37話 誕生

 イノシシ型の魔物を探し奥に進む一行。

 いるはずなのに姿を見せない魔物に違和感を覚えるゼノとマーシャだった。


「おかしいな、気配はするのに姿を見せない」

「そっすね、大抵このタイプの魔物は縄張り意識が強いから、縄張りに入れば向こうからやってくるはずっすからね、何かに怯えてるんすかね?」


 マーシャがそう言うと、辺りを見回していたリヴァイアサンが同意した。


「マーシャの言う通りやもしれんな、なんとも纏わりつくような嫌な感じがする」

「オバさんは何も感じないわねぇ、むしろオバさんに恐れをなしているのかもしれないわよー」

「主の魔力に……ありえそうで笑えんな」


 事実、魔王級の魔力を持つオバちゃんが本気で魔力解放なんてしたら、気の弱い魔物はそれだけでショック死する可能性まである、実に厄介なオバちゃんだ。

 そして更に少し時間が過ぎると、ようやく目的のモンスターを発見した。


「いたぞ」


 ゼノが小声で知らせる、するとマーシャとリノは素早く移動し配置についた。


「アジャルタさんの方に追い込みますからキツイの一発きめてやってください」

「了解よ」


 リノがアンジェリカに簡単に作戦の説明をする。まあ、作戦ってほどのものではないのだが……

 その後は素早く行動を開始する三人。

 しかし、やはり様子がおかしいようだ。魔物が動く様子が無いのだった。


「んー、やっぱなんか変っすねぇ」


 マーシャがそう言った瞬間アンジェリカの声が響いた。


「さあ、準備完了よー」


 既に拳大ほどの魔力の球が出来ていた。


「アジャルタさん! なんか様子が変っス! 待つっすよ」

「待てと言われても、もう撃っちゃうわよー」

「というか、そもそもまだ追い込みもしてないっすよ!


 待てと言われて待つ奴がいるかよ! オバちゃん実は作戦を理解していなかったの巻。


「だー! ゼノ、リノ退避っす!」

「「了解!」」


 三人が離脱したところを魔力弾が魔物に直撃した、訳も分からず断末魔を上げて崩れ落ちる魔物。

 ただ、その目には恐怖が浮かんでいた。

 全員が魔物の場所まで移動すると、ちゃっかり証拠となる部分を切り取っていた。

 結果良ければすべてよし!


「結果的にはクエストクリアっすね」

「そうだな、しかしこの魔物俺たちがここまで近づいても気づかないほど、何かに怯えてるような感じだったな」


 ゼノが違和感の事を口にしていた。


「嫌な雰囲気、空気と言うべきがさらに大きくなっている。それが魔物の怯えていた原因であろうな」

「その空気ってなにかしらねぇ」


 リヴァイアサンが空気と言う、そしてアンジェリカがその原因はとリヴァイアサンに尋ねたがリヴァイアサンは左右に首(?)を振った。


「リヴァイアさんでも分からないの……あら?」


 ふと、目の前を虫が飛んでいた。アンジェリカの探していた虫だった。


「いたわね、バナドモルチョウ」


 バナドモルチョウ、バナナの匂いがする分泌物を出す謎の蝶である。黄色と緑のまだら模様の蝶である。


「この蝶を探してたのよねぇ」


 そういって手際よく蝶を捕まえる。すると次々と蝶が飛んできた。

 魔物がいなくなったためだろうか、どこからともなく飛んでくる。


「大漁よー!」


 アンジェリカはどんどんと捕獲を開始するのであった。

 アンジェリカが捕獲で一時間ほど費やしたころ、マーシャがそろそろ帰る旨を伝える。

 リヴァイアサンとゼノはアンジェリカが虫捕りの間に、違和感について調べていたが成果が無く諦めることにした。


「よーし、両方の目的も果たしたし帰るっすかね」

「違和感の正体が知りたかったが仕方あるまいか」

「そうですね、なーんか嫌な空気でしたけどね」


 アンジェリカは大量に虫を捕まえてご満悦であった。このゼノやリヴァイアサンの感じていた空気は実際とんでもない事の前触れであった。


 ――

 ――――


 薄暗い祭壇のような部屋で、司祭服の男が玉を片手に何かを待つように部屋の隅から隅へと行ったり来たりしていた。

 むう、と唸りつつも行ったり来たり。

 すると司祭服の男、ダウ司祭の元へと護衛の騎士がやってきた。


「ダウ司祭、ただいま連絡が来ました。バーモント卿が目的の部屋に着いたとの事です」


 その報告を受けダウ司祭は待ってましたと言った顔をした。


「おお、ついに来たか。ではさっそく準備せよ」


 ダウ司祭の指示に騎士は頷き短く敬礼し、他の騎士の場所へと向かった。


「ついに来たか」


 感慨ふけっている司祭。

 少しすると騎士が準備が整ったと知らせを持ってくる、そして別の騎士がバーモント側も準備が整ったとの知らせを持ってきた。


「よしでは始めよう」


 司祭は一冊の本を手に、祭壇に置かれた像の前まで歩み寄った。


「シイ アウドミソ ヲギ キムヤ」


 呪文を唱えだすダウ司祭。呪文に反応するかのように像が光りだしカタカタと揺れだした。


「ウミククヌ!」


 司祭が最後の言葉を口にする。

 しばらくすると光っていた像の光が収まり、揺れも止まる。すると紫色の煙が像から立ち昇る。


「おお、伝承通りだ」


 見守っていた騎士たちの誰かが言った、周りの騎士たちも頷いていた。


「これで成功なのか?」


 ダウ司祭が疑問を口にすると、護衛の騎士が。


「そのはずです、『みっつの夜が明ける時、使者の卵が産まれるであろう』そう伝承にあります、三日後にこの像の上に『使者の卵』と呼ばれるものが誕生するはずです、それまで待ちましょう」

「ああ、そうだな。バーモント卿に連絡を、あとは結果を待とうと」


 この儀式の三日後に突如大きな光と共に、巨大な豆のような卵が出現するのであった……

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