを切り替える。


「ここで、失敗したらリヴァイアさんに合わせる顔が無いわね」


 使者は霧から抜け出し、完全にマーシャとアンジェリカの前に姿を現した。

 アンジェリカは懐から新しい、赤い物々しい色をした小瓶を取り出した。


「これもお香よ、あまり使いたくなかったけど仕方ないわね」

「マジックアイテムっすか?」


 赤い小瓶を見たマーシャがアンジェリカに尋ねると、アンジェリカはマーシャの質問に苦笑いで答えた。


「これはね、血の臭いのする液体なのよ、ただねぇ色も色なんで本物に見えてあまり使いたくなかったのよね、でも人間を食べて血の臭いに敏感んになってしまった使者には有効だと思うのよね」


 そういいつつ、お香に魔力を込めた。すると鉄臭い臭いが漂う。


「……う、これはキツイっすね……」


 眉を顰めるマーシャ、アンジェリカも眉をひそめていた。


「想像以上にキツイアはね……」


 そして、しばらくするとお香の臭いがそこら中に漂いだすと、使者が触角を動かし臭いの元を探し出す。

 見事にアンジェリカ達を見つけると、アンジェリカ達に向かって歩き出すのであった。


「再び釣れたわよ、距離を保ちながら誘導しましょう」

「了解っす」


 再びオバさんとゴキ〇リと少女の誘導劇が開始された。

 その後は、順調に事が進み時間はかかっていたが、目的地へと近づいていた。


 ――

 ――――


 少し時間は遡る。

 溜池組が準備を進めているとこへヴィヴィアン、ゼノ、リノ、ルーシアは合流していた。


「このまま、何事も無ければいいですねー」


 ルーシアが音の魔法で辺りの様子を探っていたところ、音が反射するところがあった。


「おや? 野生動物ではなさそうですね?」


 ルーシアが魔法の反応に対して疑問を浮かべた。


「ん? どーしたんですかルーシアさん」


 ルーシアの反応を見て、何かあった時のための準備をしていたリノが尋ねた。


「いえね、音が群れになって動く何かに反応したんですよ」

「群れを成す動物ですか?」

「動物なのでしょうかね?」


 そう話しているとゼノが慌ててやってきた。


「おい、森の方に足跡が見つかった、いくつもの足跡があったが全部同じ形状からして揃った装備の集団、多分だが騎士か何かがが森に潜んでるとみていいだろう」


 ゼノが異変を知らせると、ルーシアとリノが顔を見合わせる、そしてゼノに対してルーシアが先ほどの反応ついて話す。


「私の音の魔法でも、何かの集団を捉えたんですよ」

「ひょっとすると使者を呼び出した、王国騎士団じゃないかしら?」


 リノが騎士団じゃないか? と話すとゼノとルーシアもその意見に納得が言ったようだった。


「よし、ロウエルさんに連絡しよう。緊急時用の連絡手段として渡されたマジックアイテムで連絡しよう」


 ゼノが預かった石板のようなアイテムに魔力を込め、文章を書く。すると文章が淡く光り光が消えるとともに書いた文章も消えたのであった。

 メール送信のようなものだと思ってほしい。

 すると少しして、ロウエルから『そちらへ向かう』と返事が来るのだった。


「よし、ロウエルさん達がこちらに来るまで警戒して様子を伺おう」


 ゼノ、ルーシア、リノが頷き合う、ヴィヴィアンにはいつ使者が来てもいいようにとスタンバイしてもらっていた。

 三人は比較的に動けそうな手伝いに来ていた人たちや、作業中の騎士団の魔術師たちにも警戒するように伝えて回るのだった。


 次回は『バーモント卿、暁に散る?』でございまする。

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