20話 ッス!

 地道に活動しつつ一ヶ月ほどが経った。


「普通に働くよりは儲かってるけど、やはりランクの低い依頼だと思ったほどでもないわね」

「ふむ、ではそろそろ一つ上の段階の依頼で儲けてみるか?」

「そうねぇ、オバさん気付いたら銅の竹に上がってたものね」


 そう、オバちゃん運が良いためか依頼の追加報酬部分をさり気にこなしており、たった一ヶ月でのスピード昇級をしているのだった……と、言うけど実は銅の竹のスピード昇級はそこまで珍しくなかったりもする。最速記録は一週間だそうだ。

 そして今日もギルドへ通うオバちゃんであった。


「今日も盛況ね。ところで今更なんだけど、オバさん近所の森とかしか行ってないわよね?」

「ん? 今のところはそうだな」

「冒険ってほど冒険してないのに、冒険者っておかしくないかしら?」


 アンジェリカの何気ない発言に辺りはシーンとなり、ギルドにいた全員がアンジェリカの方を向く。

 そして全員が一斉に人差し指を立てて口に当てると「シー」と言った。


「あら? オバさん何か言ってはいけないこと言ったかしら?」

「……どうやら冒険してない冒険者というのは、タブーのようだぞ主よ」

「そうなのね、世の中触れてはいけない事ってあるのね」


 いや、でも本当になんで冒険者っていうんだよ? モンスター討伐もそこらの薬草採集も冒険っていわねーだろ! そもそも依頼を受けていく冒険ってなんだよ? お使いじゃねぇのか? おっと失礼。

 アンジェリカは今日も掲示板で仕事を探す。

 すると後ろから声をかけられた。


「あれ? あの帽子って。アジャルタさんじゃないっすか?」


 聞き覚えのある懐かしい声がした(といっても一ヶ月と少ししか経っていないが)。

 アンジェリカは声のした方を向くと、そこにはマーシャが立っていた。


「あらあらあら、マーシャちゃんじゃないのー、大きくなって。まあまあ」


 久しぶりに会う親戚のおばちゃんかお前は?


「いやー、一ヶ月ちょいじゃそこまで変わらないっすよ。ところでアジャルタさんはここでなにやってるんっすか?」

「オバさん? オバさんはねお店を開くための資金を稼ぐために冒険者になったから、仕事探してるのよー」


 一気に説明するアンジェリカ、それを聞いたマーシャは何か考える。


「いくらいるんスカ?」

「そうねぇ、あと八〇〇〇〇リシェくらいねぇ」

「結構必要っすね……」

「そうなのよ」


 地道にやれば一年以内には貯まる金額ではある、しかし物語的には『それから一年後』なんてのは御免なのであった、そこで丁度良くマーシャが何かに気付いた。


「あ、そうそう。アジャルタさんなんならボク達の依頼に付き合わないっすか?」

「マーシャちゃん達の?」

「そうっす、まだ表には出てない依頼なんスよ。ボク達や一部の上位冒険者にのみ知らせの来た仕事っすね」


 マーシャの突然の誘いにマンジェリカは目を輝かせる。


「マーシャちゃんの冒険者ランクって何かしら?」

「ボクは銀の松っすね」

「あらあら? 銀なのね」


 そりゃ、場慣れしてるわけだ。

 銅は下位、銀は中位、金は上位と呼ばれているが銀の竹と銀の松には一枚の壁があるようにここを突破できるものは多くはない。

 実際冒険者で一番数の多いランクは銅の松から銀の梅である。

 銀の松と金の梅だと大差はなく、銀の松を上位とみなしてる人も多く、マーシャが上位の依頼を受けてる事は別に不思議な事ではなかった。


「新しくこの辺りで発見された人工建築物の調査って依頼なんすけど、アジャルタさんもどうです?」

「人工建築物?」

「そうなんすよ、山の中に入り口が隠されてたのがつい最近見つかったって話っすね。未開のダンジョンなんで危険はつきものっすけど、その分報酬も高いっすよ」


 危険な仕事程報酬が高いのはどこの世界も同じである。


「まあ、規模はそこまで大きくないようっスから。深めの未開ダンジョンよりはマシだと思うっすよ、危険もあるのでまあ良く考えて……」

「面白そうねぇ」

「……決断早いっすね」


 何も考えてないだけだと思う。


「まあ、うだうだ悩むよりはいいかなーって思うのよね、オバさんとしては」


 ニコニコと何も考えてないことを話すアンジェリカ、やはり何も考えていなかったようだ。


「まあ、アジャルタさんがいいならいいんすけど」


 マーシャも少し驚きつつも、アンジェリカがそういう人物だと言う事を、学園時代に知ってたので

 ある意味で納得はしていた。


「ただ、さきほども言ったっすけど危険もあるっすよ?」

「そこは仕方ないわよー、報酬が良いのならそれなりの理由があるものねぇ」


 アンジェリカはマーシャの言葉にそう答えた。


「わかったっす、こちらとしても何かあったときのアジャルタさんの火力は有難いっすからね。お願いするっす」

「ええ、えぇ。こちらこそお願いね、オバさんまだまだ素人だけど張り切っちゃうわよ」


 だからこのオバちゃんの張り切ると言うワードはロクなことにならない。

 しかし、冒険にでなけりゃ話は進まない。

 マーシャが再びアンジェリカに話しかける。


「アジャルタさん、明日またギルドに来てもらえないっすかね? ボクの仲間を紹介するっすよ」

「わかったわー、オバさんもリヴァイアさんを連れて行くわねー」

「我、ずっとここにいるのだが?」


 魚の尻尾ささやかに自己主張。しかし誰も気にせず。


「そんじゃ、また明日ッス」

「ええ、気をつけて帰るのよ」


 思いがけないマーシャとの再会、そして冒険の誘い。というか一攫千金のチャンス!

 オバちゃん運は良いんだよな、この世界に宝くじあったら、高確率でそこそこの金額当てるくらいには運がいいはずだ。


「それじゃ、オバさん達ももどろうかね」

「うむ、しかし思いがけない所で運に恵まれたな」

「日頃の行いね」

「……え?」


 こうしてマーシャとの再会の日は幕を閉じるのであった。


「あら? 今日はお仕事受けそこなったわねぇ」

「……ま、いいんじゃないか?」


 明日へと続く。

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