本当に君は屑

 昼休み、渡り廊下で、窓から身を乗り出すようにして、僕はうなだれていた。


 午前中のオリエンテーションでの自己紹介でも、だれもペアを組んでくれず、昼食時、他のクラスメイトが机を寄せ合っている横で、詰め込むように昼食を食べ終え、そのまま、教室から脱出したのだった。


 まだ、同級生から蔑まれるだけなら、身を縮めるようにして、教室にとどまっていただろう。


 おそらく自分のせいで一人の生徒がトラウマを抱えて、学校を休んでいる。

 その事実に、自分がしてしまったことの罪の重さを感じて、どうしようもなく、なんて自分はダメな人間なのだろうと、頭を抱えた。


 予鈴が鳴るまでずっとその体勢のままうなだれていた。

 渋々、教室に戻ろうと振り返った途端、足が柔らかい何かにぶつかった。


「痛ったあ。

 こんなか弱い小さな女の子を足で蹴り飛ばすなんて、ほんと駄目な童貞さんですね」


 足元で尻もちをついて、こちらを見上げてくる少女の姿に、あっと思わず声が出た。

 それと同時に、昨日の公園での一部始終がフラッシュバックして、胃液が込み上げてきた。


「あはっ。

 その苦しそうな顔、いいですねー。

 そうですよ、昨日、童貞さんを罵った小さい女の子ですよー」


 立ち上がってニコニコと微笑む天使のような優しい顔と、ひどい言葉との落差に、ウっと僕はうめいた。

 その声、その丁寧な罵倒、間違いなく、昨日のあの小さい女の子だった。


 ただ、一つ異なるのは、あの小さい女の子が、この高校の制服を着ているということだった。

 何度、目を瞬いても、間違いなく、学生服姿のショートボブの小さい少女が目の前にいる。


「えっと、それで何か用?

 早くしないと次の授業が始まるんだけど」


「えーっ?

 女の子突き飛ばして謝罪の一つもないんですかー?

 それに、私が高校生の合法ロリだったの?とかの質問もなしですかー?」


 ほらほらと僕の腹を小さい拳で小突いてくる。

 すみませんでしたとぼそっと呟やくだけ呟いて、ここは逃げるが勝ちとばかりに僕はいきなり走り出した。


「僕はロリコンの変態童貞です僕はロリコンの変――」


 渡り廊下に、大音量で僕の声が響き渡る。

 はたと止まって、急いで回れ右をして少女の元まで走った。


「いい気になりやがって、何するんだ、コノヤロー」


 大声上げて、少女が持つスマホに向かって手を伸ばす。

 あとちょっとでつかめるというところで、いきなり僕の手首を誰かがつかんで腕ごと上にあげた。


「女の子に手をあげるなんて、何やってんの。

 この屑」


 正直言って、人生終わったと思った。

 これから警察を呼ばれて、連行されて服役して、刑務所から出て、犯罪者として蔑まれて生きて、野垂れ死ぬまでの全てが一瞬の間に脳裏を駆け巡った。


 体感としては人生一回分を終えた後、ゆっくり、僕の手首をつかむ手から視線を移して、その手の持ち主を確認する。


「昨日と言い、今日と言い、本当に屑の中の屑ね」


 苦虫を噛み潰したような顔で僕を見下ろしていたのは、昨日、僕が不可抗力で押し倒してしまった、宮島澄那さんだった。

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