5話 授業二日目

 ゴーンゴーンと、寺の鐘のような音のチャイムが鳴り響く。

 教壇に立ったメルリカ婆さんが、教室にいるメンバーを順番に見ていく。


「はい皆揃ってるね? 出席とろうと思ったが。このクラスあんた等しかいないから、ぱっと見で揃ってるってわかっちまうから、出席とるのは無しな」

「そっスね、四名しかいないですもんね」

「出席無しなの? 残念ね」


 出席を取ることなく本日の授業が始まった。


「えー、それじゃあ今日の授業だよ。今日の授業はある意味魔女の代名詞的なモノを作ってもらう」

「魔女の代名詞?」

「何なんスかね?」

「コイツさ」


 アンジェリカとマーシャが何かと話すと。メルリカ婆さんが、とあるモノを取り出し持ち上げる。


「ふむ、なるほどな。まあ、我には関係のないものだが」

「なるほどね、確かによく見るわね」

「ああ、確かに」


 そう、箒だ。

 魔女の代名詞といえるマジックアイテム、空飛ぶ箒だ。


「コイツを作ってもらうよ、こいつは箒じゃなくても棒状の物ならほぼなんでもいけるからね。最初に棒状の物を持って来てもらったろ? ソイツで作ってもらうよ」

「……」

「……」


 メルリカ婆さんが棒状の物で作ると言い出した、そして沈黙するアンジェリカとマーシャ。


「あの持ち物ってそういう意味だったんスね……書いておいてほしかったっス」

「オバさん素直に箒もってこればよかったわー」


 何やら項垂れる二人であった。マーシャの前には槍、アンジェリカの前には釣り竿が置かれていた。

 だがもっと剛の者がいた。ヴィヴィアンである、彼女の前にはなんと『卒塔婆』が置いてあった。


「でも、ヴィヴィアンよりマシっすね」

「そ、そうね。アレって確か卒塔婆とかいう東方の一部で使われてるヤツよね」

「そうっスね、確かお墓に立てる死者の名前が書いてあるヤツっす」


 この世界には仏教とよく似た宗教が存在するのである。その宗教にもストゥーパと呼ばれる建造物がありそれを模して作った板を卒塔婆、板塔婆と呼ぶのであった。


「ある程度の長さがありゃなんでもいいんだよ。とは言うものの卒塔婆は流石に私も勘弁だねぇ。ヴィヴィアンほかに何か無かったのかい?」


 メルリカ婆さんに言われてヴィヴィアンはもう一つ何かを取り出したが……また卒塔婆であった。


「うぅぁあ」

「……まあ、アンタがそれでいいならいいよ」


 ヴィヴィアンは卒塔婆でやるようだ、メルリカ婆さんは空飛ぶ箒の説明に入る。


「さて、こいつは魔女ならそこまで難しい魔法じゃない。便利な割には入門編の魔法さ」

「簡単とは言いつつ、出来ない子もいるのかしら?」


 アンジェリカがメルリカ婆さんが簡単と言う言葉に疑問をぶつける。メルリカ婆さんもその疑問にフムと唸った後に答えた。


「私が見てきた中には出来なかったって子は見た事無いね。時間がかかった子はいたけどね、やはり得手不得手はあるからね、その子は魔法の箒を作るのに三か月かかってたね、たいていの子はその日の授業中に出来るモンなんだけどね……かといってその子が落ちこぼれだったかというとそんなことは無かったので安心しな」

「あら? そうなるとその子は別の分野で優秀だったのかしら?」

「ああ、そうだね攻撃魔法に関してはとても優秀だった子だよ。まあ、その子は戦争でおっちんじまったけどね」


 メルリカ婆さんは遠い目をしつつ、何も無い所を見ていた、昔を懐かしんでるようだった。


「戦争ってあの中央戦争ッスよね? もう六〇年以上前の話っすよね?」

「そうねぇ、オバさんが産まれる一〇年以上前の話よ」

「まあ、私も教師歴七〇年だからねぇ、色々あったんだよ」


 超ベテラン教師のメルリカ婆さんであった。さて、メルリカ婆さんの空飛ぶ箒を作る授業が再開される。


「さて、箒に魔法の刻印をつけるだけの比較的簡単な魔法なんだが、この刻印を間違えるととんでもない事故につながるから注意するんだ、刻印の詳しい仕組みはまた後日だよ、まあ空飛ぶ箒に関してはここに用意したお手本を見て刻んでもらおうかね」


 そういってメルリカ婆さんは見本の紙を人数分用意しており配っていく。人数分、そう何故かリヴァイアサンにも配る。


「待て、我は魔女ではないぞ、魔女の刻印は魔女でなければ刻めぬはずだが」

「おっと、すまないね。アンタの言う通りだ……最近はボケてきちまったのかねぇ」


 そしてメルリカ婆さん指導の下、箒作りが始まった。刻印の模写を苦労しながら進めるマーシャとヴィヴィアンだがアンジェリカは自分で勉強していただけあって、割と慣れたものだった。


「んー、ここのアレンジが上手くいかないのよね」


 そしてやはり勝手に謎のアレンジを入れていた、アンジェリカは何故か謎のアレンジをやたら入れたがる、しかしそれで何故か失敗が少ない辺りが、アンジェリカのある意味で凄い所であった。


「何故アレンジを入れるんだい?」

「何となくよー何となく」

「で、何が起こるんだい?」

「さあ?」


 本当に何となくで行動するオバちゃんだ。このオバちゃんの行動の六割ほどが何となくで出来ている。

 そして更に時間は過ぎ、午後の授業へと入っていく。


「どうだい? 大体できたかい?」


 メルリカ婆さんが全員に対して尋ねる、アンジェリカとマーシャは終わってるようであった、しかしヴィヴィアンはまだのようだ。


「うぅ、あぁあ」

「まあ、まだ時間はあるしゆっくりやんな。ゾンビのアンタじゃ覚えるのに倍の時間はかかるだろうからね」


 そしてヴィヴィアンにも丁寧に教えるメルリカ婆さん、教師歴七〇年は伊達ではない、実に解りやすいのだ、しかしヴィヴィアンは脳も死んでいるので理解が遅い。

 そして更に少し時間が経った頃、どうやらヴィヴィアンも刻印できたようだ。


「よし、一応全員できたようだねぇ。それじゃあ今から試しに飛んでみようじゃないか」

「「おー」」


 さて、こいつ等が本当にマトモに飛べるのだろうか? 次回へ続く。

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