ローファー、弁償してね?

「すみませんでした。

 本当にすみませんでした。

 ほんっとすみませんでしたっ」


 頭を地面にこすりつけて、みっともなく僕はひたすらわめいていた。

 そんな僕の上から、凍り付くような冷たい視線が降り注いでいることを、ひしひしと背中に感じる。


 あの後、保健室に連行された僕は、こうして何度も何度も土下座をしているのだった。


「ふふふ、本当に無様ですね、童貞さん。

 でも、いくら童貞さんが土下座したところでぇ、許すわけないですけどねぇ。

 ねっ、澄那っち?」


 見えないけど、ベッドに腰かけて、目を細め、口角を最大限まで持ち上げているロリ高校生の顔が目に浮かぶ。

 思わず下唇を強く噛んでしまった。


「それで、この変態どうするの?魔衣まいちゃん。

 退学させるくらいする?」


 ヒュッと、喉から息が漏れたような気分になる。

 耐えきれずに、顔を上げて澄那さんを見る。


「そ、それだけは勘弁してください。

 それ以外なら、法に抵触しない限り何でも言うこと聞きますので、それだけはお許しを……」


 汚物を見るかのように顔をゆがませる澄那さんの横で、一層、意地悪なえくぼを深める合法ロリこと魔衣の姿に、やってしまったことを本能で察してしまった。


「なんでもって言いましたよね、な、ん、で、も、って言いましたよね?

 それじゃあ……」


 言葉を切って、どうしてだか、隣に座っている澄那さんの顔をちらりと見る。


「澄那っちと付き合ってあげてください、十格とかくゆきくん」


 これには、僕も、澄那さんも、はっ?、と思わず口をついて声を出してしまった。


「いやいや、いくら魔衣ちゃんの頼みでは、それはさすがにノーだよ。

 こんな屑人間の変態とは、絶対無理、生理的に無理」


「もー、澄那っち、今のは冗談だっよ。

 この変態さんが、思わず喜んだところをー、間髪入れず、『そんなわけないじゃないですかー、キモイですねー』って言うための布石ですよー。

 そうですよね変態さん、気色悪いですねー」


 二人の少女が、キャッキャッと笑い合ってるのに、何の目の保養にもならない。

 それどころか、ローファーで魔衣がズコズコと肩のあたりをテンポよく蹴ってくる。

 それでも弱みを握られている以上、耐えるしかない。


「まあ、そうですね、とりあえず、澄那っちの奴隷と言うことにしておきましょうか」


「奴隷でも、こんなのいらないよ?」


「まあ、そうは言わずに。

 購買に昼飯買いに行かせたり、荷物持たせたり、いつでもどこでも椅子にしたり、宿題やらせたり、財布にしたり、とか、いろいろ使いようはあるからね。

 あと、ボディーガードとかも」


 そう言うと、蹴るのをやめて、魔衣は僕の顔の前に足先を向ける。


「じゃっ、そういうことなので、誓いの証に、靴の先、犬みたいに舐めてくださいね?変態さん」


 軽く首を傾けて見下ろしてくる、魔衣から目をそらして、こぶしを握りながら一舐め、ローファーの先を舐めた。

 その瞬間、パシャパシャとカメラの連写音が、静かな保健室に響いた。


 みっともなくて見ていられなかったのか、澄那さんが顔をそむけるのが気配で分かった。


「あーあ、変態さんの唾液がついて、ローファー、汚れちゃったじゃないですか、もー。

 今度、弁償してくださいね」


 それじゃあ、明日からよろしくですと、二人が連れ立って保健室から出ていく。

 僕はといえば、膝をついて、二人が出て行ってから、両手で顔を押さえて嗚咽を漏らすより他にどうしようもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

公園で人生に絶望してたら、小さい女の子に罵られました 沫茶 @shichitenbatto_nanakorobiyaoki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説