21話 一攫千金のチャンス!

 次の日、冒険者ギルドにて。

 アンジェリカに声をかける人あり。


「アジャルタさん! こっちッスよ」


 手招きする、マーシャをアンジェリカも見つけるとマーシャ達の元へと向かう。

 すると、マーシャと別に女の子と若い男がいた。

 女の子と若い男はアンジェリカの後ろのリヴァイアサンを見ると、目を丸くし驚いた顔をする。


「え? 魚の尻尾?」

「ええー?」


 まあ、普通はそういう反応になるよな。


「リヴァイアさん、魚の尻尾だと思われてるわよ」

「いや、どう見ても魚の尻尾であろう」


 自覚してるようだ。

 アンジェリカは驚く二人に、安心するように伝える。


「ちょっと見た目は生臭いけど、安心してこれはオバさんの使い魔なのよ」

「生臭い見た目とは何なのだ?」


 さあ?


「とりあえず自己紹介するっすよ」

「あ、あぁ。そうだな」

「ええ、そうねオバさんもそれがいいと思うわ」


 若い男はなんとか頷き、少女も首をコクコクと縦に振った。

 マーシャはアンジェリカに二人の紹介をする。


「こっちの男がゼノ・エーリルで、そっちの少女はリノ・エーリルっす。兄妹で冒険者やってるっすよ。まあ、見たとおりにゼノが兄貴っすよ」


 マーシャがまず名前を教えてくれる。


「ゼノです宜しくお願いします」

「どうも、リノです」


 ゼノは赤茶色の短髪で、割と整った顔立ちをしていた。妹のリノも兄と似た髪の色をしておりおかっぱ頭をしていた。


「ええ、オバさんはアンジェリカ・アジャルタよ、こっちの尻尾がリヴァイアサンといってオバさんの使い魔ね、二人ともよろしく」

「我は主の使い魔、海の大悪魔リヴァイアサンである。主共々よろしく頼む」


 腕を組みいかにも尊大な感じで自己紹介する魚の尻尾。

 魚の尻尾とオバさんの組み合わせを見て、心配そうな顔をするゼノであった。ま、仕方ないよね!


「なあ、マーシャこの人たち本当に大丈夫なのか?」

「はは、最初はそう思うっすよね。でもアジャルタさんの魔法の威力はとんでもないっすよ、あのハイ・トロールを一撃で倒すほどっすからね」

「へ? ハイトロールを? 確かにそりゃ凄いな」


 マーシャがさり気なくフォローする。


「でも、オバさん冒険者としてはド素人よ!」

「主よそんなこと自慢されても困るだけだぞ」


 マーシャのフォローを自信満々に台無しにする所がオバさんである。

 その言葉を聞いて不安そうな顔で訪ねるリノがいた。


「マーシャさん、この人たち本当に大丈夫なんですか? 未開のダンジョンは危険なんですよ?」

「大丈夫だと思うっすよ」

「そうよ大丈夫よ任せないさい、オバさんなりのオバさん的な戦い方をお見せするわよー」


 おそらく自分で何言ってるか分かってない、アンジェリカであった。

 当然リヴァイアサンも何言ってるか分からない、誰もわからない。


「さて、それじゃあ依頼の事を話すッスよ」

「ええ、お願いね」


 ギルド内に併設された小さなカフェで依頼についての説明を受けるアンジェリカ、ウェイターに人数分のお茶を頼むのも忘れない。


「この依頼は一般には出てない特別な依頼っす」

「さっき言ってた、一部の冒険者にだけ来る依頼よね?」

「そっす」


 マーシャが詳しく説明をする。


「この依頼は新しく見つかったダンジョンの探索。危険度やダンジョンとしてうまいかを調べる仕事っす、当然、人工ダンジョンならどのような用途の場所だったかも調べるっすよ」


 マーシャの持ってきた仕事の内容はダンジョンの探索であった。ただしその目的地は未開であるという。


「普段依頼で行くダンジョンって、基本的には先陣の誰かがある程度探索した後なんすよ」

「なるほどね、ある程度安全が確保されてると言うわけね。でも何故魔物はいなくならないのかしら?」

「さあ? どうしてなんすかね?」


 マーシャの話に疑問をぶつけるオバちゃん、こういった事には鋭いから面倒である。

 するとリヴァイアサンが疑問に答える。


「ふむ、ダンジョンに蓄積した魔素が原因で魔素から魔物が産まれると聞いたことがあるな。長年放置された建造物や洞窟のような場所には、魔素が溜まりやすいそうだ」


 要するにうだうだ言ってるけど、魔物が増えないと冒険者も商売あがったりなんで、魔物は勝手に増える自然災害みたいなものっていう設定です。


「まあまあ、都合の良い存在ねぇ」


 オバちゃんのツッコミは辛らつだ。


「ま、まあ。そう言うわけで先ほど少し言ったっすけど。どの程度の強さの魔物がいるのか? どんな傾向の魔物がいるのか罠は多いかなどの調査がメインの仕事っすね」

「はい、だから危険な仕事なんです。このような仕事は基本的には新人冒険者に荷が重くベテランの中級以上の冒険者か、犯罪奴隷が使われています」


 マーシャの後をリノが引き継いで説明する。

 ちなみに犯罪奴隷とは重罪を犯した罪人を奴隷として扱ったもので、正直死刑にしてくれたほうが有難い扱いを受けている者である。


「あらー、相当危険ね。そうなるとやはり報酬は高いのよね」


 そうなると気になるのは報酬である。


「そっすね、うちのパーティーならアジャルタさん入れても、一人十万リシェくらいにはなるんじゃないっすかね? これでダンジョンの難易度が低けりゃボーナスゲームみたいなもんっすよ」


 マーシャの言う金額だと確かに悪くはない。しかしそこにゼノが付け足す。


「ただ、さっきも言ったけど。未知の領域と言うのはやはり危険だしリスクも大きい、逆に言えばダンジョンの難易度が異常に高いと割に合わない可能性も出てくる。たしかに追加報酬は支払われるけど、それが見合うかは分からない」

「主はこれを聞いてどうするのだ?」

「うんうん、冒険に危険はつきものよ。オバさんやるきよ」


 アンジェリカは何故か得意げな顔で語る。お前最近まで冒険者ですらなかっただろとツッコミたい。


「オーケーっす。アジャルタさんも仲間になったってことで、よろしくっすね」


 マーシャがよろしくというと、ゼノとリノも続いて改めて挨拶をする。


「ええ、こちらこそよろしくね」

「それじゃあ、受付はこっちで済ましとくっすよ。明日も朝からここで待ち合わせって事でいっすかね? 準備をしたいと思うんっすよ」

「ええ、わかったわ」


 ――

 ――――


 そして次の日、マーシャとの約束で準備のための買い物に行くことになったので、待ち合わせ場所であるギルドにやってくるアンジェリカ。手にはいつも買い物で使う買い物籠を持っている。


「アジャルタさん、はよっす」


 マーシャが一人でやってきた。


「こんにちは。あら? マーシャちゃんだけかしら? リノちゃんとゼノくんは?」


 挨拶を返し一人なのかと尋ねる。


「ああ、あの二人は別件っすね」

「あら? そうなの残念ね。それでどこに行くのかしら?」

「道具屋と薬屋っすね」

「わかったわ、それじゃあ行きましょう」


 まずは道具屋に向かうことにした二人であった。

 冒険者ギルドの近くには、道具やや武具屋やポーションなど扱ってるお店が多くある。


「うーん、自分の住んでる街なのにここら辺はあまり来ないから斬新ね」

「あら? そうなんすか?」

「ええ、ここらは普段一般の人が使う施設はあまりないのよね」

「なるほど」


 そんなことを話しながら進む二人と一匹。少しすると目的の店を発見する。

『依頼へ行く準備はお済ですか? 冒険者の雑貨屋クソ屋』と書かれた看板があった。


「なんすかこの名前のお店……」

「ふむ、クソ屋か酷い屋号だな」

「凄い屋号ね、でもまあとりあえず入ってみましょう」


 名前は酷いがマトモな店かもしれないからね

 二人と一匹は扉をくぐる。すると店の中は……つまらないほどに普通の店だった。


「インパクトがあったのは屋号だけだったわね……」

「そっすね」


 店員も普通のおっさんであった。

 これといってネタにもならないので必要な物を探していく。


「何が必要なのかしら?」

「ロープは必需品っすよ。あとは光源っすね松明やランタンとかっすかね」

「携帯食はどれぐらいいるのだ?」


 わちゃわちゃしつつ揃えていく。

 それから三〇分後。


「こんなもんかしら?」

「そっす……ん? なんすかこれ?」


 籠の中には何故かイワシの頭が六個入っていた、イワシの頭だけで売ってる道具屋も道具屋である。


「イワシの頭よ」


 普通に答えるアンジェリカ、渋い顔をするマーシャとリヴァイアサン。目が何言ってんだこのオバさんである。


「それは、迷宮探索には必要ないっすよ……」

「あったら嫌ではあるな」


 残念そうな顔をするアンジェリカ。


「あらー、あらら。イワシの頭って色々と使い道があるのにねぇ」


 そう呟きつつイワシの頭を元に戻すアンジェリカ。


「主よ、何故イワシの頭が探索の役に立つと思ったのだ……」

「何となくよー」


 このオバちゃん高確率で何となくで動く。


「「……」」


 目を伏せて首を左右に振るリヴァイアサンとマーシャであった、でリヴァイアサンの目ってどこ?

 そんなこんなで買い物を終えて帰路に就くのであった。


「では、アジャルタさん出発は明後日の朝一〇時になるっす。集合場所は冒険者ギルドっす。一〇時にギルドに集合っす」

「ええ、わかったわー」


 こうしてオバちゃんの迷宮探索が開始するのであった。


「おやつにイワシのパイが必要になるわねぇ?」

「いや、それは絶対に必要ないからな」


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