第30話 小銭だ小銭をよこせ!

 ――三日後


 アンジェリカは約束の日にギルドへと来ていた、入り口を入ってすぐの所にマーシャ達が四人で――マーシャの姉、サーシャも一緒にアンジェリカが来るのを待っていた。


「あらー、サーシャちゃんだったかしら? 皆さんおそろいなのねぇ」


 手を振り振りしつつ近付いていくアンジェリカ。そのアンジェリカの挨拶、どう見ても久しぶりに会う親戚のオバちゃんである。

 アンジェリカに気付いた全員が手を振りサーシャは会釈で返した。


「これで全員揃ったっすね」

「そうですね」


 マーシャとリノが全員いるかを再確認した後、全員でギルド受付へと向かうのであった。

 今日はギルドも暇らしく、人があまりいなかった。カウンターもルーシアが一人で座ってアホみたいな顔してぼーっとしていた。


「あらあら、今日は暇みたいねぇ」


 そういってアンジェリカがルーシアの元に歩いていく、するとアホヅラでぼーとしてたルーシアももアホヅラをやめてアンジェリカの方に顔を向ける。


「あー、アジャルタさんとマーシャさん達じゃないですか」

「ルーシアちゃん、おはよう」

「どうもっす」


 挨拶はそこそこに、マーシャがポーチから紙を取り出し、ルーシアへ渡す。

 ルーシアは紙を受け取り、目を通すと頷いた。


「はいはい、報酬受け取りですね。少し待っててくださいね」


 ルーシアは席を立ち奥へと向かった、そして数分後。一人の男性と共に戻ってきたのであった。

 男の見た目は四〇代ほど、細身だががっしりとした体格で背も一八〇はあるだろう、ルーシアとほぼ同じ身長であった。


「私がこのギルドの支部長で、ハリソン・カルネと申します」


 うやうやしくお辞儀をして丁寧な物腰で名乗る男。その姿につられてアンジェリカも頭を下げた。


「これはご丁寧に、私はアンジェリカ・アジャルタと申します」


 不思議と丁寧な物腰の相手には、自分もつられてしまうことってあるよな。

 そしてアンジェリカばかりか、ほかのメンバーと魚の尻尾までお辞儀をする。

 そしてハリソンは一向を客間へと案内すると椅子に座るよう促す、そしてルーシアが人数分のお茶を用意したところでハリソンは口を開いた。


「レポートとリッチの魔石等の品拝見しました、まずはご苦労様です」


 ハリソンは座ったままだが改めてお辞儀をした。そしてやはりつられてお辞儀を返す一行であった。


「レポートの内容や渡された品からも信用に足るものとし、お約束通り報酬は満額のお支払いとなります」


 そう言って、ハリソンは箱を取り出し、箱を開けて中身を見せる。そこには一〇〇〇〇リシェコインが二十五枚あった。


「こちらが報酬になります」


 マーシャがコインを確認する。


「確かに約束の枚数っすね」


 マーシャが確認し終えたことにより、箱がハリソンからマーシャへと手渡された。

 そして、一瞬の沈黙のうちハリソンが口を開いた。


「うちで働いてるルーイアに聞いたのですが、マーシャさんとアジャルタさんは、この付近にある魔女学校の出だそうですね?」


 ハリソンが一口お茶を飲み、そう切り出した。


「ええ、そうだけど。それがどうかしたのかしら?」


 アンジェリカはハリソンの問いに、素直に答えた。

 個人情報を簡単に教えてはいけません。


「いえ、いまは確定ではない情報ですが貴女方は当事者でもありましてね。魔女学園の試験で訪れたダンジョンの事なんですよ」


 卒業試験のあのダンジョンの話のようだった。ハリソンが知ってると言う事はどうやら冒険者ギルドがらみで何かある様だった。


「あそこのダンジョンに新エリアが見つかりましてね、ひょっとすると冒険者ギルドに依頼が来るかもしれないってお話でしてね、もしよければ皆さんに優先的に依頼を回しても良いかもと、そんなお話でしてね」

「なるほど、ボク達は一度入ってるダンジョンだし、新エリアの探索にも慣れてるっすからね」


 ハリソンの話にマーシャが答える。


「え? オバさんはダンジョン探索にはまだ慣れてないわよ?」


 話の腰を折るおばちゃんであった。全員がジトっとした目でアンジェリカを見た。

 アンジェリカも自分が空気を呼んでいなかったの気付き、ならない口笛でごまかしていた。


「コホン、まあそういう事でしたので、頭の片隅にでもおいておいてください」


 微妙な空気になった所、ハリソンが強引に話を終わらせたのであった。

 そして一行は無事報酬を受け取ったのであった。


 カウンターへと戻るとやはり今日は暇なのか人が少なく、ルーシアも半目開いて白目向いた微妙な顔でボーっとしていた。

 ルーシアはアンジェリカ達が戻ったのに気付くとボーっとするのをやめてキリっとするが、時すでに遅し、ばっちりと一行に見られていた。


「皆さんお疲れ様です、大変だったみたいですね」


 何事も無かったかのように話しかけてくるルーシア、見なかったことにしてあげるのが大人の対応だろう。


「そうねぇ、大変だったわよ。なんか凄い骨とか出てきてねぇ、オバさん腰に来ちゃって大変だったのよ」

「それでもアジャルタさんは凄いですよ」


 大変だったのはそこじゃない……


「凄い骨って言うけど、リッチって最高クラスのアンデッドだよなぁ」

「そっすねー、アジャルタさんからするとリッチもスケルトンも大差ないんじゃないっすか?」

「アジャルタさんて本当に何者なんだよ……」


 アンジェリカ、元普通のオバちゃんであった者。

 数分後……ルーシアとの会話を切り上げ、一行はギルドを出たのだった。


「さてさて、前に話した話覚えてるかしら?」


 アンジェリカが以前マーシャ達を家に呼んだことについて話す。


「ああ、そのことっすね。皆で話したんすけど何時までか分からないっすけど、お世話になろうと思ってるっす」


 マーシャがアンジェリカの問いにそう答え、ほかの三人もマーシャの言葉に頷いていた。


「明後日に今いる宿の宿泊期限が来るので、その後に伺おうと思ってます」


 マーシャの後を姉のサーシャが引き継ぐ。サーシャの言葉を聞いたアンジェリカはニコっと笑って頷いていた。


「うんうん、そうしなさいな。遠慮はいらないわよ宿代とかもいらないから、オバさんのお家はお得よ」

「その事なんっすけど」


 アンジェリカが乗り気でまくしたてると、待ったをかけられる。


「流石にまったく無料ってわけにもいかないっす」

「そんな遠慮しなくてもいいのよ」


 アンジェリカが遠慮しないと言うのに立ちして首を振るマーシャ。


「そこで今回の報酬の分配なんっすけど、皆で話し合った結果、アジャルタさんの報酬を多めに渡すことにしたっす」

「はい、アジャルタさんが以前お店をやるための資金で八万ほど必要とおっしゃっていました」


 マーシャの後にリノが続けた、なんかこいつら連携で会話するの好きだな。


「そうねぇ、でも今回の報酬が二十五万だから四人で分けると六万ちょいよ」

「ですからアジャルタさんの取り分が八万で残りが私達ということでどうでしょうか?」


 リノ達の申し出にアンジェリカは目を丸くする、もうこれでもかってくらいに目を見開いていた、その顔は少し怖い。


「あらあら! それだとあなた達の取り分減っちゃってるじゃないの!」

「ええ、その分がお世話になる御礼です」

「うーん、でもねぇ」


 あー、これは受け取ってください、いやいや遠慮します、いえいえ受け取ってくださいループに入る流れであった、このパターンに入ると抜けにくいんだよねぇ。

 そして、何かに悩むアンジェリカを取り囲むように、受け取れオーラを出すマーシャ御一行。

 そのオーラにアンジェリカが折れる事となった。


「うーん、分かったわ。断るのも逆に失礼だものね」

「是非そうしてほしいっす」


 こうして、アンジェリカはお店の改装資金を手に入れるのであった。

 そして後日マーシャ達が、アンジェリカの家に来ることになったのであった。

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