13話 魔女の迷宮
迷宮の入り口に二人の魔女が立っていた、どうやら門番といったところだ。
マーシャが代表で門番に通行証を見せる、見張りの魔女が通行証を確認する。
「ああ、貴女方が特別クラスの……そうすると特別迷宮の方ね」
見張りの魔女たちは意味深に笑う。それを見たルーシアは。
「うぅ、この場合の特別って絶対に良い意味じゃないですよね」
「そうねぇ、やはりハードモードって意味じゃないかしら? オバさん達優秀だと思われてるのかもね」
「うーん、私が冒険者の方と同じ迷宮探索に出ることになるなんて」
「諦めて頑張りましょ」
最後まで嘆いているルーシアとそれを鼓舞するアンジェリカであった、少しするとマーシャがアンジェリカたちの元へとやってきた。
「よーし、皆さんそれじゃあ行くっすよ」
マーシャが先頭に立って迷宮へと入っていく、その後から皆が付いていく。
――
――――
迷宮内部は割と明るく壁には松明がかかげられていた。魔女の手が入っているらしく迷宮とはいえそれなりに清潔に見える。
「あら? 思ったより迷宮って綺麗なのねぇ。オバさんもっとジメっとして暗い所だと思ってたのよ」
アンジェリカが迷宮内部の感想を呟いた。
「天然の洞窟ならそんな感じっすよ。しかしここは人工の迷宮っすからね、少なくとも天然のダンジョンよりは綺麗だと思うっす」
アンジェリカの呟きにマーシャが答えた、そして少し進むと行き成り道が左右二つに分かれていた。
「あ、ここは左に行くっすよ、左が特別クラス用のエリアらしいっすよ」
「そうなの? 迷わなくていいのなら助かるわねぇ」
マーシャとアンジェリカは躊躇うことなく左へと進む。
「え? そんな躊躇うことなく進んじゃっても大丈夫なんですか?」
ルーシアはガタイの割には小心者なためか、おっかなビックリでマーシャとアンジェリカに声をかける。
「大丈夫じゃないかしら? マーシャちゃんに道順を教えたと言う事は、このフロアに関しては道を教えてしまっても構わない作りってことだと思うのよねー。試験という事も考えればここには罠も無ければ魔物もいないと思うのよね。むしろ間違って一般のフロアに向かわれる方が困るんじゃないのかしら?」
このオバちゃんたまに鋭い。
「そっすね、ボクもそうだと思うっス。まあここはただの入り口、注意すべきは次のフロアからっすね」
経験者のマーシャもアンジェリカと同意見のようだ。
「そういうものなんですか?」
「そんなもんっスよ」
「うあぁぁ、かかいだんん」
ヴィヴィアンが階段を指さした、そこには上に向かう階段があった。階段は細くその幅は一人がやっと通れるほどの幅しかなかった。
「いやー、なかなか嫌らしい作りの階段ッスね」
マーシャは階段一つ見て感心していた。素人からすると何が嫌らしいのか、ぱっと見では分からない。
当然ながらアンジェリカもルーシアも何故? といった表情だ。
「その階段の何が嫌らしいのかしら? オバさんには普通の階段に見えるのだけど」
アンジェリカがめずらしく普通の疑問を口にしていた。
その疑問に対してマーシャが答える。
「そうっすねぇ、細い所ッスね。広い階段なら皆で一気に登れるんすけど、こう細いと一人一人しか昇れないッスよね?」
「そうね、子供ならギリギリで二人は昇れそうだけど」
「この細さが厄介なんスよ。一人づつ昇ってる所もし階段の上で敵が待ち伏せしてたら、どうなると思うっすか?」
「あらぁ、それは一人づつ狙われることになるわね……」
それは大変、そんな反応をするアンジェリカ。
「そんなわけで、まずはボクが登って様子を見るッス」
言うが早い、マーシャは槍の柄を捻り回すと柄の部分が半分に分かれた。そして下半分の柄を腰に止めると上の部分だけを構える。
「マーシャさんの槍って二つに分かれるんですね」
「狭い場所で槍なんて振り回せないっすからね、この槍は特注品でその辺りの事も考えてるっすよ」
「なるほど」
ルーシアが感心してる間にマーシャは階段を素早く駆け上がっていく。
やる事のないアンジェリカとヴィヴィアンはジャンケンをしていた。
――
――――
そしてそんな様子を見ている影があった。
「我が主は何をしてるんだ?」
「ジャンケンだねぇ……」
水晶を通して、メルリカ婆さんとリヴァイアサンが様子を見ていた。
メルリカ婆さんの使い魔の一匹が試験に同行しているのである、一応何かあったときのための保険ではあるが実際は見てるだけである。
水晶には階段を登り少しだけ頭を出すと周りを確認するマーシャが映っていた。なんかこの娘が主人公みたいだ、だが残念なことに主人公はジャンケンしているおばさんである……
「マーシャはやはり経験者と言う事もあり、優秀だね正直この娘がいなけりゃこの試験はもっと難易度を下げるとこだったよ」
「しかし、何故迷宮探索が試験なのだ?」
リヴァイアサンのもっともな疑問である、魔女のイメージ的に迷宮探索とは結び付かない。
「まあ、昔は筆記試験だったんだがね。いつからか知識だけあっても生かせなければ意味が無いって事になってね。今の時代は知力、体力、時の運もなけりゃダメだって事になってね、この試験が採用されることになったんだよ」
「なるほどな、知識だけではダメか確かに」
それで迷宮探索が試験になったのは突飛だが、言ってることは分かる理由であった。
――
――――
さて、ところ変わって。
マーシャが辺りを見回しても辺りには何も見当たらない、うなずくとマーシャは階段下にいるメンバーへ上に登るよう指示する。
「アジャルタさん、ヴィヴィアン。マーシャさんからの合図です階段を登りましょう、私が最後に行きますので先にどうぞ」
「はいはい、オバンファーストってヤツね、では先にいかせてもらうわね」
そんなファーストは無い。
下らないオバさんジョークを言いながらアンジェリカは階段を登っていく。
アンジェリカに続いてヴィヴィアン、ルーシアの順で階段を上がる。
「えっと次は私の出番ですね」
ルーシアが手を叩きその後両手を広げると音が鳴り響いた。
ルーシアが使った音の魔法、そんなんいつ覚えたんだよ? と思うがそこは割合、語られて無い日常にも色々あったんだよ。
「この周囲には生体反応は無いですね」
蝙蝠やイルカが音波で周囲を探るのと同じような感じの魔法である。
「本当に便利な魔法っすね」
「そうねぇ、便利な魔法ねえ。オバさんも覚えてみようかしら?」
マーシャとアンジェリカはルーシアの使った魔法を感心してみている。
「この魔法簡単にでも使えると便利っすよね」
「えぇ、この魔法があるとどこに油黒虫が潜んでるか分かるものね」
「油黒虫基準なんすね……」
あの黒光りする虫は、この世界でも人類の天敵なのである。
慎重に探索を重ねていく一行、細い道を進むと目の前に広めの部屋が出てきた。
しかし何もなく先には進めないようだ。
「この先に何かがいますね、モンスターでしょうか? 数は五体くらいだと思います、すいません完全な数は分かりませんので」
「油黒虫かもしれないわよー」
「油黒虫なら楽っすよ、しかし五体っすか……」
マーシャは槍を一本に繋げなおすと慎重に進んでいく。ルーシアの魔法では何かがいることは分かっても、それが何かまでは分からないようだ。
「あー、一応聞くっすけど皆さん戦闘経験は?」
「な、ないですよ」
「なーいー」
「オバさんにそんなものあるわけないじゃないのよ」
「ですよねー」
マーシャ以外はズブの素人。ここでマーシャの心配事は彼女だけで皆を護って戦えるか? そんな心配であった。
「護衛任務は何度かしたことあるっすけど、ボク一人で三人を守り切れるかは分からないっすよ、最悪逃げてくださいっすね、この試験やっぱ難易度おかしいっすよ」
マーシャが全員にそう告げる。
しかしアンジェリカは何故か胸を張ってマーシャに言った。
「大丈夫よマーシャちゃん、いざとなったらオバさんも戦うわよー、攻撃魔法は覚えているものね」
当然根拠のない自信である、これはオバちゃんというかアンジェリカの性格なのだろう、たまにいるよね何故か根拠のないのに自信のある人。
「あの魔法は勘弁してほしいっすよ……」
マーシャは苦笑いで答える、あの魔法とは攻撃魔法訓練の時のアレである。
「おそらくは戦闘になるッスよ! 覚悟してくださいっす!」
マーシャは戦闘を覚悟で大部屋へと向かった。
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