職業を確認しよう
そんなこんなで、街を出たところで改めて自己紹介をすることにしたんだ。
だけどこの二人、色んな意味で規格外で……。
「それじゃあ改めまして。僕はヒュウって言います。ジョブは見ての通り
ぺこりと頭を下げ自己紹介すると、相も変わらず無表情の美少女が平坦な声でそれに続いた。
「リリ。職業は
「えっ、
サポート職だったとは意外。そんな雰囲気を察したのか、つば広の魔女帽子をグイッと上げた女装男がニヤリと口の端を吊り上げた。
「ははっ、見るからに使いそうだよなぁ。呪いとかの暗黒魔法。清楚なイメージの
いや見た目詐欺なのはアンタもだ!
「あの、それであなたの職業は…………」
「見りゃわかんだろ」
わかんないから聞いてんだろ! なんだよ魔女ローブ来た男の職業って!
「俺はヴェルナー。魔女だ」
「そのまんまだったー!! いやいやいや! おかしくないですか!? 魔女って女性専用職でしょ? 男ならウィザード!」
「まぁそれには深い事情があってだな」
「事情?」
思わずツッコミの手を緩めると、横で聞いていたリリさんがどうでも良さそうにしれっと言った。
「呪われてるのよ、そいつ」
「の、呪い?」
「仕方ない、そこまで言うのなら聞かせてやろう」
「はぁ」
別にそこまで聞きたいわけじゃないんだけど。っていう視線もお構いなしに、ヴェルナーさんは語りだした。
「あれは確か俺が3つの時だった……自分で言うのもなんだが小さい頃の俺はそれはもう天使のような愛くるしさでな、毎日のように知らないおっさんに誘拐されかけてたんだ」
「天使ぃぃい?」
ヤバい、初っ端からツッコミどころ満載だ。話が進まないから我慢我慢……。
「でだ。誘拐される度に撃退してたわけだが、さすがに本物の魔女には敵わなくてな、ある日いきなり空からやってきた魔女に誘拐されちまったんだ。で、そのまま山の頂にある隠れ家まで連れ去られた。魔女は弟子が欲しかったらしく、俺に無理やり魔女ローブを着せた、その時に俺が男だと気づいたらしい」
「間違えるかなフツー、それでどうなったんです?」
「男なら要らないと崖の上から捨てられた」
「うわ」
「いやあの時は参ったぜ、クマには襲われるわ食料はねぇわ、ふもとに降りたところで家はどっちか分からねえし」
「苦労したんですね、ヴェルナーさん……」
そんな事情があったなんて……と、同情的な視線を向けていると、彼は真顔でさらなる悲劇を語った。
「いいや、本当の苦労はそこからだった。着せられた魔女服はどうやら一人前の魔女になるまで脱げない呪いがかけられていたらしく、他の服を着よう物なら一目散に飛んで来て俺を絞め殺そうとするんだ」
「こわっ!!」
思わず反射的にのけぞると、道端の石に腰かけていたリリさんがのんびりと言う。
「普通なら婚約者に渡す指輪とかネックレスにかける呪いよね」
「いやそれも何かおかしい!」
「とりあえず
「それで仕方なく魔女に……」
なんとなく同情してしまう境遇にしんみりしていると、ヴェルナーさんはバッと身構えた。それと同時に遠吠えのような声がすぐ近くの森から聞こえてくる。
「敵だ!」
「えっ、うわっ」
少しも慌てた様子のないリリさんが、道端から突然現れた集団を一瞥して冷静に状況を告げる。
「ハウンドウルフが5匹。後ろに居る一回り大きいのがリーダーね、少し厄介かも」
「おおお二人は後ろに下がってて下さい! ここは
こここ、後衛職であるお二人を守るのは
うわぁあぁ、でもショートソードがカチャカチャ音を立ててる。落ち着け僕! 初めての戦闘だぞ!
その時だった、彼が横をすり抜けて飛び出していったのは。
「行くぜオラァ!!」
「ヴェルナーさん!?」
「っしゃああ、支援スキル発動! ストラウォイド!」
シュゥゥンと音がして、螺旋の光が彼の体を包み込む。
力強く踏み込んだヴェルナーさんは、敵の群れの中に突っ込んでいった。
「でやァァア!!!」
ボコーンだの、ドカァァァだの、重たい破壊音が辺りに響く。
僕は剣を構えたまま思考停止していた。横からリリさんがのんびり進み出てくる。
「こ、これはどういう……」
「あの男、うちのギルドじゃ有名よ。釘バット持って殴りかかるウィッチだって」
「釘バット? あっ、ホントだ! あれ杖じゃない!」
ヴェルナーさんが振り回してる太いこん棒には、やたらトゲトゲしたオプションが付いていて、申し訳程度にラブリーなリボンが結ばれている。……っていうかそれでセーフ判定なの!? 案外ガバガバだな装備制限、リボン血染めってるよ!?
「バフって知ってる? スキルで能力を一時的に底上げすることなんだけど、あの魔女はそれを利用して戦ってるの。魔女という職業でありながら攻撃魔法は一切使わず、強化スキルと己の肉体のみで敵を完膚なきまでに叩き潰す。それがあの男の正体よ」
「それもう魔女じゃない!」
「ついたあだ名が『特攻バフ野郎』」
「色々とひどい!」
「本当はその後に(笑)が付いてたのに……」
「つけたのアンタか!!」
「てめェで最後か……吹き飛べっ!」
そうこうしている間に、もう決着はついたみたいだ。
カキーンと気持ちいい音が響いて敵が空の彼方に吹っ飛んでいき、戦闘が終了する。
「ってて、案外素早かったな……」
「終わった……僕の初めての戦闘何もしないで終わった……」
戻ってきた彼を見て、放心状態になっていた僕は我に返る。
「って、あぁっ、血が出てるじゃないですか!」
「あ? こんなんかすり傷だろ」
「ダメです治療しましょう! ヒーラーさん!」
「呼んだ?」
「治癒魔法おねがいします!」
HPは極力に満タンに保つべし。冒険者講座でも習う基礎中の基礎だ。
さぁリリさん、お願いします。実を言うと僕、治癒魔法って見るの初めてで、ちょっとワクワクして、
「…………ムリ」
「は?」
「私、治癒スキルもってないもの」
「はぁぁぁ!?」
「何よ、文句ある?」
「アンタ僧侶でしょう!?」
とんでもない事実に愕然としていると、隣で腕を組んだヴェルナーさんが豪快に口を開けて笑い出す。
「だはははっ!! あの噂は本当だったのか。僧侶のくせに治癒の一つもできねぇポンコツがいるってのは」
「あの、じゃあリリさんは何ができるんですか?」
「私のスキル?」
「なるほど、だから今まで他の冒険者に寄生してたわけだ。こりゃ傑作――」
ゲラゲラと笑っていたヴェルナーさんに向けて黄色の光線が吹っ飛んでいく。硬直した彼は板切れのように顔面からバターンと倒れた。
「ぐは!?」
「ヴェルナーさん!?」
「し、しび、しびびび……」
指先に宿らせた黄色の光を眼前でスゥっと引き切り、リリさんは一定のテンションで申告してくれた。
「私の特技は状態異常特化。敵を遅くしたり防御を下げたり、いわゆるデバフが得意」
「治癒は!?」
「しない、できない、する気もない」
「ヒーラーの看板降ろせよもう!!」
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