最終章 オバさん国を救う

第31 色々あるのよ

 ――

 ――――

 未開ダンジョン攻略から約一ヶ月が過ぎていた。

 マーシャ達の引っ越しも完了し、かねてから考えていた魔女のお店の、お店部分も完成していた。


「サーシャちゃんも手伝ってもらって悪いわねぇ」


 サーシャとアンジェリカは棚に、アンジェリカの作ったポーション等を並べていた。


「いえ、私はマーシャ達と違って冒険には出らず、いつも待っているだけでしたがこうして手伝う事が出来るのが嬉しいんです」

「そうなのねぇ、ただ何もすることなく待ってるのも暇ですものね」


 いや、ほんと忙しすぎるのもアレだけど、ただ暇で延々とボーっとし続ける仕事もキツイものさ……

 サーシャはアンジェリカを手伝いつつそう言った。マーシャ達三人は海底ダンジョンの様子見をしに行くついでに簡単な依頼を受けに行っていた。

 そして、アンジェリカとサーシャは、お店の開店準備をしていると言うわけであった。


「主よこれは本当に商品なのか? 何に使うのだコノ紐は?」


 リヴァイアサンが箱から紐を取り出し、アンジェリカに質問する。

 どこから見てもただの細いロープである。


「それ、割と凄いのよ。まず紐を輪っかにするでしょ? そして輪にした二つの紐と紐を魔力を込めて関連付けするのよ」


 いつの間にかアンジェリカの謎の紐の解説が始まった、そしてそれを魚の尻尾とサーシャが見ている。

 アンジェリカが魔力を込めると、二本の紐がそれぞれ赤と青に光る。


「光りだしたら関連付け成功よ、そしてこの青い方の紐を持ち上げて、そこに物を通すと……」


 持ち上げた輪っか状の紐にビー玉を通すと、ビー玉が消えた。


「な、主よこれはまさか?」


 すると赤く光る紐の輪の中心にビー玉が現れた。


「え? 凄い。ビー玉が移動しましたよ!」


 サーシャが目を丸くする、リヴァイアサンも驚いていた。


「物質転送魔法だと? 理論的には出来ると言われているがそれを成し遂げた者はいないと聞くが……道具を用いるとはいえ主はとんでもないものを作っていたな」

「オバさんも苦労したのよ、でもこれね問題も多いのよ」


 どうやら未完成品のようだった。


「ビー玉のサイズの物を通すにも疲れるのよー、リヴァイアさんもやってみる?」


 アンジェリカに言われてリヴァイアサンも挑戦する、紐を輪っかにし関連付けしてビー玉を通してみる。


「む? なんだこれは、一瞬で魔力を結構持っていかれたぞ? こんなもん一般の人間では扱えんぞ、ビー玉を通すだけで一般人なら三〇分は動けなくなるぞ」


 消費魔力が多すぎて使い物にならない欠陥品であった、ただ効果自体はちゃんとしたものであるところがアンジェリカの怖い所であった。


「今後の改良点よね」

「うーむ、しかし成功はしているから恐ろしい」


 ――

 ――――


 更に準備は進む。

 するとリヴァイアサンが今度は小さめの桶を持ってきた。


「主よこの桶から魔力を感じるのだが、これはなんだ?」


 桶の裏を向けると魔女の刻印が彫ってあった。普通の魔女が見ても解読は出来ない、謎のアジャルタアレンジが入っているからであろう、文字が汚くて本人しか読めないみたいな感覚かも。


「それねー、それはその桶に水を汲んで魔力を込めると、水質がいい感じに変化する魔法の桶よ」


 いい感じと言うところが適当である。


「いい感じ……毒ではあるまいな?」


 魚の尻尾が懸念するのもうなずける、そもそもいい感じってどんな感じだよ?

 するとアンジェリカは瓶を取り出した、瓶の中には液体が入っている。


「これがその桶で出来た水なのよ、どういうものか見せてあげましょう」


 そういうとアンジェリカは部屋を出て台所へと向かう、リヴァイアサンとサーシャも後をついていった。

 台所につくと皿を一枚と布を取り出す、そして布に少し水をしみこませた後、瓶に入ってる液体を布に少し付けて布をも見込むと泡が立ち始めた。


「ん? まさか。これって? 洗剤ですか?」


 サーシャが何か気付いたようだった。


「ええ、そうなのよ。どういうわけか洗剤が出来たのよ油汚れもばっちり落ちるのよ」


 そう言いながら桶の中にも液体を入れ泡立てる。

 そのときであった、忍び寄る黒き影がそこにはいた。黒い影はガサガサと音を立てて登場した。そう、その影はヤツこと油黒虫であった。そして、その気配に気づいたのはサーシャであった。


「きゃあ!」


 短い悲鳴を上げると後ろに後ずさった、そのはずみで肘が桶に当たり中の液体がこぼれた。


「あら? だいじょう……ぶ。む! 出たわね!」


 アンジェリカもヤツの存在に気付いたのだが、こぼれた液体の中で溺れる油黒虫を見て。


「あら? 溺れてるわね」

「溺れてますね」


 しばらくすると油黒虫は動かなくなった。


「油黒虫は水に強いはずなのにねぇ、この液体にそんな効果まであったなんてオバさん驚きよ」

「私も驚きです、普通水ははじくはずなんですけどね」


 二人は疑問に思いつつ、油黒虫を見ていた。そこにリヴァイアサンが口をはさむ。


「思うに油黒虫とは表面の油分でテカテカと光っているのであろう、この水にはその油分を分解する成分が入っているのではなかろうか?」

「あらー、それで溺れちゃったのねぇ」


 アンジェリカは油黒虫を片付けながら、リヴァイアサンの話を聞いていた。そしてサーシャもこぼれた液体を片付けていた。


「そうなると、この液体を使って油黒虫用の罠って作れないでしょうかね?」


 サーシャが何気なくそう呟くと、アンジェリカはポンと手を叩くと。


「その罠売れないかしらね? 一行の価値があるわー」


 おばさんの商品開発魂に火が点いたようだった。

 善は急げと言わんばかりにアンジェリカは、急いで店の片付けをする。


 ――

 ――――

 急いで本日分を片付けると、油黒虫の好きな食べ物を調べるために、図書館へと向かう二人と一匹。


「この街には図書館があるんですね」

「そうなのよ、普通の街には珍しいわよねぇ、小さいけれど図書館があるのは便利よ」


 そう話しながらニ十分ほどすると、そこそこの大きさの装飾はそれなりに立派な建物が出てきた。


「ここよー、本の持ち出しは出来ないけどメモは取れるからここで調べましょう」


 アンジェリカ達は図書館へと入っていく、するとアンジェリカより年上に見えるオバちゃんがいた、胸のあたりに司書のバッジを付けている所からここの司書のようだ……あ、そうそうこの世界では司書は司書バッジってのをつけてるんだよ、弁護士バッジみたいな証明だね。

 そして、司書のオバちゃんがアンジェリカの姿を見ると声をかけてきた。


「おや? アジャルタさん久しぶりじゃないか」

「あら? 今日はポリーヌさんが担当かしら?」

「そうなんだよ、今日はわたしが担当だよ」


 アンジェリカにポリーヌと呼ばれたオバちゃんは、カラカラと笑いながら挨拶をする。静かにしないといけない図書館なのだが……オバちゃんの声は無駄にでかい。

 そして、軽く世間話を終えると、アンジェリカは目的の本を探し始める。


「虫の本はどの辺りかしらねぇ」


 本のジャンル表示を見ながら探し始めるアンジェリカ、サーシャも探す。魚の尻尾は本棚を見て頷いていた。


「ふむ、規模の割には中々の品揃えだな」


 感心しながら本棚を見て回る魚の尻尾。

 少しして目的の本を見つけると、そこには昆虫の生態が書かれていた。

 本を読み進めていく一行。


「意外ね、匂いで認識してるのね。バナナの匂いとか好きみたいねぇ」

「どこで匂いを嗅いでるんでしょうね?」

「わかんないわねぇ」


 そして暫くメモを取りつつ油黒虫の事を調べているのであった。


「大分色々と分かったわねぇ、匂いの香料を作らないとダメねぇ」

「ふぅ、久しぶりにこれだけ本を読みました」


 リヴァイアサンが外を見ると随分と陽が傾いていた。


「ふむ、随分と時間が経っていたようだな。そろそろマーシャ達も戻ってきてるのではないか?」


 そうリヴァイアサンが告げると、アンジェリカとサーシャもリヴァイアサンと同じ方向を見る。


「そうねぇ、そろそろ戻ろうかしらね」


 そう言うとアンジェリカは席を立った、そして続いてサーシャとリヴァイアサンも席を立つ。


「それじゃ、帰りましょう」


 アンジェリカ達は図書館を後にした、そして帰りにバナナを買って家へと向かうのであった。

 その日の夜はなんか全体的にバナナ臭かったそうだ。

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