22話 神殿迷宮

 約束の日、オバさんはやったら早くに待ち合わせ場所に来ていた。


「早く来すぎちゃったかしら?」

「確実に早いであろうな……」


 約束の時間までまで後一時間半。


「アジャルタさん、本当に大丈夫なんですか? マーシャさんは頼りになりますけどアジャルタさんまだダンジョン素人じゃないですか」

「大丈夫よー、リヴァイアさんもいるし。なんならルーシアちゃんも行く?」

「わ、私は無理ですよー」

「簡単なダンジョンならいけるわよー」


 などとルーシアを捕まえて時間つぶしをしていた。

 そして更に少し時間が過ぎ、アンジェリカは時計に目をやるとそろそろ約束の時間であった。

 すると、マーシャ達がやってくるのが見えた。


「お? アジャルタさんやっほーっす」


 マーシャが手を振りながらやってきた、そしてアンジェリカの奥を見て驚いてる。


「あれ? ルーシアさんじゃないっすか?」

「ど、どうも」


 控えめに挨拶するルーシア。


「ここにはヘルプで来てまして」

「そうだったんすか? いやー、ボクもつい先日依頼でこっちに戻ってきてたんっすよ」

「そう言えば、マーシャちゃんがここに来てる時はルーシアちゃんはいなかったわねぇ」

「多分、裏に回ってた時ですね」


 置いてけぼりなゼノやリヴァイアさん。

 連れを放置して会話が弾むことってあるよね! とはいえ仕方ないじゃないでは話が進まない。

 やっと放置に気付いたマーシャが話を先に進める、オバちゃんは延々と話し続けるからね。


「っと、そうそう。新ダンジョンの探索っすよ、話をしに来たわけじゃないっす」


 そういってルーシアに依頼状を渡すマーシャ。


「……これって、特別依頼証じゃないですか。マーシャさんそこまで凄い冒険者だったんですね」

「まあ、一応これでも銀の松なんすよ」

「すごいですね、その歳で銀の松って……」

「それほどでも」


 何気に照れてるマーシャ、実際マーシャはエリートなのであった。


「とりあえず、特別依頼を受け付けました。これが許可証です」

「確かに受け取ったっす」


 不安そうな顔でルーシアが尋ねてくる。


「未開のダンジョンの探索ですか、危険な依頼ですね」

「まあ、その分実入りは良いっすよ? ルーシアさんもどうっすか?」

「いやいや、私には無理ですよ」

「そっすか? 残念っすね」


 凄い勢いで首を左右に振り否定するルーシアに、本当に残念そうにしているマーシャであった。


「さて、それじゃあ、行くとするっす」

「それじゃあ、ルーシアちゃんまたねー」


 そして暇だったのか、いつの間にか茶を飲んで待っていたメンバーの場所へと向かった。


「いやー、おまたせしたっす」


 マーシャがタハハと笑いながらそういった、アンジェリカも皆の方を見ると……見知らぬ女性も混ざっていた。


「あら? そちらの女性はどなたかしら?」


 アンジェリカがそう尋ねると、女性が会釈をした。


「初めまして、私はマーシャの姉サーシャと申します」


 アンジェリカに挨拶したのはマーシャの姉であった、確かに顔立ちは似ているが印象はまるで正反対、マーシャがM84スタングレネードのような明るさならサーシャはナツメ球である……例えがわからない? マーシャは明るくてサーシャは物静かって事だ。


「あら? あらあら、マーシャちゃんのお姉さん? はいはい、わたしはアンジェリカ・アジャルタよオバさんって呼んでね」


 アンジェリカは何故かオバさんと呼ばれたがっている、謎である。あと「あらあら、はいはい」多すぎ。


「さて、そういうわけで姉さん。ボクたちは行ってくるっすよ」

「ええ、頑張って。でも危ないから注意してね。ゼノさんも」


 サーシャがゼノに向かって微笑むと、ゼノは顔を真っ赤にしつつ返事をした。


「ええ、いってきます! 吉報を期待してくださいサーシャさん!」

「ゼノ相変わらずっすね」

「だねぇ」


 そんなゼノの姿を見てタハハと笑うリノとマーシャであった。


「あらあら、まあまあ、うんうん、なるほどなるほど。うーんでもそうなるとうーん」


 アンジェリカは何故か無駄に納得し、頷いていたが困った顔もしていた。


(困ったわね、今日はマーシャちゃんとゼノ君の関係を、昼食の話題にしようとしたのにねぇ)


 と、くだらない事を考えていた。


「さあ、時間も勿体ないっすから行くとするっすよ。では姉さんも留守番お願いするっす」

「ええ、皆さんも気を付けてください」

(あら? もう行くのね)


 かくして一行は目的地のダンジョンへと向かうのだった。


「そう言えば、お姉さんは参加しないのね?」


 道中アンジェリカが唐突にマーシャにサーシャの事を尋ねた。

 見送りに来てたが、こちらについて来てないので疑問に思ったようだ。


「あー、そっすねうちの姉さん身体が強くないんすよ」

「なるほどねぇ、それでは連れていけないわねぇ」

「そうなんすよねぇ」


 とても普通な理由を知ったアンジェリカであった。

 その後は途中までは整備された道なためか何事もなく進む、その後はわき道にそれるが数回魔物に襲われただけで特に問題も無く目的地まで来ることができた。


「ここっすね」


 マーシャが入り口を指し言った。

 一同は入り口を見る。

 入り口は隠されていた跡があり、明らかに人工物である。

 ゼノが先行し、ここで待てと言うと入り口に近づいていく。


「なるほどな、入り口自体大きくないし、この入り組んだ地形で尚且つ隠されてるとなると。いやこの小さな山自体が神殿だなんて、見つかりにくいのもうなずける」


 ゼノが入り口とその付近をさっと調べて呟いた。


「むしろよく見つけたものだな」

「兄さん、資料によると偶然見つかったとの事らしいよ」

「なるほど、偶然か」


 兄妹のやり取りを見ながらアンジェリカはマーシャに尋ねた。


「あれは何をしてるのかしら?」

「あー、あれっすか。アレは調査の一貫っすよ。罠が無いかとか入り口が崩れないかとか調べてるんっすよ」

「なるほどねぇ」

「ほほう、するとあの少年はスカウトのスキル持ちか」


 リヴァイアサンの指摘にマーシャがまた答える。


「そっすよ、ま、ボクと組んでるんっすから腕は確かっすよ」

「ふむ、探索には重要な人材であるな」

「そっすね、ボクがアタッカーでリノがヒーラーのゼノが探索とサポーターって役っすね」

「そこに主の火力か、なるほどな」


 リヴァイアサンはマーシャの話を聞き頷いていた、この悪魔、見た目以外は案外悪魔っぽくなかったりする。


「主よ、このメンバーなら安心して冒険できると思うぞ」

「ん? 何言ってるのよリヴァイアさん。マーシャちゃんがいるから当然じゃないのよ」


 オバさんは無条件でマーシャを信頼していたようだ

 そう話していると、ゼノからこっちにこいと手招きをする姿が見えた。


「さあ、いよいよね。オバさん頑張っちゃうから」


 気合を入れるアンジェリカ。そしてマーシャが頷くと全員が頷き返しダンジョンへと入っていった。


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