3話 午前の授業

 ゴーンゴーンと鐘の音が鳴る。この音わかりやすく言うと、あなた方の世界で言うところ、お寺の鐘の音に近い、これがこの学校のチャイムだ。


「なんといいますか、独特な鐘の音ねぇ」

「そっすね、以前年末に依頼で東方に向かった時に聞いた、ジョウーヤの鐘ってヤツに似た音っすね」

「ほほう、ジョウーヤの鐘か我も聞いたことはないが、このような音なのか」


 アンジェリカにマーシャとリヴァイアサンが、今のチャイムについて話していた、鐘の音は何故かこの世界でも年末に鳴るようだ。

 そして再びメルリカ婆さんが教壇に立つと、授業の開始を宣言した。


「よーし、それじゃあ。授業を始めるよ。ちなみに教本なんてものは無いからね、しっかりついてきなよ」


 教科書、そんな軟弱な物は存在しないハードな学校である。

 そして最初はお約束の座学のようだ、やはり基礎知識は重要だね。


「さて、お前さん方は魔女についてどれだけ知っている? マーシャ答えてみな」


 メルリカ婆さんが周りを見回しながら問いを口にし、マーシャを指名する。


「普通の人より魔力の高い人のことッスか?」

「五〇点の答えだね、アジャルタは?」

「五〇点かぁ」


 次の指名はアンジェリカである、多分碌なことは言わないだろう。


「んー、そうねぇ。女の人かしら?」

「……一点、間違えちゃいないが、魔女って呼ばれてりゃ女なのは当たり前だろ、魔女で男なんていたら嫌だよ。それじゃあ次はヴィヴィアン」

「うぁ……女の……人」

「あんたも同じ答えなのかい! そうじゃないってさっき言ったばかりだろ」

「……」


 思った答えが全く出てこないようで、うーんとうなるメルリカ婆さんであった。


「リヴァイアサンあんたはどうだい?」

「む? 我に答えろと?」

「ああ、魔女とは?」


 リヴァイアサンは腕(?)を組むと、ふむと唸ってから答えだした、魚の尻尾が勿体ぶりやがって。


「魔女か、我も詳しくはないが。そうだな、真祖である魔女『最初の魔女』の末裔である『純種』と、何らかの理由で後天的に魔女になった『異種』と呼ばれる二種類が存在する、魔力の高い亜人であると記憶している」

「概ね正解だよ。アンタ、本当につまらない答えを言うね」

「何故、正解して文句を言われないといかんのだ?」


 世の中は理不尽であふれている。そんな理不尽の洗礼を受ける魚類ことリヴァイアサンであった。


「リヴァイアさんは物知りね」

「見た目はアレっすけど物知りっすね」

「うぅぁ」


 アンジェリカとマーシャは感心していた。ヴィヴィアンはよくわからん。

 メルリカが説明を開始した。


「さて、そこの魚の尻尾の言う通り、魔女ってのはね実はエルフやドワーフといった亜人に属するんだよ、見た目は殆ど人間だし九割九分は人間と言っていい、しかし魔力の流れだけは人間とは違い殆どの魔女が人間より高い魔力を有する」

「先生いいっすか?」


 マーシャが疑問に思ったことがあるようで手を挙げて質問する。


「なんだい?」

「最初の魔女ってどうやって誕生したんですか?」

「そうだね言い伝えでは、人間の男に恋した女神が人間に成ろうとしたんだよ、しかし完全に人間には成れなかったため、人間に近い魔女という新しい種になったと言われているね」

「はー、そうなると私達は女神の末裔って事になるんスね、だから魔女は基本的に高い魔力を持ってると」


 割とありふれた言い伝えである。ん? ありふれたとか言うなって? いや、ありふれてない? まあ、いいけど。


「そうなると、オバさんは女神の末裔じゃないってことなのね? 残念」

「何百年も前の話さ、この言い伝えだってどこまで本当か分からないからねぇ。さて続きといこうか」


 婆さんの説明話は長いので、掻い摘んで伝えると。

 この世界の魔女には二種類が存在する、『最初の魔女の末裔となる純種』そして『何らかの方法で後に魔女となる異種』生い立ちは違えども魔女である。


 そして魔女とは基本的にほぼ人間と一緒ではあるが、人間の倍近い寿命があり魔力量も基本的に人間より高い事から亜人に属する事。

 魔女は普通に魔法も得意であるが、魔法の道具を作ることにも長けた種であること。

 これだけの事を午前中ずっと話していたのであった。


「よし、それじゃあ昼食後にアンタたちの魔力値でも計ろうかね」

「あらあら、魔力値を計るんだって楽しみねぇ」

「主はかなりの魔力があるはずだぞ」

「まあ、続きはあとだよ。昼食は食堂があるんでそこで済ませな、では一時間後に授業再開だからね」


 そういうとメルリカ婆さんは教室から出ていった。

 そして昼食時間である、魔女学校に給食なんてものはないのだ。


「オバさんお弁当持ってきてないわね」

「あー、ボクも食堂で買うことになるっすね」

「……ううああ、弁……当ある、しょくどうで食べる」

「あら、では皆さんで食堂にいきましょうかね」


 どうやら全員でランチのようだ、リヴァイアサンも一緒についていくようだ。

 そして、案内板を見ながら食堂へと向かう一行、周りはやはり子供だらけであった。


「ほんと、小さい子ばかりね」

「そうっすね、ボクの年齢での覚醒が遅いらしいっすからね」

「そうだな、魔女は基本的には七歳から十歳の間に覚醒することが多いと聞く、十五となるとかなり遅い方だろうな」

「ほんとリヴァイアさんは物知りね」

「お前たちよりは、よほど長い時間を生きているからな」


 食堂へとたどり着くとまずは席を確保する一行。ただ思ったほど食堂は混んでいなかった、どうやら子供たちは外で弁当を食べている子が殆どのようである、元気なのは良い事である。

 ヴィヴィアンを席に残し残りの三名は食事を買いにカウンターへと向かった。


「あら、メニューはあまり種類が無いのね」

「まあ、仕方あるまい」

「しかも割と子供でも大丈夫なメニューっすね」


 三名はパンとスープにハムエッグのセットを購入していた。

 席に戻るとヴィヴィアンが生肉に噛り付いているという、何とも言えない光景を目の当たりにした。


「あら、ヴィヴィアンお行儀よく食べないとだめじゃない」

「にく……うま」


 首の角度を四十五度ほど傾けながら素手で肉を貪るさまは、まさにホラー映画のワンシーンのようだった。

 そして行儀よくと言ったアンジェリカは、ヴィヴィアンにフォークを持たせた。


「手で鷲掴みはダメよ」

「ああぁ」


 首を傾げつつフォークで肉を突き刺し……やはり貪り食う、それを見たアンジェリカは満足そうにして頷いていた。


「手で鷲掴みじゃなかったらいいんすかね?」

「知らぬが、そうなんじゃないのか?」


 二人の様子を見ながら、昼食をとるマーシャとリヴァイアサンであった。

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