33話 暗躍

「本当になんだってんだいねぇ」

「うあぁあ」


 ランタンの光を頼りに進む影が四つ、メルリカ婆さんとヴィヴィアン、それに魔女学園の教員二名である。

 彼女たちは再び試験会場であったダンジョンに来ていた。しかもアンジェリカ達が見つけた隠し部屋の方に来ていた。そこは以前王国の調査隊が調べたはずであった。


「ヴィヴィアン、何か思い出した?」

「うあぁ、……まだ」


 メルリカ婆さんがヴィヴィアンの何か思い出したのかと聞いていた。

 その質問に対しヴィヴィアンは首を振った。


 ――数時間ほど前、学園の職員室にて。


「え? 夢を見ただって?」

「み……た、ふしぎ。 たぶん、しけんじょう」


 必死(?)に夢を見たことを訴えるヴィヴィアン、メルリカ婆さんは最初何かの間違えではないかと思っていた。


「ゾンビが夢を見るもんなのかい?」

「ふだん、は見ない、でも見た」


 ふーむ、と唸るメルリカ婆さん、すると隣で聞いていた同僚の教師がこういった。


「メルリカ先生、それもしかすると夢ではなく、生前の記憶ではないでしょうか?」

「……ふむ、なるほど、そいつはありえるねぇ」


 メルリカ婆さんは納得していた、そしてその内容をヴィヴィアンに尋ねる。


「それでどんなヤツを見たんだい?」


 夢だと一蹴せずちゃんと話を聞くのがメルリカ婆さんの良い所である。するとヴィヴィアンはゆっくりとした身振り手振りも合わせ見た夢の説明を始めた。


「しけん、じょう。大きな影がぶわーとでてくる夢」

「大きな影……あまり良い夢ではなさそうだね」


 メルリカ婆さんは眉間にしわを寄せ……皺だらけだけどな。ヴィヴィアンの話を聞いていた。


「うん、おおきな影。とても嫌な感じ」

「生前の記憶が関係してるなら無視できないかもしれないねぇ。おおきな影ときたもんだ」


 メルリカ婆さんは腕を組んで考え込む。


「調査隊が調べたが……まだ、あそこに何かがあるのかもしれないねぇ」


 更に少し考えると、何か決めたようだった。椅子から立ち上がるとヴィヴィアンに向かって言葉を放つ。


「わかった、もう一度見に行ってみようじゃないか。空いてる教師と私達で試験場に向かおう。危ないようだったら引き返し、冒険者でも使おうじゃないか」


 こうして、今一度試験会場になったダンジョンへ向かうのであった。


 ――

 ――――


 そして今に戻る。


 ヴィヴィアンとメルリカ婆さんは壁を丹寧に調べる。ヴィヴィアンは調べてるか少し怪しいが……

 お供の教員も一緒になって調べているが思わしくないようであった。


「何もないですね」


 教員の一人がそう呟いた、隣の教員も頷く。

 以前王国の調査団が来た時のままになっている、資料ぽいものは全て持ち出されておりこれといったものは見当たらない。


「うーん、これは何かを見落としてるのかもねぇ。調査団が来てからそれなりに時間が経ってるし、一度進展があったか聞いてみたほうがいいかもしれないね」

「うあぁ、あぁ」


 ヴィヴィアンも賛成なようなのか頷いていた。


「よし、一度学園に戻るよ」


 メルリカ婆さん達は学園に戻ることにしたのであった。


 ――

 ――――


 時と場所は変わる。


「なんということだ……これはとんでもないモノじゃないか。これは世に出してはならない代物だ」


 バルトン教授は像を眺めつつそう呟いた。


「王国に預け厳重に管理してもらわねばならんな、一度国王に……ん?」


 そとでバタバタと物音がしていた、騒がしさに首を傾げた。

 すると騒がしさが大きくなってきたのであった。


「賊だ! 賊が侵入したぞ!」

「くそ! 何だこいつ等、普通の賊じゃないのか? くそ、急いで第四騎士団に連絡を」


 外の護衛の声が聞こえる、どうやら賊が来たようだしかもただの物取りではないようであった。


「なんだ? 何がどうなっている?」


 バルトンは不穏な空気を察し状況を確認しようとした、しかし衛兵を呼ぶにも声を出したら賊に気付かれてしまうのではないかという不安もあった。

 護衛の誰かが助けに来てくれるのを待つしかない状況だった。

 バルトンは考古学者なので自身が戦う力は持っていない。

 すると少しして、バターンという音ともに扉が開いた。


「バ、バルトン教授! 早くここからお逃げください! さあ、はや……ぐ!」


 バルトンを呼びに来た兵士の胸から剣が生えていた。

 崩れ落ちる護衛の後ろには、黒装束に身を包んだ男が三人立っていた。


「悪いがアンタを逃がすわけにはいかない、すまないがここで死んでもらう」


 中央に立ってた男が口を開いた、口元を覆った布のせいか声はくぐもっていた。

 そして男が目で合図すると、左右の男たちが剣を構えバルトンの前に出た。


「――お前たち、物取りではないな。ここには第四騎士団の部隊だって控えているのだぞ」


 バルトンは怯えながらもなんとか、時間を作って助けが来るのを待とうとした。


「騎士団? あぁ、今頃は仲良くお眠の時間じゃないか?」


 男の言葉に残り二人がククっと笑う。そして男の一人がさらに合図すると、バルトンに剣を向ける男が距離を詰めた。

 そして距離を詰めた左側の男がバルトンに向かって言葉を発した。


「アンタはよくやってくれたよ、俺たちの為にご苦労だったな。しかしもう用はすんだ、ゆっくりと永遠に休んでくれ、お前の研究は有意義に使わせてもらうよ」


 そういって男は剣を振り上げた。

 バルトンは剣の柄にある紋章に目を止めた。


「ま、まさか! その紋章お前たちは!」


 そして最後まで言葉を発することなく剣が振り下ろされるのであった。


「よし、こちらも片付いた。家の連中を皆殺しにしたあと、資料と物を全部運び出せ。最後に家に火を放てばお仕事終了だ。邪魔な同僚も片付ける事が出来て一石二鳥な仕事だったな」


 中央に立ってた男がそう言うと、合図をし三人はバルトンの部屋を去っていく。

 このバルトン襲撃事件が後に起こる大事件の引き金になるのであった。――次回へ続く

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