2話 オバ魔女とクラスメイト

 出迎えの魔女に教室へと案内されたアンジェリカ。


「ここがアジャルタさんのクラスとなります」

「はいはい、ご苦労様です」


 オバちゃん何故か『はい』が多いのである。

 案内の終わった魔女は職員室に戻ると言い去っていった。


「あの人は本当に案内だけなのね、そうすると私の担任は別にいると言う事ねぇ」

「とりあえず、入ってみればわかるだろう」

「それもそうね」


 アジャルタが教室に入ると既に人がいた。

 女性だ……魔女だから女性なのは当たり前だね!


 歳は大体一四か一五歳くらい、後ろ髪は肩より少し下まで伸びており、髪を左側で束ねておりサイドポニーにした青い髪の少女だ、瞳の色はエメラルドグリーンの可愛い顔した、活発そうな少女である。

 少女はアンジェリカに気付くと笑顔で挨拶をした。


「おはようございまッス。貴女が先生っすか?」

「あらあら、おはよう。オバさんも今日からここの生徒ですから、貴女のクラスメイトになるわね、よろしくね」

「生徒さんっすか? 宜しくお願いするっス。えーと、それでその後ろにいる魔物はなんスか?」


 少女はリヴァイアサンを見てそういった、魔物がいるこの世界でも魚の尻尾から魚の尻尾が生えてて、串の足とワカメの手を持つ存在は異様であったようだ、ぶっちゃけ夜中に会いたくはない。


 少女がリヴァイアサンの事を尋ねた瞬間、また扉が開いた。

 今度は老婆が入ってきた、いかにもといった格好をしている、黒いフードのついたローブを着ている、そして先端がくるっと巻いたような形の杖を持っていた。


「ひぇっひぇっひぇ、そろってるようだねぇ」


 しわがれた声に鋭い眼光の老婆、鷲鼻のザ・魔女な老婆が教壇に立った。


「あら? メルリカさんね? 私の担任はメルリカさんかしら?」


 教壇に立った魔女を見てアンジェリカが声をあげる。


「よく来たね、アジャルタ」


 老婆はそう言うと、教壇から改めて生徒と向き合うと名乗った。


「さくっと挨拶しようかね。私は『メルリカ・ウルノーモ』あんたたち三人の担任になる、よろしくねぇ」

「「三人?」」


 メルリカ婆さんの言葉を聞いて、アンジェリカと少女はリヴァイアサンの方を見る。


「いや、我は魔女ではないぞ」


 ワカメの手を振って否定する、その割には席に着いているリヴァイアサンであった。


「ひぇっひぇっひぇ、アンタじゃないよその横にいるだろ」


 アンジェリカと少女、リヴァイアサンの三名がメルリカ婆さんが指さした方を見た。そこには人が横たわっていた。

 しかも横たわった人物は明らかにおかしい、寝ているにしても何かがおかしい、胸が上下していないのである、そう明らかに呼吸していなかった。ぶっちゃけ死体にしか見えない。この教室、死体が転がってるは変な魚の尻尾はいるはと、カオスな空間になっていた。


「あらー、なになに。死んでるじゃないのよ、流石にオバさんもびっくりよー」


 あまりビックリしたようには見えない、割と余裕のあるアンジェリカである。

 少女もあまりビックリはした様子が無かった、慣れてるようだ。魚の尻尾も以下略。


「ヴィヴィアン! いつまで死んでるんだい。ホームルームはじめるよ!」


 なんか無茶苦茶言ってるバアさんである。

 しかしバアさんの言葉に反応した、ヴィヴィアンなる死体は起き上がり椅子へと座る。


「さて、それじゃあホームルームを始めるよ」


 パンパンと手を叩きホームルームの開始を宣言するメルリカ婆さん。

 教壇に立つと、メルリカ婆さんは三名と一匹を交互に見る。


「よし、それじゃあ改めて自己紹介といこうかね。先ほども名乗ったけど私はメルリカ・ウルノーモだよ、魔女になってもう百年になるね、まあ一年間よろしくね」


 メルリカ婆さんは自己紹介を終えると一番右に座っていた少女の方を見る、すると二回ほど頷く。

 そしてアンジェリカ、リヴァイアサン、ヴィヴィアンの順に見てから口を開く。


「よし私から見て右の一番若いのから、順に自己紹介しておくれ」


 メルリカ婆さんがそう言うと、アンジェリカが口を開いた。


「あら? じゃあオバさんからね」

「アンタじゃないよ、一番若いのって言ったろ」


 おばさんジョークだ、しかし若い若くない関係なしでお前は一番右に座ってない!


「あら? あらあら」


 何があらあらだ。少女も苦笑いしてるじゃないか。

 さて、指名された若いのがすっと立ち上がると自己紹介を始める。


「ボクは『マーシャ・アストリット』十五歳になったっス! ここに来るまでは冒険者として生計を立てていたっス、多分この中では一番の若輩の身ではありますが魔女としてのご指導ご鞭撻よろしくおねがいするッス」


 元気よく挨拶をしたマーシャ、元気なのは良い事だ。

 話し方から察するに、やはり活発な娘のようだ、服装も動きやすそうな短パンに革の胸当てが付いている、胸当てのサイズからして年齢の割には御立派なモノである。あと、多分じゃなくどう見てもお前が一番若輩者だよ。


「若いっていいわねぇ、元気があって」


 オバちゃんは若い子を見ると、何故か悟ったようなセリフを吐く。


「ひゃっひゃっひゃ、私からするとアンタも十分若い方さ」

「やだ、若いですってもー」

「あ、あはは……」


 ババアどもの戯れに、マーシャが苦笑いを浮かべる、なんというか若い子にはこのノリはキツイようだった、実際この手の会話って返しが難しいよね。


「さて、わたしは『アンジェリカ・アジャルタ』よ、オバさんだけど同じ学年ですもの好きに呼んでもらって結構ですよ。暇だったので魔女になったらここに来ることになりました、よろしくね」


 自己紹介はシンプルにネタを挟まないのがアンジェリカである。アンジェリカの自己紹介があっさり終わると全員の視線がリヴァイアサンに集まる。


「ん? なんだ我もか? 我は魔女ではないぞ」

「いいから自己紹介おし」

「わ、わかった」


 リヴァイアサンがメルリカ婆さんに睨まれ自己紹介を始めた。


「我はリヴァイアサン、海の大悪魔である。今はアジャルタの使い魔をしている、よろしくたのむ」


 何故かこういう時だけ無難なリヴァイアサンとアジャルタ。絶好のボケタイミングなのにねぇ。


「見た目はインパクト大なのに、無難な挨拶だね」

「別に良いではないか、あとこの外見は我のせいではないからな」

「オバさんもまさか、こんな姿で召喚できるとは思わなかったのよねぇ」


 色々と適当なアンジェリカである。そのせいで見てくれはどう見てもバケモノでしかないリヴァイアサンであった。そして最後の一人の紹介となったが……コイツ喋れるのか?


「……あぅ……あ、ヴィ……ヴィアン」


 ヴィヴィアンは明るめの紫色の髪をツインテールにしている、服装はシャツにオーバーオール、顔立ちは悪くないが、茶色の瞳は濁っており顔色も悪い……まあ、死体だし仕方ないね。

 首が斜め四五度傾いたままで喋るヴィヴィアン、そしてそれだけを言うと机の上に倒れた。


「いやー、すごいところに来ちゃったんじゃないのかなボク?」


 まあ、魚の尻尾にゾンビとオバちゃん、確実に普通じゃない場所ではある。


「よし、本来魔女学校は三年だが、あんたら特別学級は一年となってる」

「あら、何故特別学級は一年なのかしら?」


 特別学級は一年で卒業のようだ、そしてそれが何故かとアンジェリカは質問する。


「あー、最初の一年はね。魔法や魔女のことよりも、文字の勉強や計算などが中心だからだよ、魔女の子供たちは殆どがこの村で過ごすからね、外にでるにしても社会勉強は必要だからね、そして二年目から外の国で生活するにもその常識の勉強、三年目で魔女の魔法の基礎や応用を勉強するのさ」


 人の世に出るには、人の世の常識を知らないとダメってことだね。


「しかし、あんたらはしばらく人間の世界で生活してきてるからね、一年目と二年目の授業は飛ばしても問題ないと思うから、魔女についての三年目の授業だけのプログラムになってるんだよ、だから一年だけって事さ」

「なるほど、わかったわ」


 原付免許を持っていると、自動車免許取得において一部授業が免除されるのと同じような理由であった。


「よし、紹介は終わったようだね。休憩をはさんでから最初の授業といこうかね」

「いよいよ授業なのね、オバさんわくわくしちゃうわね」


 こうしてアンジェリカの学園生活が始まるのであった。

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