34話 バーモント・かれい

 ――

 ――――


 某所にて。


「バルトン邸から持ち出した資料は全てまとめたな?」


 鎧を着た男が部下らしき男に話かけた。


「は! 全てまとめて馬車に積んであります」

「よろしい、ではそろそろ最終段階に移る。持ち場に戻れ、私も後で向かおう」

「は!」


 部下らしき男は敬礼すると、その場を後にした。


「あとはダウ司祭に同行願い合流すれば……我々の悲願は達成される。あぁ、この日をどれだけ待ちわびたか」


 男は一人クツクツと笑うと、目的の場所へと移動した。そこには数十名の兵士が集まっており男の登場を待っていた。


「良く集まってくれた、これが最後の部隊だな?」

「は! 我ら第三部隊が最後となります、第一部隊は既に隠れ家へと向かい、第二部隊はダウ司祭を迎えに行った後合流予定となります」


 報告に満足すると、男は静かに兵士達を見回す。


「よろしい。諸君、ついに我々の悲願、我らが神の復活は間近だ」


 バーモント卿の言葉に一同は明るい顔をする、「おお、ついに」「我らの悲願」等の言葉が各所から上がっていた。

 どう考えてもロクな事は考えていないだろうと、思える集団である。

 バーモント卿は静粛にと、兵士達をたしなめた。


「よし、それでは栄光に向かって我らも出発するとしよう」


 バーモント卿の号令の下、兵士達は移動を開始した。

 この日を境に王国第四騎士団と一部兵士はこつぜんと姿を消すのであった。


 ――

 ――――


 バルトン邸襲撃から四日後。

 ここは冒険者ギルド、アンジェリカとマーシャが仕事を探しに来ていた。そして二人を見つけたルーシアが少し慌てた様子でアンジェリカ達の方にやってきた。


「アジャルタさん、マーシャさん、おはようございます」

「おはよう」

「おはよっす」


 挨拶は忘れない。

 挨拶を済ませるとルーシアが、アンジェリカとマーシャに本題を切り出した。


「お二方、最近王城付近の考古学者の家が襲撃された事件知ってますか?」


 ルーシアが二人に問いかけた。

 この街は王都から馬で約一日の所と、比較的近場にあるので事件や王城での出来事の情報が入るのは比較的早めであった。


「考古学者? 知らないわね」

「ボクも知らないっすね」


 まあ、普通に考えれば普通のオバさんには興味のない内容ではある、しかしルーシアの次の言葉にアンジェリカもマーシャも反応するのであった。


「どうもその考古学者さんは、私達が見つけた部屋を調べてたみたいなんですよ」

「結局、変な像が置いてあっただけの部屋っすか?」


 油黒虫の像という悪趣味極まりない像のことである。


「で、襲撃って。どういうことなのかしら?」

「そっすね、盗みに入ったじゃなくて襲撃っすものね」


 アンジェリカは襲撃という物騒な単語が気になったのか、ルーシアに尋ねた。


「はい、普通泥棒なら基本的には物を盗むだけですよね。しかし今回は物取りの仕業にしては考古学者の家にいた人たち、護衛の騎士も含めて皆殺しされてたんですよ、しかも家に火まで放ったそうなんですよ」


 ルーシアの話を聞くにかなり物騒な話であった。


「物騒ねぇ」

「はぁ、するとその学者に個人で恨みを持ってるって線でもなさそうっすね。護衛の騎士てことは国や貴族から派遣された騎士って事っスもんね、騎士がいるのに家を襲撃するのはリスキーすぎるっすもんね、普通に考えれば組織だった襲撃っすね」


 よほどの腕が無ければ騎士がいるような場所へ単騎突入するバカは少ないだろう、マーシャの読みは当たっている。


「国もそう考えてるみたいですよ、学者の家には歴史的な価値の高い者もあったらしく、それ狙いの犯罪組織の仕業じゃないかって線で、捜査してるみたいなんですよ」

「嫌ねぇ、この国にもそんな組織がいるのね、オバさんもびっくりよ」


 そしてマーシャの何気ない一言。


「ボク達が見つけたあの油黒虫の像、アレに歴史的な価値があったりしたら面白いっすよね」

「え? 油黒虫よぉ、流石にアレを欲しがる人たちがいるとは思えないわねぇ」


 この一言が的を得ていたなんて今は知る由も無し、そしてその後すぐに第四騎士団が行方知れずになったという話が辺りに知れ渡ることになった。

 そして今回も別にアンジェリカは何の活躍もせず、世間話をしているだけであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る