走る。雨のなかを。

 連絡がつかないし、諸々に問い合わせても彼の姿を見たものがいない。

 傘を差さずに走る。風が強くて道を走るのが面倒なので、屋根を伝って彼の家まで一直線にストリートクライミング。


「くそっ」


 こんなふうになるなら、最後のメッセージは元気でねという文言にすればよかった。きっと彼、風邪ひいて寝込んでる。


「よいしょ」


 マンションをよじ登って。彼の部屋の窓。

 ピッキングして。

 部屋に入り込もうとして、一瞬 躊躇ちゅうちょ

 もし、わたしではない女性がここにいたら。なんて言おう。わたしにとっては彼ひとりだけだけど、彼にとってわたしが、唯一であるとは限らない。


「でも」


 それでも。彼に逢いたい。

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