06 over extended.

「おわっ」


 窓から誰か入ってきた。


「えっ。えっ何。どういうこと?」


 彼女がいる。


「ちょ、ちょっと待って」


 とりあえずバスタオルを持ってきて、浴室へと誘導する。


「ねえ」


「いやいやいや。ここ何階だと思ってるんだよ」


「風邪ひいて、ないの?」


「あ、風邪気味だけど。だって死んだやつの幽霊見えるし」


「え?」


「え?」


「わたし。生きてるけど」


「え。生きてんの。余計に混乱するんだけど俺」


「あなたが。風邪。ひいたと思って」


「そっか。まず風呂入りなよ」


「うん」


「俺さ。精神的に追い詰められたとき、身体の免疫機能上がるみたいで。おれ自身はじめて知ったんだけど、今、風邪ひいてないんだ」


「そっか」


「おまえが死ぬって。そう、言ってから。ごめん。なんか、急にしんどくなってきた」


「あっ。わたしが生きてるってわかったから」


「そうかも。ごめん。先に寝ていい?」


「あっ。あっあっ。ごめんなさい。わたしが来たからあなたの調子を狂わせてしまった」


「なんでさ、死ぬなんて。いや、いいや。どうせ、あれだろ。俺に言えないことなんだろ」


「仕事。官邸直属で働いてるの。戸籍上不具合が発生するから、定期的に死なないといけなくて、でもそれを説明しちゃだめだから、あんな感じになっちゃって。ごめんなさい」


「そっか」


「立てる?」


「ちょっと難しい」


「抱っこするね」


「ありがと」


「よいしょ」


「なあ」


「うん?」


「なぜお姫様抱っこ?」


「だめ?」


「いや、いいや。おねがいします」


「よいしょ」


「おまえの身体。暖かいな」


「お風呂上がりですから。身体も頑丈ですし」


「なんで泣いてんの?」


「え?」


「おまえが泣いてるの、初めて見た」


「わたしも自分が泣いてるの、初めて知った。もっと涙って、こう、声をあげて泣くものなのかなって。なにこれ。ただ流れてるだけじゃない」


「いきなり声をあげて泣かれても俺が困るよ」


「ねえ」


「うん?」


「好き。ごめんなさい。わたし、生まれたときから、ずっとひとりで。あなたに好きだと伝えられる自信が。あれ」


 寝てる。疲れたのかな。


「おやすみなさい」


 これからは毎日伝えるね。



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